第168話 first brave:端役の戦い

 

 何だ。

 何だ何だ何だ!?

 何だというのだろうか!!

 ジュリアの父は既に痛んでいる全身を地に伏せ、状況を見守るしかなかった。

 

「神話魔法ならダメージを与えられそうな気はするな」

 

 彼は平然と“堕神”の欠片を魔法で攻撃する。

 いや、実験するかのように試している。

 

「……っ!」

 

 ジュリアの父は歯を食いしばる。

 全身を蝕む激痛。

 ほんの少し前、戦いが始まった時だった。

 優斗が揺らめくように動いたと思った瞬間、ふっと彼が視界から消えた。

 彼がどのように“堕神”の欠片へ攻撃するのかと考えるが、念の為にと右手が剣へと伸びる。

 視界から消えたのだから、当然の反応とも言えるが……注意は払っていない。

 ジュリアの父からすれば『大魔法士は“強敵”を相手にしているからこそ、他に意識が向かうわけもない』という考えから。

 だから遅かった。

 

「――ぐぁッッ!?」

 

 唐突に全身から悲鳴を上げたくなるような痛みが走った。

 僅かに動く首を捻り、後ろを見る。

 彼はまるで瞬間移動でもしたかのように背後へ出現すると、自分の身体全身を叩きのめしていた。

 肩から始まり、肘、手首、膝、足首。

 関節という関節を砕かれた。

 さらに“堕神”の欠片が壁へ吹き飛ばされ、壁が破砕される轟音が鳴り響く。

 

「やっぱり精霊術は問題ないか」

 

 つまらなそうに優斗は呟くと、今度は精霊術で“堕神”の欠片を抑えながら、魔法で攻撃を始めた。

 火を、風を、地を、水を、ありとあらゆる属性を放つ。

 すでに倒れている人間に優斗は興味をなくしていて、見据えているのは“堕神”の欠片のみ。

 故にジュリアの父は痛む全身を地に伏せ、状況を見守るしかなかった。

 

 

 

 

 そして実験と呼ぶべき神話魔法の攻撃へと至る。

 

「…………なぜ……だ」

 

 これでも自信があった。

 魔法が効かない“堕神”の欠片があれば、少なくとも大魔法士の実力を計ることは出来ると考えていた。

 なのに彼は一目散に自分を蹴散らしに来た。

 二体の存在など、取るに足らない存在だとでも言うように。

 

「何をブツブツと呟いている?」

 

 優斗が魔法を放ちながら、ちらりとジュリアの父を見た。

 

「お前らが魔法は効かないと言うのだから、精霊術を使うことに何かおかしな点があるか?」

 

「……だ、だからといって“堕神”の欠片を無視して私を攻――」

 

「僕にとっては雑魚A、B、Cが並んでいるようにしか見えない。雑魚中の雑魚を先に倒したほうが余計な反撃を喰らわない分、お得だろう?」

 

 変に意識を取られないで済む。

 

「お前は僕が最初に“堕神”の欠片を相手にするだろうと考え、余裕を持っていたからな。簡単に両肩、両肘、両手首、両膝、両足首の関節を砕かせてもらった。この場において注意力を散漫させる素人に対して、取るに足らない作業だ」

 

 おかげでどうやっても動けない雑魚が一人。

 間違った余裕を持ったからこそ、無様に寝そべる男が転がっている。

 

「な、ならばなぜ“堕神”の欠片に試すような魔法を使う!? 魔法は効かないと言ったはずだ!」

 

 精霊術が使えると気付いた以上、魔法を用いる必要性はない。

 

「とはいえ神話魔法を向けたことはないだろう? だからどれくらいまで効かないのか、試しているだけだ」

 

 一つ一つ、順に威力を上げていく。

 どこまで魔法が効かないかを、試すかのように。

 

「そろそろ上に貼り付けるか。この神殿も持たないだろうしな」

 

 今度は“堕神”の欠片を思い切り天井にぶち込む。

 同時に九曜を振りかぶり、二体のうち一体に向けて突き刺した。

 

『――――――――――ッッッッ!!』

 

 金属の擦れるような甲高い音――悲鳴のようなものが聞こえてくる。

 

「聖剣も当然、問題はない」

 

 納得するように頷く。

 右手を上へと翳せば、九曜が惹かれるかのように主の下へと帰ってきた。

 さらに続けて神話魔法を放つ。

 

「…………」

 

 ジュリアの父は言葉を失った。

 まるで優斗は戦っているようには見えない。

 言い方を変えれば、ただ遊んでいる。

 オモチャがどれくらい持つのか試している。

 

「化け物か、君は……」

 

 思わず呟いた台詞。

 理解の範疇を超えている。

 どこをどうすれば、“堕神”の欠片に対して『全力にならない』でいられるのかが分からない。

 けれど優斗は呆れたように、

 

「何を言っている? 最初から“化け物”だと言っているだろう」

 

 先程の台詞をもう一度、口にした。

 加えて、

 

「それにしても、始まりの勇者と同等の実力を持つ大魔法士に対して驚くなんて、狂気の野望も程度が知れるな」

 

 止めを刺すかのように言葉を続ける。

 

「どうして人の価値観を持っている。投げ捨てなければ到底、到達など出来ない」

 

 通常の通り道では辿り着かない場所なのだから。

 どうしたって“異常”が必要になる。

 けれど、だ。

 ジュリアの父も反論する。

 

「……も、持っていると思っているのか!? その為にどれほどの人間を犠牲にしてきたと思っている!! 当の昔に捨てているのだよ、人間の価値観など!!」

 

 この身に流れる狂気の血が自身を狂わせている。

 他の人間が自分と同じなど、思ったこともない。

 

「なら言い方を変えて、もう一度訊こう」

 

 優斗は神話魔法を撃つのをやめて、振り返る。

 価値観を捨てているというのなら。

 人を人とも思っていないのならば、だ。

 

「どうせやるなら、世界を破滅させるぐらいの規模でやってみろよ。たかだか一都市を壊滅させるぐらいで満足するな」

 

 世界に覇を唱える勇者を作るのなら、世界を滅ぼせる力を持たせてみろ。

 

「自分以外、同じ一族すらも道具扱いする冷徹さを見せてみろ」

 

 甘えなど必要ない。

 仲良しこよしで作れるわけもない。

 血族という絆など、唾棄すべきものだと言い切れ。

 利用価値を見出して、道具として扱え。

 

「そこまでやってこそ“狂気”だろう?」

 

 禁忌というものに触れてこそ、相応しい言葉だ。

 

「それが……大魔法士の言うことか……っ!?」

 

 ジュリアの父は理解できない。

 目の前にいる少年は、本当にお伽噺に描かれている存在と同じなのだろうか。

 どうしたっておかしい。

 これではまるで――自分達と同じにしか思えない。

 

「性質を考えれば、僕は完全にお前ら側だ」

 

 優斗は一も二も無く頷いた。

 未だに本質は正か悪かで言えば、計るまでもなく確実に悪へ傾く。

 

「堕ちたことのある存在が、綺麗で優しい勇者様と同じだなんて勘違いするなよ」

 

 それに相対する奴らに対して“夢”や“憧れ”など、温かいものを見せる必要などない。

 

「喧嘩を売ってくる奴に“優しいお伽噺”でいる必要があるのか?」

 

 いいや、必要ない。

 

「だから言っただろう」

 

 優斗は嗤って、再び“堕神”の欠片へと手の平を向ける。

 

「大魔法士を舐めるな、と」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 春香の守護獣に今回の主犯二人を運ばせて、修達は先程の場所まで戻ってきた。

 通路にずっと響く音から何となく察してはいたが、いざ実際に状況を見れば酷いものだった。

 まず青空が広がっている。

 天井が綺麗さっぱり無くなっていた。

 上空には謎の魔法陣に貼り付けられた“堕神”の欠片が二体、見るも無惨な姿になっている。

 次いで壮年の男性が悔しそうな表情で俯せに倒れていて、ニアも壮絶な優斗に声を掛けていいものかどうか考えて、珍しくおろおろしていた。

 

「もう終わったのか?」

 

 優斗が上空を見据えながら訊く。

 修が頷いた。

 

「ああ。そっちはどうなんだよ?」

 

「実験は大体、終わった」

 

 やはり神話魔法に対しては、魔法を消しきれるわけではなかった。

 一定以上の威力であればダメージは通る。

 

「お前らが戻ってきたのなら、こっちも終了にしよう」

 

 手にある九曜を軽く横に振った。

 桜色の眩い光が“堕神”の欠片を襲い、簡単に消滅させる。

 

「ボク……本気で振り抜かないと倒せると思えなかったんだけど」

 

「俺が言うのもおかしいけどよ、意味わかんねぇよな」

 

「確かに修センパイが言うのはおかしい」

 

 正樹、修、春香の順番に素直に呆れる。

 そして優斗は正樹へと振り返り、下を指し示した。

 

「魔法陣を壊す。いいか?」

 

「うん」

 

 念の為にと残しておいた魔法陣。

 全てが終わったというのなら、もう無用の長物だろう。

 しかし一人だけ、そうではない人物がいる。

 

「我々が創り上げた歴史を……壊すというのか!?」

 

 ジュリアの父が声を張り上げた。

 

「そういや、気絶させてなかったんだな」

 

 修がちょいちょい、と男性を指差す。

 

「無様な醜態を晒させながら虐めて、軽く絶望でも感じればいいと思っただけだ」

 

 それは今現在も“続いている”。

 

「壊すと言ったが、聞こえなかったのか?」

 

 嘲るように物言う優斗。

 本当に喧嘩を売るのが上手いというか、貶すのが上手い。

 ジュリアの父は憤慨するように言葉を荒げた。

 

「君に何の権利があって壊すと言うのだ!!」

 

「お前に何の権利があって壊すなと言うんだ?」

 

「我々が創ったものだ!」

 

「別にお前が創ったわけじゃない」

 

 まるで暖簾に腕押し。

 叫ぶ言葉一つ一つを簡単に躱していく。

 

「我々の所有物だ!! 所有権は我々にある!!」

 

「だったらどうにかしてみせろ」

 

 酷薄な笑みを浮かべて、優斗はチラリと修達を見る。

 視線に気付いた三人に対して、僅かに手で謝るポーズを取った。

 

「ああ、そういえばお前達は勇者ですらも自分達の所有物だと言うんだったな」

 

 そしてジュリアの父にとって最悪な追い打ちを掛ける。

 

「だ、だから何だと言うんだ!?」

 

「ほら、言ってみろ。ここにはお前達の所有物である勇者が三人もいるんだ。『持ち主である私を助けろ』と叫んでみろ。僕が魔法陣を破壊する様を止めてくれるかもしれない」

 

 絶対にありえないと分かっているのに、あえて告げる。

 さらにはゆっくりとジュリアの父に近付き、目の前で片膝を着いた。

 時間を掛けて彼が発言する間をあげたというのにも関わらず、ジュリアの父は一言も発しない。

 

「どうした。何故言わない? 持ち主なら助けてもらえるんじゃないのか?」

 

 顎に手を置き、上を向かせる。

 如何に屈辱的なのか分かっているからこそ、あえてやる。

 

「所詮、その程度だ。劣勢に立てば崩れてしまう、脆く安いプライドしか存在していない」

 

 心底、馬鹿にした表情をする優斗。

 

「絶対的に所有物だと思っているなら、叫べるはずだろう?」

 

 だから言えよ、と。

 叫べ、と。

 嘆け、と。

 恥も外聞も何もかもを捨てて命令しろ、と。

 優斗の表情が物語っている。

 

「君は我々を愚弄しているのか!?」

 

「されてないとでも思っているのか? だとしたら救いようがない」

 

 くすりと優斗は嗤う。

 

「もうタイムアップだ。これだけ時間をやったのにも関わらず、何もしないんだからな」

 

 立ち上がり、振り返る。

 同時にジュリアの父の真下に魔法陣が生まれた。

 

「な、何を――」

 

「死んだ方がマシだと思える位の痛みだ。頑張れよ」

 

 瞬間、真上から押し潰されるようにジュリアの父の身体が沈んだ。

 地の派生による重力操作。

 威力としては中級程度だが……砕かれた関節が軋み、

 

「――――――ッッッッ!!!!」

 

 悲鳴にすらならない絶叫を上げて、ジュリアの父は気を失う。

 そして優斗は風の精霊術で気絶した彼の身体を持ち上げると、守護獣ニヴルムへと放り投げた。

 

「とってもヤバい表情になってたけど、何やったの?」

 

 春香が優斗に近付いて恐る恐る訊いてみる。

 魔法を喰らった瞬間、筆舌し難い顔になっていた。

 

「関節という関節を砕いてる。そこに余分な加重がかかれば、どうしたって痛いだろうな」

 

 気を失うぐらいには痛かっただろう。

 修も正樹もやって来ては、本当に可哀想だという表情をしていた。

 

「同情するわけじゃねぇけど、優斗の相手をしに来たとか一番の貧乏くじだろ」

 

「ボクもグサっとやられたから、よく分かるよ」

 

 とにかく怖い。

 ありえないぐらいに恐ろしい。

 容赦がないとはこういうことなのだ、と実感してしまう。

 特に正樹は言葉だけとはいえ、やれらたことがあるだけに余計理解があった。

 

「それに……」

 

 言葉を続けようとしたところで、ちょんちょんと正樹の裾を引っ張る感触があった。

 いつの間にかニアも側に寄ってきている。

 

「大丈夫だった?」

 

「ミヤガワが怖かった」

 

「ならいつも通りだから大丈夫だね」

 

 ほわっと優しい笑顔を浮かべる正樹。

 応えるようにニアも笑みを零した。

 

「お帰り、正樹」

 

「ただいま、ニア」

 

 先程とは打って変わって、温かな空間に変わった。

 修と春香はニヤニヤと二人を見る。

 

「癒されるな」

 

「さっきが恐怖体験だっただけに、すっごく癒されるよ」

 

 対比が凄まじい。

 と、そこで恐怖の象徴が訊いてきた。

 

「もう壊していいか?」

 

 右手に溢れんばかりの魔力を吹き荒らし、ちょんちょんと下を指す。

 全員がにっ、と笑った。

 

「「「「 当然っ! 」」」」

 

 応えたと同時、優斗が魔法陣へ右手を叩き込む。

 すると光の線は撓み、崩れ、大魔法士が手を置いた場所からヒビが入り、弾けるように砕けた。

 

「はい、これで終了」

 

 完全に魔法陣が消失したことを見届けると、優斗の雰囲気もいつも通りに戻る。

 

「みんな、お疲れ様」

 

 そして柔らかな表情で皆を労った。

 けれど四人が四人とも一言、文句を付ける。

 

「最後、気疲れしたけどな」

 

「どっかの誰かのせいでね」

 

「ニアもいるんだからさ、もうちょっと優しくやってほしかったかな」

 

「本当に怖かったんだぞ、ミヤガワ」

 

 ドッカンバッタンと建物をぶっ壊したと思ったら、最後は最後で相手を虐め抜いている。

 相も変わらずではあるが、常に最後は正義と悪の区別が微妙につかなくなる仕様だ。

 

「ごめんね、ニア。どうにも敵に対して“優しく”という単語が出てこなくて」

 

 優斗が申し訳程度に謝って、全員で外を目指す。

 

「二人は大丈夫?」

 

 歩きながら正樹とニアに状態を尋ねる。

 

「全回復してるよ」

 

「私は何もしていないから、問題ない」

 

 特に痛みも何もない。

 けれど、

 

「そういうことじゃないよ」

 

 優斗が訊きたいのは肉体面じゃない。

 

「“ここ”は大丈夫?」

 

 胸の部分をポン、と叩く。

 仲間だった少女の裏切り、魔物との戦い、一秒でも早くと願って助けを呼びに行かなければならない状況。

 精神的にきつかったはずだ。

 正樹とニアはほんの僅かな間、ニヴルムへと視線を送る。

 

「……うん、大丈夫だよ。何も分からないままに事件が終わったんじゃない。ボクがこの手で終わらせた。だから……その全てを受け止めてる」

 

 全部全部、理解している。

 だから嘆かない。

 前に進む為の糧として、しっかりと心に刻むだけだ。

 

「私は……罵倒したい気持ちがある。ふざけるなと苛立つ気持ちもある。仲が良かったとは言わないけど、仲間だったからな」

 

 ニアは僅かに視線を伏せる。

 裏切り、というものは本当に感情にさざ波を与えた。

 

「けど正樹が受け止めてる。だったら私は正樹が苦しまないように、隣で支えていくだけだ」

 

 二人の確かな返答に、優斗は眦を少し落とした。

 

「強いね、二人とも」

 

 心が。

 本当に強い。

 

「じゃあ、この話題はお終い。後は勇者の凱旋をやるだけだ」

 

 切り替えるように明るい声を出した優斗だが、勇者三人の表情が変わった。

 

「……あんだって?」

 

「まだ何かやるの?」

 

「優斗くん、どういうこと?」

 

 敵は倒した。

 首謀者三人も捕まえた。

 これ以上、何があるというのだろうか。

 

「とりあえず、向かっている場所は副長達のところ。そこには助けられた住民もいて、いつ状況が終わるかを待ち望んでる。ということは……」

 

 優斗は指を一本、立てる。

 

「皆を安心させるには勝ち名乗り、必要でしょ?」

 

 

       ◇      ◇

 

 

「修か優斗か分からないけどさ、はしゃぐのはいいんだけど……」

 

「破壊音を響かせたり、光が上空に飛んでいくなど、もう少し穏便にやってもらいたいものだな」

 

 一通りのことが片付き、卓也とレイナは安心とばかりに話していた。

 

「今回は私も疲れた。一番動き回ったという自負があるぞ」

 

「お疲れ様。レイナがいたから、あいつ達も安心して行くことが出来ただろ」

 

 優斗と修を除けば、剣の性能も相俟ってレイナがこの場では最速だ。

 それも、あの二人が信頼するに足る速度と実力。

 だから最後の確認はレイナに任せた。

 

「おっ、戻ってきたな」

 

 卓也が五人を視界に捉える。

 住民達も続々と彼らの姿に気付いた。

 注目が一斉に集まる。

 そして一行は広間に辿り着くと、フィンドの勇者が叫んだ。

 

「悪夢はボク達――勇者が砕いた!!」

 

 響き渡るように。

 皆の安らぎとなる凛とした声が届く。

 

「恐怖の時間は終わった! だから――っ!」

 

 大きく息を吸い、フィンドの勇者は宣言する。

 

「もう、みんな安心していいんだ!!」

 

 轟かせた瞬間、さらなる轟きが広間一帯を包んだ。

 あれよあれよという間に正樹達を住民が囲んでいく。

 卓也とレイナは彼らの姿を見て、笑みを零した。

 

「あれが勇者ってやつだな」

 

「人々に希望を与える存在、か。確かに納得させられる」

 

 修、正樹、春香の周りには人だかりが絶えない。

 優斗も優斗で爆弾発言を堂々とかましているので、感謝されっぱなしだ。

 

「異世界の三勇者と大魔法士だもんな。ほんと、お伽噺みたいな奴らだよ」

 

 華があるし、周囲を惹き付ける。

 けれど今回の件に関しては卓也もレイナも、活躍していないかと言えばそうじゃない。

 一番人目に付いたのはレイナだし、卓也もたくさんの人々を癒した。

 だから幾人もの人々が二人に近付いてくる。

 レイナと卓也は嬉しそうに表情を崩した。

 

「私達は私達で今日のことを誇りにするとしよう」

 

「そうだな。オレらも今日ぐらいはお伽噺の一員だ」

 

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