第264話 これはきっと、そういう物語





「賢明な人間が僕を引っ張り出し、何かが起こっていると教え、そして馬鹿な王を演じた」


 これが優斗が一番、納得のいく答えだ。


「おそらくは僕に何かして欲しい、といったところだろうな」


 それが何なのかはまだ、分かっていない。

 着地点を優斗は予測しきれていない。


「ですが何故、それをお伝えしなかったのでしょうか?」


 女性の近衛騎士が不思議そうに首を捻る。

 けれど優斗はリヴァイアス王の行動に理解を示した。


「僕のことを少しでも知っていれば分かることだが、普通に伝えただけでは断られると思ったんだよ」


 他国の自身が関わっていない問題に、わざわざ首を突っ込む。

 当事者になるのならまだしも、目に見えた利益があるならまだしも、そうではない場合に優斗が動くことはほとんどない。


「そこで考えられる手段としては僕に興味を持たせるか、対応したほうが楽だと思わせたいか、どちらかになるだろう」


 そう言って優斗はロレンとロニスに問う。


「知りたくないか? どうしてリヴァイアス王が演技しているのか、その理由について」


 二人は確かに、最近のリヴァイアス王がおかしいとは思っていた。

 けれどその理由を知らない。


「……敬愛する王の思考を読むこと、私もロニスも固く禁じています」


「お前達に刻まれた神話魔法を使うわけじゃない。大切なのは知りたいか否か、お前達自身の気持ち次第だ」


「私達の気持ち……次第」


「だから知りたいと思ったのなら、それは駄目なことじゃない」


「……はい。ありがとうございます、大魔法士様」


 彼らの能力を知ってから、今日のような商談をやっていたわけではない。

 リヴァイアス王は突然、二人の能力を使い始めた。

 そこに、何かしらの意図が見え隠れしている。


「リヴァイアス王は次に何かしらの問題を見せつけるはずだ」


「問題……ですか? どうして、そのように思われるのでしょうか?」


「最初の会談は違和感を見せつけてきた。となると、それが疑問になるよう思わせる必要がある。頭の良い王であれば、順序はしっかりと守るだろう」


 女性騎士の疑問に優斗は淡々と答える。

 あまりにもわざとらしい展開の商談で、どうぞ違和感を抱いてくださいと言わんばかりの状況だ。

 優斗に何かをやらせたいのであれば、次は必ず違和感を疑問に変えてくる。

 大魔法士の言葉に部屋の中の緊張感が増した瞬間、当の本人が空気を弛緩させるように、ふっと表情を和らげた。


「とはいえお腹が空いたので、とりあえずは昼食にしたい。お願い出来るか?」





 簡単な軽食を届けてもらって、優斗はそれを食べながら雑談ぽいことを始める。


「ロレンとロニスは執事とメイド以外に、やりたいことはあるのか?」


「やりたいこと……ですか?」


 ロレンが聞き返すと、優斗は頷く。


「やりたいことでもいいし、趣味でも構わない。何かあるのか?」


 次の情報が入ってこない限り、考えることもないのだろう。

 本当にただの雑談のようなものを訊かれて、ロレンとロニスは困惑しながらも問われたことにはっきりと答える。


「私はいつか、執事の傍ら学者の真似事が出来ればと思っておりました」


「私は優秀なメイドになれたらな、と。だから今はやりたいことを頑張ってる感じです」


「へぇ。そうなの――」


 と、その時だった。

 優斗が何かを察したかのように言葉を途切れさせた数秒後、扉が乱暴に叩かれる。

 近衛騎士二人は咄嗟に構えを取り、執事とメイドは突然のことに扉を注視した。

 けれど優斗だけは、僅かに目を細めると近衛騎士に命令する。


「追い返せ」


「かしこまりました」


 命令された近衛騎士二人は、扉を開けたと同時に外へ出る。

 どうやら騒いでいるようだが、優斗としては知ったことではない。


「どなたが、こちらへ?」


 ロレンが問うと、優斗は大きく溜め息を吐いた。


「リライトで一番、醜態を晒した無能だ。謝りに来たようだが無駄なことを」


「謝られても許さない、と?」


「許さないじゃなくて、許されない。暴言を再び吐いた時点で、僕がリライトに利する行動は絶対に出来ない。一度目でさえ甘い判断を下したのだから、二度も暴言を吐けば謝罪したところで覆すことは不可能だ」


 悪いことをしたから謝罪する。

 それは当然だが、取り戻せる分水嶺は過ぎている。

 引き返せない場所から謝ったところで、何かが変わるわけではない。


「リライトだから許されないこともある」


 それぐらいは分かって欲しいものだ、と優斗は思う。

 しばらくして近衛騎士二人が戻ってくる。


「ちゃんとリライトの部屋に追い返しました」


「よくやってくれた。向こうの様子はどうだった?」


「最悪でしたよ。これ以上の不興を買って何がしたいと商談チームには怒鳴られ、同僚の近衛騎士は完全に珍獣でも見る目でした」


「というより、無能はどうして単独行動を許されたんだ?」


「食事が終わって席を立ったので、トイレだと思ったようですよ。さすがに話題に出ていれば同僚が止めます」


「だろうな。どうにも残念なことだ」


 ちょっとしたイベントがあったことで、時間はちょうどよくなった。

 優斗は立ち上がって準備する。


「この先、どうなることやら」


 何が問題となるのか、優斗にはまだ分からない。

 けれどそれはきっと、分かりやすく示されるのだろう。



       ◇      ◇



 優斗がするのは商談ではなく会談……というよりは、何かしらの話し合いだ。

 それが何なのかは知らされていない。

 ロレンとロニスに案内されて、再度先ほど商談した部屋に到着する。

 すでにリヴァイアス側には中央に一人座っていて、増長しているような表情を浮かべていた。

 歳は三十歳になったかなってないか、ぐらいだ。

 けれど見た目がリヴァイアス王に似ていることから、少し関係があるのかもしれない。

 背後には近しい歳の男性陣が立っている。

 とはいえ先ほどはいなかった顔だと思って優斗が座ると、


「さて、始めさせてもらうとしよう」


 いきなり話を始めようとした。

 先ほどのリヴァイアス王とは違い、こいつはただの馬鹿だと判断した優斗。

 ロレンも不躾な態度に苦言を呈す。


「お待ち下さい、グロウ王子。まだ王がお見えになっておりません」


「父にはすでに話を付けてある。お前のような執事風情が次期国王に苦言を呈すなど、身の程を知れ」


「……申し訳ありません」


 ロレンは言われたとおり、すぐに引き下がった。

 けれど優斗は面白そうに笑みを零す。

 これか、と何度も内心で納得してしまった。


「次期国王、ということはリヴァイアス王が退位することは決まっているのか?」


「近々、父は王位を退くことになっている。そして私が即位するのだ」


 理解をしたように頷く優斗。

 けれどグロウはすぐに言葉を続けた。


「だが私になったからといって、今と同じことが起こらないと思わないほうがいい。午前中に行われた商談は、私も同様に出来ると考えてもらって結構だ」


 まるで自分も凄いと言っているように自慢するグロウ。

 しかしながら、何が起こったかのか気付いている優斗にとっては呆れてしまう内容だ。

 演技をしていたリヴァイアス王と違って、目の前にいる馬鹿は本当に自分の力だと勘違いしていそうだからだ。


「もちろん貴方の対応次第では、リライトに対しても世界各国に対しても今まで通りにしてやろう」


 傲慢な言い方も加わり、優斗はさらに呆れる。

 出会って一分でこれほど醜態を晒せるのも凄いと、逆に感心してしまう。

 このような王族には久々に出会った。

 というか、ある意味で面白いミラージュ聖国のマゴスや、凄まじくプライドだけが高いライカールの王女様よりも憐れな姿は、今まで優斗が出会った王族の中で最下層。

 変な王族に出会うのは、優斗の謎な運命力がなせる技なのかもしれない。


「貴方の行動次第で世界の命運が決まる。世界中から恨まれるのは、望むところではないはずだ」


「恨まれたところでどうでもいいが、随分と礼儀のなっていない交渉だ。自己紹介すら出来ないとは、どういう教育を受けてきたんだ?」


 とりあえず優斗としても状況は理解した。

 後はどれほど馬鹿なのかを確かめるように暴言を吐く。


「僕に何を交渉するつもりかは分からないが、どうでもいい。見知らぬ子供の我が侭に付き合うほど僕は優しくない」


 ハッ、と笑い飛ばす優斗。

 これでどうなるだろうか、と興味深く観察する優斗だったが、その後のグロウの行動が見物で傑作だった。

 侮辱されたことに顔を赤くして歪ませて、さらには優斗の背後にいるロレンとロニスへ必死に視線を送る。

 リヴァイアス王と違って、あれほど視線を動かせば背後に何かあるのは確定だ。

 というか立ち位置の指示すらしていないだろうから、呆れるほかない。

 そしてウロウロと視線を移動させる先にロレンとロニスがいるのだから、二人には何かしらあると教えているようなもの。

 あまりの醜態に優斗は笑いそうになる。

 確かにこれだと、ロレンとロニスに疑問を抱ける。

 お見事、とリヴァイアス王に賞賛さえしてしまう優斗。

 おそらく午前中の交渉はきっと、グロウの行動を真似て行ったものだ。


「どうした? 僕の後ろには近衛騎士二人と執事、メイドしかいない。気になることでもあるのか?」


 くつくつと笑う優斗に対して、グロウは憤りながらもロレンとロニスを睨む。

 けれど二人は大魔法士の思考を読めないから、何も出来ることはない。


「貴様ら……」


 そのことに苛立ったのだろう。

 突然、グロウは立ち上がってロレンとロニスに詰め寄ろうとする。

 無表情ながら怯えた二人だが、優斗は近衛騎士に命じて二人を守るよう立たせた。


「なっ……!?」


 どうして止められたのか分からないのか、憤りながら近衛騎士二人に体当たりするグロウ。

 その姿を見た優斗は、我慢が出来ないとばかりに声を震わせる。


「も、もう、勘弁してくれ。挨拶出来ないどころか、人間失格が次の王とか、僕を笑わせようとしないでくれ……っ」


 疑問となるようにリヴァイアス王が仕向けている、と。

 そう読み解いた優斗だったが、だからといってこんな物体が現れるのは予想出来ない。

 どうせ次の王になるのも、手の平で転がすことがあまりにも簡単だったから、野心ある貴族達が満場一致で決めたことだろう。

 事実、グロウが王となった時の側近となるであろう連中は、あまりの失態に呆然としている者もいれば、未だ余裕を崩さない者もいる。

 その中で優斗だけが異様だ。

 何度も大きく深呼吸をして、必死に笑わないように堪える。


「でも、まあ、久々の傑作だ。王族でも駄目な奴に会ったことはあれど、まさか今までの最低を突破してくるとは思わなかった」


 優斗が出会った中で最低の王族は誰かと問われると、おそらくはミラージュ聖国のマゴスか、ライカール王国のナディアになる。

 単純馬鹿のマゴスと性格最低のナディアで悩みどころのところに、まさかのハイブリッドが現れるとは。


「こ、この私を馬鹿にするのか貴方は!」


「別に馬鹿にしたくてしてるわけじゃないんだが……」


 未だ近衛騎士二人の守りを突破しようとしているグロウ。

 そして懲りずに何度も跳ね返される。

 笑わずにいるのも限界だった。


「というか、もう無理だ……っ」


 突然、堰を切ったように優斗は笑い始める。

 本当に可笑しそうに、眦に涙すら浮かべて。

 このような場で笑ってはいけないと分かってはいるが、それでも笑えるのだから仕方ない。

 そして何度も大きく深呼吸して、ようやく笑いが収まってきた。


「いやはや。一つの国が身体を張った冗談をすると、これほどまでに笑えるものなんだな」


 幾ら何でも身体を張りすぎだろうとは思う。

 まあ、これほど残念な人間が王になるのなら、一年も持つことはない。

 というより優斗でさえ、どのような形でグロウが転落していくのか読み切れない。

 クーデター、民衆の反乱、他国の制圧、大魔法士の圧力。

 普通はもう少し絞れるものだが、これだけ全方面に喧嘩を売れるのは凄い。

 かといって、このまま笑い続けるのも駄目だろう。

 優斗は眦に浮かんだ涙を拭ってグロウに問い掛ける。


「それで結局、お前は何がしたくて執事とメイドに近付いた?」


「決まっているだろう! 仕事をしない人間には躾をしなければならない!」


「……躾? この二人は僕付きの執事とメイドだ。僕が王城で過ごしやすいよう、しっかりと仕事をしているのに何の躾をするつもりだ?」


 本来は優斗の指示を優先するだけだが、優斗付きと話を盛っていいだろう。

 そのほうが分かりやすくなる。


「貴方に言う必要はない!」


「あるに決まっているだろう。お前が問題とした内容次第では、僕がそんなことも許せない狭量な人間だと吹聴される危険がある。醜聞は御免被りたい」


「だから、それは……っ!」


「それは、何だ? さっさと教えろ。お前の言い分に納得するか反論する必要が僕にはある」


 まあ、どうせ読み取った思考を教えないことに怒鳴るだけだろう。

 かといって、自分が躾だと言ったことを優斗に教えることは出来ない。

 それぐらいはさすがのグロウも分かっているようだ。

 優斗を睨み付けるだけで、言葉を発することはない。


「先ほどの件もそうだが、世界中の国が『大魔法士が言うことを聞かないので、皆に被害を与える』と言っていたが、素直に僕に怒りを向けると思っているのか?」


 向けてきたら向けてきたで、優斗は嬉々として潰す。

 だが普通に考えたら、どう考えても問題は大魔法士ではない。


「子供の癇癪だと思って、世界中の国が結託しリヴァイアス王国を潰すだけだ」


「はっ、馬鹿なことを! 流通の拠点を潰せば、どうなるか分かっているのか!?」


「いや、この国の王族も貴族も全部切り捨てて乗っ取ればいいだけだ。早い者勝ちだから、我先にと仕掛けてくるぞ」


 大義名分はわざわざリヴァイアス王国が用意してくれたのだから、しっかり使うだけだ。


「それとも僕を怒らせて潰されたいのなら、色々とやってやるのも吝かじゃない」


 その場合、リヴァイアス王国の近くにはきっと、謎の孤島が出現することだろう。

 まあ、そうなると海流も変わってしまうだろうから、どうしてか海流が早くなってしまったリヴァイアス王国に船を着けることは難しくなってしまう。

 何故か天候不順も相俟ってしまうので、余計に厳しいことになる。

 おそらく地震も頻発してしまうだろう。

 そして謎の孤島を大魔法士がうっかり見つけてしまえば、リヴァイアス王国の現状を鑑みて、ここを皆で共有して使おうと言うはずだ。

 そうなればリヴァイアス王国など、何の意味もなくなる。


「とはいえ先ほど言ったように、どうでもいいことだ。お前の要求とやらに興味はない」


 優斗はそう言うと立ち上がる。

 そして近衛騎士二人にロレン、ロニスを引き連れて出て行こうとした。


「待て、その二人は残せ!」


「理由を話さなかったお前に、そんな権限が存在するわけないだろう」


 近衛騎士が先導して扉から出る。

 ロレンとロニスが続いて、最後に優斗が振り向きながら部屋から出る。

 けれど扉が閉まろうとする最後、嘲るような表情を向けた。


「いつまで、お前が増長していられるのか見物だな」


 冷徹に伝えて、呆然とする室内の連中を放って部屋から去る。



       ◇      ◇



 先ほど休憩した部屋に戻った優斗は、椅子に座ってロニスに紅茶を用意してもらい、一口飲んでから感想を述べる。


「まあ、あの馬鹿王子が王になったところで一年は持たない」


「……しかし僅かな期間だろうと国は荒れるでしょうね」


 女性の近衛騎士が他人事とはいえ、痛ましそうな表情を浮かべる。


「どうだろうな? この国が一番荒れずに済む方法は、馬鹿王子周辺に存在するだろう不正の証拠を集めて、馬鹿が王となる前に一気に潰すことだ。僕の不況を買ったことも、体よく責める理由になる」


 あの馬鹿王子の周囲もそうだ。

 担いだこと自体、腹に一物抱えていると言っても過言ではない。

 でなければ、あれを次期王に推す必要がない。


「あの馬鹿が僕に対して、失態を犯さないわけがない。だから直接会うことを許したわけだ」


 しかし、それで全て解決することもない。

 仮にリヴァイアス王がグロウを潰すにしても、どうしても一つだけ問題が残る。


「ロレン。二つほど訊きたいことがある」


「何でしょう?」


「馬鹿王子が次の王になると決まったのは、いつの話だ?」


「およそ半年前です」


「次にお前達の能力を知っているのは、どれだけいる?」


「知っているのは王と、孤児院で出会って城で働いている……今日の午前中の商談にいた侍従。あとは王に近しい人間だけなはずです。グロウ王子もいつからか、知っておられました」


「……いつからか知っていた? いや、馬鹿王子だけはお前達の情報が売られたと見たほうがいい」


 グロウとてリヴァイアス王に近いことは近い。

 何せ実の息子なのだから。

 しかし、


「リヴァイアス王が、お前達の情報を馬鹿王子に漏らすわけがない」


 知られてしまえば、どのような扱いになるか。

 それに気付かないリヴァイアス王ではないだろう。


「午前中にいたリヴァイアス王の側近か、侍従の誰かが裏切ってるな」


「個人的な意見で申し訳ありませんが、裏切ったのは王の側近かと」


「その根拠は?」


「あの場にいた侍従は我々と同じく、王を敬愛する者達だからです。さらに私とロニスの能力が秘匿されているのは王命。敬愛する王を裏切る者達ではありません」


「なるほど。どちらでも構わないが、理解はしておこう」


 優斗は情報を把握すると、顎に手を当てて考える仕草を取る。


「あの馬鹿王子のことは、どうであれ勝手に片付く。落としどころについても馬鹿王子の行動を鑑みれば、おおよその見当は付いた」


 リヴァイアス王がどうしたいのか、ある程度は読めた。

 だが、だからこそ優斗は疑問に思った。


「けれどリヴァイアス王がグロウを潰すとしたら、どうして――」


 不思議そうに呟く優斗。

 しかし、すぐ気付いたように考え直した。


「……いや、意外と難しいのか」


 流通の拠点であり、数多の国が入り交じるリヴァイアス王国。

 さらには側近の裏切りに、馬鹿王子もどこまでロレンとロニスの話を漏らしているか分からない。

 上手いこと馬鹿共を一網打尽にしたところで、完璧な結末だと判断することは不可能。


「最後に一つ、ロレンとロニスに質問したいことが増えた」


 優斗は執事とメイドに視線を向ける。

 おそらく質問に対する二人の答えこそ、リヴァイアス王が動いた理由なはずだ。

 だから先ほどと似ているようで、けれど少し違う形で優斗は問い掛ける。


「お前達は〝個人的〟にリヴァイアス王のことを、どんな風に思っている?」


 知りたいのは本心。

 ロレンとロニス、この二人がリヴァイアス王のことを本当はどのように慕っているか。

 二人は顔を見合わせると、ロレンが本人に伝えるのは不敬だと前置きした上で、質問に答えた。


「失礼ながら……父のように慕っておりました」


 この城には孤児院にいた孤児が多く働いている。

 それがリヴァイアス王の政策だというのなら、きっと孤児院にも足繁く通ったことだろう。

 その結果がロレンの言葉に表れている。


「……ああ、やっぱりそうか」


 そして優斗はロレンの答えを聞いて、やっと全ての情報が集まったとばかりに納得した。


「だから、なんだな。かなり話が分かりやすくなった」


 何故、演技をしていたのか。

 どうして、何を企んでいたのか。

 その全てが紐解けた。


「大魔法士様……? 王は一体、何を……?」


「この一連の騒動は全て、お前達のために仕組んだことだ」


 ロレンの問い掛けに優斗は断言する。

 まず、間違ってはいないだろう。


「大切な者を守るために足掻く王がいた」


 幾つもの手段を用いて。

 数多の可能性を見据えて。

 そして――最大の芝居を打って最高の結末を手繰り寄せる。





「これはきっと、そういう物語だ」





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