第289話 小話㉗:リクエストその2 龍神の力の一端





 トラスティ家の広間では、和泉が紙の束をパラパラと捲ってマリカに見せていた。


「絶体絶命のリル王女。そこにやってきのは――なんと、卓也だ!」


「あう~!」


 コマ送りのように書かれている画が動いている。

 マリカがキラキラした目でパラパラマンガを楽しんでいた。

 一緒にいるココとクリスが呆れたように彼らの様子を見ている。


「ズミさん、暇なんです?」


「新しく妹も出来ましたし、ユウトからの依頼や母上がイズミにお気に入りのアクセサリー製作を頼んでいるので案外忙しいはずなんですが、それとこれとは別なのでしょう」


 二人が話している間にも、物語は進んでいく。


「『オレがリルを守るっ!』と言い切った卓也は、右手を軽く広げる。すると――」

画から光ったような強調線が描かれ、


「――卓也が戦闘衣装へと変身した!」


「た~いっ!!」


 画には優斗達が着ている服と一緒のもの、そして手にはいつの間にか杖が描かれている。


「そして敵をばったばったとなぎ倒し、無事に卓也はリルを救った」


「たくや、つおーいっ!」


 パラパラと捲られている紙の束が止まった。

 和泉は満足げ。

 マリカは先ほどの光景を思い浮かべては、ニコニコしている。

 すると、だ。マリカが立ち上がる。

 そして右手をぴょん、と横に振っては、


「ぴぁ~、きゅ~ん!」


 さっきの変身シーン? の真似事のようなものを始めた。

 何度も真似したところで、満足したのか何度も頷く。


「さっきの真似でしょうか?」


「だと思います」


 クリスとココが微笑ましくマリカの様子を見る。

 と、その時だった。

 いきなりマリカが右手を挙げてぐるぐると回し始める。


「あう~あう~あう~」


 和泉達は幼子のやることだろうと微笑ましさを持っていた。

 だが、ふとクリスが気付く。


「あの……何だか尋常ではない力が集っているのですが」


 マリカの手がほのかに輝き始めた。

 遅れてココや和泉も気付いた。

 今、マリカの手には“優斗達が普段、神話魔法を使っている以上の魔力”が集まっている。


「あうううううぅぅぅぅっっ!」


 さらに手が極光を放った。

 眩しさにクリス達の目が眩む。

 そして、


「あうっ!!」


 光が収まると、マリカの手には三つの腕輪が存在していた。


「……何が起こった?」


 和泉が思わず、問い掛ける。


「いや、自分には理解できていません」


「わたしもです」


 というか、あの手にある腕輪は何なのだろうか。

 すると、ちょうどいいタイミング? で卓也が広間へとやって来た。


「お~い。なんかめっちゃ光ってたけど、和泉が何かやったのか?」


 問い掛けながら入ってきた卓也だが、和泉達は呆然したまま。

 代わりにマリカがものすごく目を輝かせた。


「たくや、たくやっ!」


 ててて、と駆け寄ると腕輪の一つを卓也に差し出す。


「あいっ!」


 にこにこと、満面の笑みのマリカ。

 そこでクリスが気付いた。


「ああ、なるほど」


 あの腕輪が何なのか、理解できた気がする。

 卓也は来た瞬間なので意味が分からない。


「クリス。これ、どうすればいいんだ?」


「すみませんが嵌めてあげてください」


「まあ、いいけど」


 差し出された腕輪をマリカから受け取り、嵌める。


「そして右手を広げながら、腕輪に魔力を込めてみてください」 


「分かった」


 キィン、と輝かんばかりの光が広がった。

 次の瞬間、


「……はえっ?」


 優斗と修が来ているのと同等の服装に、着替えられていた。

 背に薄い緑色の紋章がばっちりと付いている。

 以前、マリカの誕生日に貰ったやつをおなじものだ。

 しかも手には杖が存在している。

 和泉が珍しく半笑いになった。


「まさかとは思うんだが……」


「……龍神が創りし武器――神杖でしょうね」


 クリスも乾いた笑いを零してしまう。


「シュウの神剣とはまた、別物でしょうか?」


「魔法陣から生まれている以上、あいつらのあれは同じ威力を持った別物だ。変わりないから神剣と呼んでいるだけで、あくまで現物というわけじゃない」


「……幾つか博物館に保存している眉唾物を見たことはありますが……実際に使い手となると、世界にいるのでしょうか?」


「どこかにはいるかもしれないが……パラパラマンガで神杖が出来るのか。しかも変身機能付き」


 こんなもの、誰だって想像できない。

 というか無理。


「……マリちゃん。変身、見たかったんですね」


 ココが呆れる。

 絶対に主な機能はそっちだ。

 武器はそっちのけ。


「杖としての能力はおまけ程度だろう。それでも防御系の神話魔法一つくらい使えそうだが」


 あくまで変身がメイン。

 武器に何かしらの能力があるとしたら、それはおまけでしかない。


「ただ、イズミ。自分は少々気になっているのですが……」


「お前もか。俺もだ」


 そう。

 マリカの手には未だ、二つの腕輪がある。

 ということは、


「くりす、いじゅみ!」


「……やはり自分達のでしたか」


「だろうな」


 キラキラしたマリカの目がクリス達に突き刺さる。

 勝てるわけもないので、二人共マリカから腕輪を受け取り魔力を込めてみる。

 ……案の定、着替えてしまった。

 クリスの背には薄い青色の紋章。

 和泉の背には紫色の紋章がばっちりと存在する。

 ついでにクリスは細剣で、和泉には銃があった。


「……神剣ですね」


「神銃……と呼べばいいのか」


「おまけ、なのでしょう」


「ああ、おまけだろうな」


 しかしマリカが大はしゃぎしているので、喜んでいいのか何なのか、どうしていいか分からない。

 と、一番最初に着替えてしまった卓也が呟く。


「……誰のせいだ?」


「イズミです」


「ズミさんです」


 瞬間、卓也の怒声がトラスティ家に響いた。







 そして後日、王様とアリーは頭を抱えていた。


「……父様、事実ではありますが本当に大丈夫でしょうか?」


「変身機能のおまけで龍神の創った武器が付いてきました、と言って理解ある他国があるか不安だ」


 一応、試してみたが凄まじい切れ味であったり頑丈であったりと、想定以上の能力を有していなかったんは幸いだった。

 ついでに言えば、本人以外には使えないことも判明している。

 それと、とりあえずではあるが変身しないで武器の取り出しも可能のようだ。


「……この件は本当に各国へ報告したくないものだ」


 あまりにも胡散臭く、胡乱げに見られるのが分かっているのだから。





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