第201話 闘技大会、再び
――数ヶ月前。
トラスティ家の庭では優斗とキリアが真剣な表情をしていた。
キリアが抜いたショートソードを構えると、優斗が合図する。
「始め!」
「炎舞っ、風雅、水麗、地堅っ!」
叫びながらショートソードに色々と施そうとするキリア。
けれど叫んだことに反応があったのは二つ目まで。
途中で剣に与えられるものはぐちゃぐちゃになり、最後は何も施されていない普通のショートソードのできあがり。
優斗がキリアの頭を叩く。
「0点」
「痛っ!」
スパン、と良い音が鳴った。
「何の為のキーワードか分かってる?」
「……イメージをスムーズに精霊へ伝える為」
頭を撫でながら答えるキリア。
優斗は大仰に頷き、
「そう。言葉を使うことによってイメージを直結させる。これの肝は状況状況によって変化させることが出来るってこと。一個一個は出来たとしても、早変わりさせることが出来なきゃ意味がない」
優斗はショートソードを抜くと、見本を見せるように多種多様の精霊による恩恵を即座に与えていく。
計八種類を見せたところでショートソードを鞘に収めた。
「というわけで練習練習。失敗するごとにタンコブ増えていくからね」
ドゴン、と地面が爆発する音が響く。
優斗の白い目の先には不格好に倒れているキリア。
「右足に魔力を込めて地面を弾くって言ったよね? 爆発させろだなんて誰も言ってないよね?」
「だって爆発しちゃったものは仕方ないでしょ!?」
むくりと起き上がりながらキリアは思いっきり反論する。
けれど優斗は相手にしない。
「イメージがあるからそうなる。衝撃は地面に通すんだよ」
「どうやって?」
「自分で考えろ馬鹿弟子。見本は見せたしやり方も教えた。あとはキリアが感覚を掴むだけなんだから」
師匠は弟子に近付いていくとデコピンをかます。
「それともキリアお嬢ちゃんは一々教えられないと駄目な子なのかな?」
嘲るように宣う優斗。
今までも散々バカにしたように言っているが、相も変わらずバカにした物言い。
キリアが鼻息を大きくして、反抗するかのように言い放つ。
「分かったわよ! 一人でやってやろうじゃない!」
「うん、やってみせなよ」
そして予想通りの反応に優斗は笑みを零した。
◇ ◇
皆で集まって去年と同じく客席でのんびり見ていようとしていたら、とある人物に呼び出しをくらった優斗達。
闘技場の上層にある来賓席と言うべき室内で、何人もの大物が彼らを待ち構えていた。
「また揃いも揃ってるね」
優斗が呆れる。
天下無双にフィンドの勇者、クラインドールの勇者にマイティーの王族などなど。
戦いに興味のある者達が昨日に引き続き揃っている。
そして修は呼び出した人物――天下無双を胡散臭げに睨む。
彼が呼び出した理由は若人達の戦いの内容を強者と共に見聞すること。
「おい、正樹と春香がいるなら俺らいらねーだろ。つーか正樹だけで余裕すぎるじゃんか」
仮にも勇者。
十分すぎるほどに十分であり、特に正樹がいるだけで修と優斗はいらないレベル。
けれど共にいるニアは不可解な感じで、
「しかしお前達は『大魔法士』と『始まりの勇者』だろう?」
最強に無敵。
話を聞くには最適の存在だ。
けれど修は呆れ顔で、
「関係ねーよ。たぶんだけど『世界三強』のうちの一人な正樹がいる時点で俺らお払い箱だろ」
「……はっ?」
ニアが届いた言葉に呆然とする。
マルクが大きく笑いながら頷く。
「違いなかろう。フィンドの勇者も素晴らしき実力者。だからこそ全員を交えて話を聞いてみたいと思ったのだ」
正樹は『レアルードの奇跡』と呼ばれる事件の折、才能を存分に上げられた。
それこそ神話魔法を幾つも使えるくらいには。
ニアもそれを把握している割には、どうして驚いたのだろうか。
優斗が苦笑しながら教える。
「あのね、ニア。実力をおおまかに区分けするなら正樹はこっち側だから」
「えっと……それはあれか? フォルトレスを相手にしていた時に言っていた分け方のことか?」
「当たりだよ」
以前に用いた領域の分け方。
こっち側とあっち側。
「ということは、要するに正樹は……」
「そう。無事にお伽噺の仲間入り」
パチパチパチ、と優斗が拍手する。
「ちなみに爺さんも若い頃はギリギリこっち側だったんじゃねぇか?」
「存在が幻想だ、と言われたことはあったがな」
修の疑問にマルクは頷く。
すると春香がきょとんとして、
「どういう区分なの?」
「おそらくは“一人で国を相手に出来るかどうか”ですわね?」
後ろで話を聞いていたアリーが話に加わる。
区分はそういう感じなはずだ。
優斗も頷く。
正樹は乾いた笑顔を浮かべ、
「喜んでいいのかどうか分からないね。同じ領域にいても、遙か彼方に優斗くんも修くんもいるから」
「この二人は“人の皮を被った何か”なので、気にするだけ無駄ですわ」
正樹がお伽噺レベルの最底辺なら、優斗と修は最上部。
区分としては同じとはいえ、比較するのは可哀想でしかない。
結局のところ、諦めて優斗達もそこに居ることになった。
女性陣は主に集まって世間話。
男性陣も主立って話すのは優斗、修、正樹、マルクの四人だ。
「おっ、キリアが出てきたな」
優勝有力候補の登場に、会場から歓声が少し沸いた。
ちなみにクリスはシードなので一回戦はない。
キリアは審判の話を何度か頷いて聞いた後、開始線まで下がった。
「やはり今まで出てきた若人の中では雰囲気があるな」
マルクがふむ、と顎を撫でた。
今まで出てきた学生達も中々に面白くはあった。
けれどその中でもキリアは独特の雰囲気を持っている。
「あの立ち姿は優斗そっくりだよな」
「そう?」
「そっくりだよ。前とは全然違うね」
正樹も修の感想に同意する。
剣を抜けばさらに顕著で、自然体でショートソードを握っている姿は瓜二つと言ってもいい。
「師としては、どう戦うべきだと考える?」
「相手は一年生ですからね。身体の調子がどうなのか調べる為にも近距離戦闘がベストです」
そして優斗が言った通り、キリアは魔法による遠距離ではなく近付いての接近戦を選んだ。
相手も自信はあったか意気揚々と剣戟による勝負を受け入れたものの、キリアが徐々に押し込んでいく。
このまま行けば簡単に終わりそうなものだが、
「しかし対戦相手の剣は名剣の類だろう?」
マルクがただでは終わらなそうだと言う。
遠目でもきらめいて分かる、鍔の部分にある宝玉。
魔法科学を用いられた剣だ。
何かしら付加要素があるべきと考えるのが妥当だが、
「おおっ、炎が吹き出した」
修が歓声を上げる。
相手の剣から炎が生まれてキリアを襲う。
しかし彼女は冷静に下がって距離を空けた。
「レイナさんと同じ系統の名剣だね。威力はしょぼいけど」
「キリアさんはどう対応するのかな?」
正樹が興味津々に訊いてきた。
優斗は軽い調子で、
「炎なら有効なのは水だよ」
彼の発言から類推するに、キリアは水の魔法を使うだろう。
全員そう思ったのだが実際は違った。
彼女が何かを呟くと、ショートソードの周囲に水が唐突に現れる。
マルクがほう、と目を細めた。
「あれは聖剣の類か?」
「聖剣と言ってしまえば聖剣ですね。下位精霊の恩恵による簡易的な聖剣です」
「……どういうことだ?」
天下無双を以てしても理解の範囲外だった。
修が呆れる。
「こいつ、何喋ってるか時々分かんねぇよな」
「マルクさんでも分からないなんてビックリだよ」
歴戦の勇である天下無双。
彼が分からないのであれば誰であれ分からない。
「炎舞、風雅、水麗、地堅。各々キーワードを定め、精霊にイメージを伝えて聖剣紛いにしてるだけですよ。キリアの精霊術は初級魔法と同等レベルなので、他に便利な使い方がないかな、と考えた結果です」
初級魔法で詠唱破棄できないものであれば、詠唱分を短縮出来る為に代用できる。
しかし威力は求められない。
なので他の使い道を考えた結果が下級精霊を用いた簡易的な聖剣に繋がる。
「ふむ。精霊術が便利だということだけは分かった」
「簡単に言ってるけど、キリアは滅茶苦茶苦労しただろ」
「才能ないんだから当たり前」
師匠が断言したと同時、キリアが動く。
どうにも対戦相手は名剣を上手く扱うことが出来ないらしく、無駄が多い。
まばらに襲いかかってくる炎を的確に消して突っ込んでいった。
「これでお終いだね」
優斗の終了宣言に応じるが如く、キリアは手が届く範囲まで接近すると上段からの振りかぶりを囮にローキックを一発かます。
痛みで顔をしかめた相手の隙を突いて名剣を弾き飛ばすと、そのまま手を取って一本背負い。
衝撃で咳き込んだ相手に風の魔法を向けて待機させる。
審判が勝負ありと判断してキリアを勝者に認定した。
「まあ、悪くはない。60点ってところかな」
優斗が今の戦いを点数で総括する。
圧倒したにも関わらず合格最低ライン。
マルクでさえ僅かに驚きの様相を呈した。
「お主、少々厳しすぎやしないか。今までの連中と比べて素晴らしい戦い方だった。褒めて伸ばしてやることも師として大切なことだろう?」
「褒めると調子乗るから滅多に褒めません」
「…………厳しいな、ミヤガワは」
◇ ◇
試合はどんどん進んでいく。
次いでクリスの初戦が始まる。
「ふむ。今代の『学院最強』という話であったな」
マルクは興味深そうにリング上を眺める。
「どうなのだ、お主達の仲間という話だが……」
「普通に考えたらクリスの優勝で決まりだよ。一人だけ強すぎる」
「ほう。ウチダがそこまで言うか」
「俺と優斗が戦闘メンバーに加えて問題ねえって思う奴だかんな」
優斗達の戦闘メンバーは四人。
修に優斗、レイナにクリス。
他は全員メンバー入り出来ない。
上級魔法を使えようと何だろうと、大事であれば優斗も修も基本的に戦うことを許さない。
マルクはなるほど、と納得した。
「ということは“壁を越えている者”か?」
「ああ。間違いなくな」
優勝候補筆頭が現れたことで、俄然注目が上がるリング。
開始の宣告がされたと同時、クリスはゆったりとした調子で細剣を抜き悠々と歩いて行く。
「これは……」
マルクが僅かに身を乗り出した。
確かに違う。
剣の抜き方が滑らかすぎて、天下無双でさえ若干鳥肌が立つほどだった。
クリスは穏やかな表情で歩みを進めていく。
そして十分な距離がまだあると考えた相手が魔法の詠唱を始めた瞬間、いきなりトップスピードまで速度を上げて突っ込んだ。
詠唱を止めたところで意味がない。
反射的に剣で対応しようとも遅すぎる。
クリスは剣を抜こうとしている相手の右手を左手で触れて押さえると、そのまま剣を突きつける。
それでお終い。
剣戟一つ響かない勝利だった。
マルクは一連の流れを見て参ったとばかりに破顔した。
「実力差がありすぎる。魔法を使えば隙を突いて飛び込んで終わりとなる。もし最初から剣で対応していようとも意味がない」
これほどとは思っていなかった。
「まさしく『学院最強』。大国リライトの学院において『最強』の名を冠する男か」
相手が弱すぎて実践慣れしていないということを鑑みても、それでもクリスの強さを理解するには十分すぎた。
「してウチダよ。あ奴は懸想している相手がいるのか?」
「嫁さんいるぞ」
「……そうか」
がっくりと項垂れるマルク。
もう考えていることが丸わかりだった。
◇ ◇
クリスもキリアもヒューズもラスターも、優斗の知っている人物は問題なく勝ち進めていき、ついには準々決勝。
キリアとヒューズが戦うこととなる。
「さて、ここがとりあえず山場の一つかな」
優斗はリング内に上がる二人の後輩に目を細める。
マルクが1回戦から見ていたヒューズの戦い方を思い返して、優斗が評していた“才能者”だということを改めて納得していた。
「あの小僧は確かに中々の動きをしていたな」
魔法剣に加えて上級魔法も扱える。
ほとんど努力もしていないのに出来ることからも、彼が才能豊かな人物であることは分かりきっていることだ。
「ミヤガワよ。ついに弟子が才能者と当たるが、勝てると思っているのか?」
「ええ、もちろんです」
一も二もなく優斗は肯定する。
「天下無双は相手が才能者である時、どうやったら一番勝率が高いと思いますか?」
「……? 叩き潰せばよかろう」
「それを常時やれるのは僕と天下無双ぐらいしかいません」
優斗の返しに修が「そりゃそうだ」と大いに笑う。
どんな相手だろうと叩き潰す、なんて選択肢があるのは圧倒的実力の持ち主ぐらいだ。
優斗も笑いながら説明を始める。
「才能者っていうのは適応力が高いんです。そして一番問題なのは“戦っている最中に実力を上げていくこと”」
適応し成長していく。
出来なかったことが出来るようになる。
負けていた実力が最終的には上回る。
それが才能ある者が持っている、羨ましい実情だ。
「一発逆転、起死回生。こんなふざけたことがまかり通るんですよ、厄介なことにね」
努力による実力など一蹴する。
その最たる存在がすぐ側にいるのだから呆れるほかない。
天下無双は修を僅かばかり視界に入れて頷くと、優斗の言いたいことを察する。
「なるほど。ということはやるべきことは一つか」
こくん、と才能無き者の師匠は頷く。
戦う時間に比例して両者の実力差は無くなっていく。
ならば、だ。
「瞬殺する。対応という言葉が生温いほど即座に」
◇ ◇
「まさかヒューズと戦うことになるなんてね」
「俺はめっちゃ楽しみっすよ。キリア先輩と戦えるなんて」
二人でリングに上がりながら話す。
初めて会った時は戦わず、一緒に行動することがあっても最近だ。
しかも二人して闘技大会に出るのだからと手合わせはしていない。
「俺、勝ちに行くっす」
「わたしだって勝つつもりよ」
キリアとヒューズは手の甲をぶつけて互いの健闘を示す。
そして審判の下へと辿り着いて二人は説明を聞く。
「制限時間は十分。決着がついたと思った時点でオレが止める。それ以上の攻撃を行った場合は反則だ。殺すつもりで殺すのは御法度。とはいえ死んでも霊薬があるから手加減は必要ない」
初戦から何度も繰り返し聞かされる説明に二人は頷くと、開始線まで下がった。
「それでは準々決勝――」
少年が右手を剣へと伸ばし、対する少女が僅かに右足を半歩下げた。
審判が宣言する。
「――始めっ!!」
戦いの火蓋が切って落とされたと同時、キリアの姿が霞んだ。
「なっ!?」
ヒューズが驚いた直後、彼の視界の隅にはためく制服が見える。
突如として隣にキリアが現れ、テンプルを肘で打ち抜こうとしていた。
「……っ」
気付いた瞬間、もう遅かった。
衝撃が頭部に響く。
「ぐぅっ!!」
問答無用の肘撃ちに、僅かに頭を下げることによってかろうじて急所を避けたヒューズ。
しかし立て直せるほどの軽傷でもない。
頭部に走る痛みと衝撃に気を取られ、背後を移動しながらショートソードを抜くキリアに対応する時間はなかった。
ヒューズが出来うる限り最速で剣を抜き振り向くよりも早く、首筋にショートソードを当てられる。
「勝負ありっ!!」
開始直後の決着。
しかも今まで余裕綽々で勝ち上がってきた二人の予想外な結末に、観客が大いに沸いた。
審判のコールを聞いて、キリアがショートソードを鞘に収める。
そして大きく息を吐いた。
「何だかんだで紙一重だったわね。まさか急所を避けられるなんて思わなかったわ」
「いや、そういうことじゃないっすよ。ものすごく痛いっす」
負けてしまったことにげんなりとしたいところだが、未だに頭が痛い。
両手で頭部を抱えるヒューズにキリアは笑みを零す。
「急所を避けなければ気持ちよく寝られたわよ」
「いやっすよ! むしろいきなり横に現れた人の攻撃に対して、よく急所を外したって褒めてほしいんすけど。っていうか何なんすか、あれ。意味不明っす」
瞬間移動したようにしか思えない。
するとキリアはなぜか重苦しい雰囲気になり、
「わたしが苦労の末に出来るようになった技の一つよ。それにヒューズだってわたしじゃなくて先輩がやってたら、意味不明でも納得するでしょ?」
「まあ、ユウト先輩がやってたら納得するっすけど」
「だったらわたしがやっても納得しなさいよ。あの人に教えてもらったんだから」
◇ ◇
まさしく瞬殺劇。
ヒューズ・バスターという少年の才能から鑑みれば、長期戦こそ彼が目指すべきところではあっただろう。
現状の実力で負けている以上、逆転すべき実力を得るか偶然の要素を用いらなければならなかったのだから。
けれどキリア・フィオーレは許さなかった。
ヒューズの才能を理解しているからこそ行った最速の攻撃。
あれほどの速さであれば、まさしく虚を突いたと言っていい。
「……くくっ」
マルクは今の戦いに笑いを抑えることができない。
若いながらも実力と才能の片鱗を互いに見せた攻防だった。
「お主の弟子が放った側頭部への攻撃。あの初撃は“防がれてもいい一撃”か」
マルクの的確な感想に優斗は頷く。
「キリアが本来、織り込んでいたのは三撃です。初撃、二撃目で致命打をかまして三撃目で全て終わらせる。今回は初撃が最高とは言えませんが上手く入ったので、そのまま二撃目を首筋に向けて終了です」
ヒューズならば反応するかもしれない。
それを知っているからこそ一撃必殺ではなく連撃。
案の定、反応されて急所はずらされたのだが攻撃として問題がなかった。
「しかしたまげたぞ。“あれ”はウチダがやったものと同様ではないか」
身体が霞むほどの高速移動。
人の速さは完全に超えている。
マルクは修と戦った時、彼も同じことをやっていたことを思い出す。
春香も会話の内容を聞き、女子勢から離れて加わってきた。
「あ~、確かに修センパイもやってたよね。一瞬、消えたって思ったもん」
レアルードでジュリアの祖父をおちょくった際、たった一歩でぶっ飛んでいった。
瞬間移動にしか思えない。
「霞むが如き速さ。初見で対応するのは難しかろう」
「……おい、初見で対応したじいさんが何言ってんだ。つーか“速い”って驚いただけじゃねぇか、あんたは」
平然と防御の態勢を取っていた。
反撃としてはなっていなかったので修は遅いと思ったが、対応としてはちゃんとしている。
「儂ほどになればな。若人ならば難しかろうて」
「……このじいさんも歳喰って力落ちてるはずなんだけどな」
修としては呆れるほかない。
リーリアが歳を重ねて尚、天下無双として在ると評している理由がよく分かる。
「してミヤガワよ。あれは何だ?」
「魔力操作による高速移動方法……とでも言いましょうか。元々は僕らの仲間の技なので流用させてもらいました。蹴り足に魔力を込めて“地面を弾く”。着地は逆に魔力を用いて“地面を受け取める”。単純にそれだけのものですが他にも色々な要素が働いていることから、一連の魔法として世界から認識されているのかもしれませんね」
最初にこれを使ったのはレイナ。
彼女の“曼珠沙華”から速度の部分だけを取り出したものだ。
これに関してはやたら細かい事を言えば、色々とあげられる。
色々と物理法則やら何やらを無視しているのだから。
とはいえ和泉に説明を求めても難しい単語のオンパレードとなるだろう。
なので出来るのだからと片付けて、細かいことを考えたのはやめている。
ただ修がなるほど、とばかりに頷いているのが目に付いた。
「へぇ~、そうなんか」
「そうなんか……って、修センパイもやってたよね?」
春香はこの目でしかと見ている。
なのに何で“初めて知った”ような素振りを見せるのか。
「俺は勘でしかやってねーから」
ノリでやってノリで出来た。
だったらそれでいいじゃないかと言わんばかりの修。
「……やっぱりこの人が一番ありえないよ」
春香が呆れ顔で手を額に当てた。
ついでに彼女の頑張り具合も知りたかったので、師匠に訊いてみる。
「キリア、すごく苦労したでしょ?」
「最初はただのダッシュになってたからね。他にも地面爆発させたり吹っ飛んでいったりと色々大変だったよ」
あれこれ教えながら、ようやく形になった。
今日見ると以前より上手くなっていたことから、優斗が関われなかった時も必死に練習していたのだろう。
「あれは基本、離脱用なんだけど不意打ちぐらいには使えるから」
「……どういうこと?」
「所詮、僕達は近距離型じゃなくて中距離・遠距離型だから。近接戦闘は望むところじゃないんだよね」
なので高速で離れて魔法を使う、というのがキリア本来の使い方。
しかし弟子はそれでいいとして、師匠も近接を望んでいないとはどういうことだろうか。
「……優斗センパイ、寝言ほざいてる?」
そうとしか思えない。
けれど修が否定した。
「いや、マジで言ってる。俺ですら簡単に勝てる気しねーのに、何言ってんだって話だけどな」
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