第292話 new brave:新たなる国へ





 始まりはかなり単純なものだった。

 克也とミルが他の国の異世界人に会うことになって、イエラートに立ち寄っていた正樹達が一緒に行くことになった。

 その際に克也がギルドでの依頼を受けてみたいと言って、正樹がいるのなら問題ないだろうと判断して異世界人に会う前に全員で『とある国』の森に入った。

 けれど歩き始めて少しした時だ。

 不意に正樹が顔を顰める。


「どうした、正樹?」


 急に雰囲気が変わったことに気付いたニアが声を掛ける。

 すると正樹は警戒したまま、


「いや、何て言うか……こっちに行くのは止めておこう。薬草採取は他の場所でも出来るはずだから、そっちに行こう」


 向かう予定の場所からズレるように正樹は進行方向を変える。

 ニアはもちろんのこと、克也とミルも正樹の判断に首を傾げた。


「どうしたんだ、正先?」


「空気が悪いって言えばいいのかな。凄く嫌な予感がするんだよ」


 直感がそのまま進んでは不味いと囁いていた。

 もちろん、ただの勘で済むのならそれでいい。

 けれど言い出したのは他の誰でもないフィンドの勇者。

 だからミルは不思議そうにしながらも確認する。


「マサキでも、駄目な感じ?」


「どうにか出来るとは思うけど、自信を持って大丈夫とは言えない感じだよ」


 あの正樹がここまで言うとなると、誰も反論する余地がない。

 なので目的地を変えて、そこで薬草採取をして依頼を終わらせる。

 克也にとっては初めての依頼ではあるし、達成感があるにはある。

 しかしながら正樹の直感がどうしても気になっていた。


「正先、この後はどうするつもりだ?」


「二人には悪いけど、この国の異世界人に会うのは後回しにしたいんだ。先に会っておきたい人がいる」


 問題ないかな、と尋ねれば二人とも素直に頷いた。

 公式にこの国に向かったわけだが、ギルドで依頼を受けたいと言ったので日数の余裕もある。

 どこかに寄るぐらいは何の問題もない。


「それで正樹、誰に会うつもりなんだ?」


 ニアが問い掛けるも、表情に困惑している様子はない。

 誰に会いたいのか分かっているのだろう。

 だから正樹も笑顔を浮かべて頷いた。


「優斗くんだよ」





       ◇       ◇





 トラスティ邸でのんびりしていた優斗は、愛娘を抱っこしながら四人のことを出迎えた。

 そして話を聞き終えると、納得したように頷いた。


「正樹が危機感を持ったのなら、行かなくて正解だよ」


 優斗は正しい判断をした四人に拍手を送る。


「勇者の第六感ってのは馬鹿に出来るものじゃない。正樹が自信を持って大丈夫と言えないのなら、間違いなくヤバいと思っていいね」


 優斗からすれば最高の勇者と褒め称える正樹の直感だ。

 そこに間違いなどあるはずがない。


「正直、そのまま突き進んだら死闘になった可能性は高いと思う」


 何がいるのか、どうなっているのか。

 まだまだ分からないことだらけだが、完全に危険な案件だ。


「それに正樹でもヤバい案件ってなると、一緒に向かう人は限られてくる」


「じゃあ、優先も一緒に来てくれるのか?」


 克也が期待する目で見てくるが、優斗は軽い調子で肩を竦めた。


「最近、ちょっと働き過ぎな自覚があるんだよね。だから僕じゃなくて、代わりの奴を連れてってもらおうかな」


 優斗はそう言うと、にんまりと笑う。


「いるでしょ、僕と〝同等〟の奴が」


 マリカを抱っこしながら立ち上がって、優斗が広間から出て行く。


「ちょっと待ってて。色々なところに話を回してくるから」





 一時間後、優斗はトラスティ邸に戻ってくると一人の少年を連れてきた。

 頭を掻きながら広間に入ってきた少年は、ちょっとだけ難しそうな表情をさせて、


「いや、まあ、別にいいっちゃいいんだけどよ。一応、俺ってリライトの勇者なんだけど」


 修としてはリライトの勇者に込められている『意』が『国を守る』だからこそ、そんな簡単に国外に行っていいものか悩む。

 けれど優斗は全く気にした様子なく言い放った。


「そこら辺は王様に話は通してあるよ。というか修はもう少し国外に出たほうがいいっていうのが共通見解だから、今回は僕が居残りをするってわけ」


 気楽そうに言うものだが、表情がどうにもこうにも胡散臭い。

 なので修は真っ正面から尋ねる。


「……本音は?」


「今回こそ僕は嫁の可愛さと娘の愛らしさに負けて国外には行かない!」


 恥じることなく堂々と言い切った優斗。

 抱っこしたままのマリカも父親の堂々とした言葉に、面白がってきゃっきゃと喜んでいる。


「大丈夫だよ、ちゃんと修のお守りも一緒に行く手筈にしたから。ニア一人じゃさすがに可哀想だからね」


 そう言った途端、広間にもう一人の少年が入ってきた。

 途中から話を聞いていたのか、納得した様子で皆に挨拶する。


「それでオレが選ばれたわけか」


「修のお守りに正樹達と面識があって……となると、適任は卓也かクリスぐらいしかいないからね」


 卓也は優斗の話を聞いて、否定する要素がどこにもないのか特に騒ぐこともない。


「クリスのところは新しい妹が出来て色々と大変だろうし仕方ないか」


「でも俺はまた卓先と一緒に行けるのは嬉しいぞ」


「タクヤ、わたしも、嬉しい」


 克也とミルが嬉しそうに声を掛ける。

 卓也は二人に近付いて克也の頭をポンと叩いた。


「そういえば朋子はどうしたんだ?」


「あいつは教官と訓練を頑張ってて、ルミカはそれを見守ってる」


「だったら今度、労ってやらないとな」


 朋子も守護者となるべくして頑張っているだろうから。

 卓也はそう言ってから、改めるように確認を取る。


「結局のところ、これからどこに向かうんだ?」


 正樹に尋ねると、フィンドの勇者は柔らかい表情を浮かべて伝えた。


「異世界人がいる国――ウィノスト王国だよ」





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