第291話 小話㉘:シルヴィと初めての友達
リライト魔法学院のとあるクラスでその日、衝撃が走った。
「今日、編入することになりましたシルヴィア=ファー=レグルと申します」
嫋やかに頭を下げたシルヴィ。
しかし名乗った家名が公爵家だけに何事かとクラス中が騒ぎ出す。
けれどあらかじめ説明を受けていた担任がシルヴィの事情を簡単に説明して、それから席に着席させる。
シルヴィは隣にいるクラスメートにも丁寧に挨拶をした。
「シルヴィア=ファー=レグルと申します。これから学友として、よろしくお願い致します」
「貴女のことは知ってるわ。今後、長い付き合いになるだろうからってクリス先輩から学院とかの案内役に抜擢されてるのよ」
隣の席にいる少女は公爵令嬢に対しても普通に接して、それから名乗った。
「キリア・フィオーレよ。こっちこそ、よろしく」
軽く挨拶していると、担任が教室から去ったのでクラスメートがシルヴィのところに殺到しそうになる。
けれどキリアが手を前に出して制した。
「彼女に面倒掛けると、すでにシスコン入ってるクリス先輩が出張ってくるわよ。それにわたしが色々と案内するように言われるから今は散りなさい。ゆっくりクラスに馴染ませるよう言われてるから話す機会は今後、たっぷり作ってあげるわ」
◇ ◇
上手くキリアが音頭を取ったこともあり、シルヴィは比較的落ち着いて学院に編入することが出来た。
もちろん他の学年、クラスから覗き込まれることもあったが、そこはキリアが威嚇しながら防御する。
お昼休みもケインを使って、生徒会室でゆっくりと食事を摂った。
そして放課後はキリアが訓練の休養日ということもあり、シルヴィを連れて商店街を練り歩く。
「そういえばキリアさんはお兄様とお知り合いなのですよね?」
「クリス先輩とは時々、指導がてら戦ってもらってる関係なのよ。それとわたしは先輩――貴女の主の弟子なのよ」
だからキリアが案内役に適任だと言われて選ばれた。
シルヴィは驚いた表情を浮かべながらも、
「我が主の弟子なのですね。であれば、さぞ素晴らしい魔法士と見受けます」
「残念ながら才能はないわよ。先輩はそこらへん、気合いと根性で乗り越えろ派だから弟子になれたってわけ」
「よく理解致しました。これから、さぞ素晴らしい魔法士になる方なのですね」
今は違うかもしれないが、未来はそうなるだろう。
だからシルヴィは言い間違えたことを簡単に訂正した。
自分の主であれば、きっと結末は変わらないだろうことを知っているから。
「それとわたし、どうしてか身近な人と呼び方が被るのって嫌なのよね。だからシルヴィじゃなくてシルって呼ぶことにするわ」
「かしこまりました、キリアさん」
新たな呼び方ではあるが、それはそれでとても嬉しいことだ。
笑みを浮かべて了承したシルヴィに対して、キリアは淡々と同じことを要求する。
「同い歳だし弟子と家臣で似たような間柄なんだから、シルもわたしのことを呼び捨てにしなさいよ」
唐突に降って湧いた話題に、シルヴィは少し狼狽えてしまう。
「よ、呼び捨てですか!?」
「どこにそんな驚く要素があるか分からないけど、呼び捨てで呼んで貰ったほうがわたしは気楽よ」
そもそも公爵令嬢に対して、こんな態度を取っていることが異端。
とはいえ、いつも通りの態度で接して欲しいと彼女の兄やら師匠に言われている。
だからこその提案だ。
一方のシルヴィは狼狽えた表情のした後、ちらちらとキリアのことを見ながらも意を決して言ってみる。
「……キ、キリア?」
「そんな恥ずかしそうに言わないでくれる? わたしも恥ずかしくなりそうだから」
「で、ですが、わたしは誰かを呼び捨てにしたことがありませんので……っ!」
「だったらわたしが一人目でいいでしょうが。どうせ長い付き合いになるんだし」
大魔法士の右腕と弟子だ。
これから何十年と付き合うことになるだろう。
だったら、今のうちに仲良くなったところで問題などあるわけがない。
そしてシルヴィは今のやり取りで、一つ気付いたことがある。
「こ、これはもしや『お友達』というものになれたのでしょうか!?」
「もしやも何も友達でいいでしょ? わたしはシルって呼んでるわけだし、そっちもキリアって呼び捨てにしてるんだから」
簡単に言うキリアだが、シルヴィにとっては衝撃的な出来事に等しい。
何せ今まで一人として友達などいなかったのだから。
「お友達……。ふふっ、わたしもついにお友達が……」
とてつもなく嬉しそうな表情をさせるシルヴィに、キリアは呆れてしまう。
随分と大人しめで普通な貴族の令嬢かと思えば、やはり極悪非道である優斗の家臣になるだけあって変な部分があった。
「あっ、シルヴィ先輩とキリア先輩!」
と、その時だ。
シルヴィにとっては聞き覚えのある声が響いてきた。
「レンリさん?」
「はいっ! シルヴィ先輩が今日から学院に通ってたのは聞き及んでいたので、会えて嬉しいです!」
二人のことを発見したレンリがシルヴィに飛びつく。
シルヴィは上手く彼女をキャッチしながらも、嬉しそうに微笑む。
「学年が違うことであまり会えることもないと思っていましたが、レンリさんにすぐに会えてわたしも嬉しいです」
放課後はシルヴィもある意味で大変になるだろうし、レンリは生徒会の一員だ。
滅多に会えることはないと思っていたが、思わぬ出会いに互いに頬が緩む。
「それと聞いて下さい、レンリさん。何とわたし、お友達が出来ました!」
満面の笑みで初めての友達を見つめるシルヴィ。
レンリはキリアをじっと見ると、シルヴィにぎゅっと抱きつき直した。
「キリア先輩、後輩の座は渡しませんよ!」
「同学年なんだから、いらないわよそんなの」
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