第153話 カオスな状況

 

「ハルカは私のもの」

 

「俺様の子猫ちゃんを誑かしてもらっては困るな」

 

 集合場所のカフェテラスに着いて、王様の提案を告げた第一声がこれだった。

 

「なんつーお決まりな」

 

「予想通り過ぎて何も言えない」

 

「すみません、ウチダさんにミヤガワさん」

 

 苦笑する修と優斗、謝るロイス。

 こうなると、だ。

 いつもの通りなら基本的に、

 

「修センパイ、優斗センパイ! ここで戦って勝つっていうのがデフォルトだよね!」

 

「だりい」

 

「ワンパターンで飽きた」

 

「ぼく、ワンパターンとか知らないから!? っていうかいつもこんな感じなの!?」

 

 普段は勝負事に持って行くのが常……というか向こうから吹っ掛けられるのだが、さすがにお馴染みになりすぎている。

 

「だって……ねぇ」

 

「だよなぁ」

 

「何となく言いたいこと分かるけど! でも、ぼく初めてだからね!?」

 

 王道的な展開を期待したら、だるいとか飽きたとか凄い事を言われた。

 

「うちの子猫ちゃんとは大違いだな。まるで勇者に見えない」

 

「私達は八騎士。勝てるわけがない」

 

 ブルーノとワインが挑発じみたことを言う。

 しかし、

 

「いつもの光景にしか見えないよね」

 

「戦うだけ手間なんだよな」

 

「そこは挑発に乗るべきだよね!?」

 

「いや、基本的には仲間関連以外の挑発かまされても反応しないっていうか……飽きたというか」

 

「挑発も飽きてるの!?」

 

「世の中、馬鹿ばっかりだからね」

 

 特に優斗は挑発と応酬の繰り返しなので、殊更に飽きている。

 

「最近、働きすぎた感じもするし」

 

「俺も自発的以外で戦ってるの、多くなってきてんだよな」

 

 直近の出来事だと貴族をぼこしたり、天下無双を負かしたり、そこそこな魔物も相手にしている。

 

「で、でもでも、魔法反射の鎧があるから魔物より厄介かも――」

 

「神話魔法はさすがに跳ね返せねーだろ」

 

「ロイス君と違って真っ当な鎧なら、何とでも出来るしね。精霊術でもいいわけだから」

 

 いきなり爆弾発言を落とす修と優斗。

 修の場合は意味がまだ分かるが、もう片方は何なのだろうか。

 と、ロイスが気付く。

 

「……あっ、そうか。ミヤガワさん、契約者なんですよね?」

 

「そういうこと」

 

 正解を導き出したロイスに対して春香は首を捻る。

 

「けーやくしゃ?」

 

「ハルカ様。この世界に精霊がいるという話はしましたよね?」

 

「うん」

 

「精霊は八騎士同様、八属性あります。そして精霊には中央に座す精霊王――パラケルススが存在します。そしてパラケルススを使役するには契約する必要があると言われています」

 

 ロイスの説明を聞きながら、春香の頭の中に浮かぶのは一つ。

 

「うわ~、RPGっぽい」

 

「やっぱりそう思うよね」

 

 優斗も同じ感想しか出てこない。

 

「伝説の大魔法士は精霊王と契約していた……というのが通説です。要するにミヤガワさんも大魔法士ということは、パラケルススと契約しているのでしょう」

 

「そうなると、どうなるの?」

 

「俺も詳しい話は知らないですけど、たぶん何でもありなのではないかと」

 

 意味がない、と言っていることからしてそうなのだろう。

 春香が思わず唸る。

 

「優斗センパイってバグキャラ?」

 

「否定はしないよ」

 

 この世界だとバグキャラ認定されても仕方ない。

 優斗は頬を掻きながら、あらためてワインとブルーノに言葉を向ける。

 

「まあ、その前に言うことがあるとすれば、うちの王様の好意を無碍にするなんて馬鹿なことはしないよね? 理由があるなら言ってみて」

 

「ハルカは私のもの」

 

「俺様の子猫ちゃんだ」

 

 即答された。

 

「なんという感情論」

 

 優斗も感嘆してしまうほどの。

 すると、今度は青の騎士と赤の騎士が互いを視線に入れ、

 

「ワイン、そろそろ気付かないといけないな。お前の愛は重すぎる」

 

「ブルーノは軽すぎる」

 

 なぜか睨み合いへと発展する。

 

「俺様と戦うのか?」

 

「貴方こそ、私と戦う気?」

 

 二人が立ち上がり、剣に手を掛ける。

 少しだけ、ピリっとした空気が場に轟いた。

 

「なんか場外乱闘始まってんな」

 

「これ、どうするの?」

 

 修と優斗が第三者的発言をかますと、ロイスが苦笑した。

 

「いつもの事ですし、俺には被害が及ばないのでどうでもいいんですが、たぶんハルカ様が爆発します」

 

 三人で春香に視線を向ける。

 かなり壮絶な表情になっていた。

 ムカついて赤くなって、勘弁してくれと青くなって、何とも言い難い表情だ。

 どうやらいつもこんな感じになっていて、頭に来ているらしい。

 

「…………」

 

 そして彼女は背にある両手剣を取ると、二人の間に振り下ろす。

 当たることはないが、それでも注意を向けるには十分。

 

「……次に騒ぎを起こしたら、クラインドールに返すって言わなかったっけ?」

 

 怒気の籠もった声が二人の耳に届く。

 

「ワイン」

 

「……な、なに?」

 

「君はぼくが好きとか言うけど、ぼくが嫌な事をやるんだ。百合展開とかホントに誰得? ここには大きなお友達とかいないし、百合とか流行らないよ。ぼく、これでもノーマルだからさ、親友とかなら全然嬉しいけど、病んでる子とか勘弁なんだよね」

 

 言うだけ言うと、今度は青の騎士を睨み付け、

 

「ブルーノ」

 

「な、なんだ?」

 

「子猫ちゃんって二度と呼ぶなって言ったよね?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

「俺様キャラは男同士だから映えるのであって、そんな奴が女に好意を向けたところで論外。なに、受けになりたいの? ブルーノはロイス君への鬼畜攻めだけじゃなくて、俺様受けとかになりたいの? ブルーノが他の女の子に目を向けてて、それに嫉妬したロイス君が無理矢理ブルーノを襲う展開を所望なの? ねえ、どうなの? 少なくともぼくが向こうにいた時は俺様受けも中々に流行ってたし、要するにそういうわけだよね? なんだ、ついに同人誌にされたくなったんだ、そうなんだ。言ってくれれば描いたのに。ロイス君×ブルーノは10冊分を余裕で越すぐらいの脳内ストックあるし、クラインドールにバラまいてあげるよ。それでぼくは夢の印税生活でウハウハしてやる」

 

 脅しているのだろうが、内容が酷すぎる。

 

「……一応は好意向けてる女の子がよ、脳内でロイスとカップリングとか鬼だろ」

 

「なんというか、脅しの方向性もたくさんあるね。参考になるよ」

 

「名前出されてる俺はどうすればいいんですか?」

 

 完全に蚊帳の外になった三人。

 その時、ブルーノがわざとらしく視線を背けて叫んだ。

 

「おっと、あんなところに黒髪の可愛い子猫ちゃんが!」

 

 空気に耐えかねたのか、目敏く黒髪の美少女と小さめな身体の美少女を見つけたブルーノは、テラスから飛び出して一目散に向かう。

 二人の少女が仲良さそうに歩いているところへ辿り着くと、

 

「そこの子猫ちゃん達。俺様と一緒にお茶でもどう――」

 

「駄目に決まってるだろ」

 

 後ろからガシリ、とブルーノの頭を鷲掴みするのは……優斗。

 

「……えっ? いや、ちょっと待った! どうしてだ!?」

 

 想定外な人間が追いかけてきていた。

 というか不意打ちの最高速で向かったのにも関わらず、どうして追いつけるのだろうか。

 

「僕の嫁になに話しかけてるのかな?」

 

 されど優斗は妙な威圧をしたまま、ブルーノを持ち上げる。

 黒髪の美少女――フィオナは突然のことに少し驚きながら、

 

「えっと……優斗さん、その方は?」

 

「気にしないで」

 

 爽やかな笑顔を向ける優斗。

 フィオナは彼がそう言ったので、気にすることをやめる。

 続いてはちんまりとした美少女――ココが、

 

「ユウ、また変なことになってるんです?」

 

「変っていうかカオス」

 

「大変そうです」

 

 軽い調子でココが笑う。

 

「フィオナ、今日は帰りが少し遅くなるかもしれない」

 

「分かりました」

 

「それじゃ、またあとでね」

 

 優斗が優しい表情を浮かべながらブルーノをさっきのテラスへ連れて帰る。

 もちろん、宙に持ち上げたまま。

 

「ちょ、ちょっと待った! 嫁とはさっきの子猫ちゃんのことか!?」

 

「そうだけど……黙るか口を閉ざすか選択肢あげるから喋らないように」

 

「そ、それは選択肢とは言わな――あたたたたたたっ!」

 

 優斗は笑顔のまま手に力を込め、メキリとブルーノの頭が悲鳴をあげる。

 そしてテラスでは修がワインに話しかけていた。

 

「お前さ、好感度を上げようとか思わねーのか?」

 

「……好感度? 私のハルカに対する好感度は常にマックス」

 

「いや、そうじゃなくてよ。普通はここで春香が望むことをやらせてあげたら『ワイン、ありがとう!』とか言って抱きついてくるだろ。こいつのキャラなら」

 

「……えっ?」

 

 今は不機嫌そうな表情だが、元気印で初対面でも手をぶんぶんと振り回すような子だ。

 そういうことだって、十分に考えられるものだが。

 

「な、なんたる失態!」

 

 ワインもその可能性に気付き、頭を抱えた。

 修はさらに話を続ける。

 

「つーか女の子同士ってスキンシップ結構あるらしいし、春香に触りたいなら親友ポジション確立させといたほうが何かと楽じゃね?」

 

「た、例えばどういうのがある?」

 

「仲が良い奴らだと、手を繋いで買い物とかほっぺにチューぐらいまであるらしいし、凄い仲が良かったら……それ以上もあるらしいぜ?」

 

 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる修。

 ワインの頭の中では、親友になったバージョンでのやり取りが妄想されているだろう。

 そして、

 

「ハルカ! 私、親友になる!」

 

 もの凄い勢いで宣言した。

 鼻息は荒く、どう見ても酷い。

 

「……修センパイ。これって手助け?」

 

「病む方向性とは別に向けてやったつもりだぜ?」

 

「確かにぼくのことは考えてくれるようになったかもしれないけどさ……」

 

 なんかもう良い意味でも悪い意味でも毒気が抜かれた。

 

「ここまで下心満載の親友宣言初めて見たよ」

 

 

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