第151話 クラインドールの勇者、登場

 

 目の前で行われた自己紹介に対して、優斗と修は視線で会話する。

 

『……どうしよっか?』

 

『いや、そう言ったって明日ぐらいに会いそうなんだろ?』

 

『そうなると、しょうがないね』

 

『だろうな』

 

 会話終了。

 というわけで、二人も自己紹介を始める。

 

「内田修。あんたと同じ日本人っつーわけで、よろしく」

 

「宮川優斗。同様に日本人だよ」

 

 さらっと言われた大層な単語に、春香の顔がポカンとする。

 

「…………へっ? 日本人?」

 

 そして二人の髪と目を特に見回し、

 

「あ~っ! うわ、うわっ! もしかして召喚された人達なの!?」

 

「そういうこった」

 

「苦節十ヶ月! 同世代の日本人に初めて会ったよ~!」

 

 嬉しさのあまり優斗と修の手を取って、ブンブンと上下に振り回す春香。

 どうやら言葉から察して何人かの日本人には会ったようだが、同世代は初めてらしい。

 感激のあまりニコニコの春香だが、その時だ。

 

「悪いけど、この子猫ちゃんは俺様のものだから」

 

 彼女の首に腕を回した男性がいた。

 青い鎧を身に纏い、顔の彫りは深く、なんとなくイタリアなどのラテン系なイメージを優斗達は思い浮かべる。

 

「――っ! は、離してブルーノ!」

 

 すると春香が振り解くように腕をはがして離れる。

 けれど目の前にいる男性は飄々とした様子で肩をすくめた。

 その隣には、赤い鎧を着けている少女。

 こちらは髪が赤みがかっており、北欧系で妖精のような顔立ち。

 さらには春香と同程度のショートカット。

 ただ、先程からぶつぶつと呟いている。

 

「……こいつら、ハルカの柔肌に触った。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。ハルカは私のもの、私のものなんだから」

 

 聞こえてくるのは物騒な単語。

 ノッケから凄かった。

 

「ロイス君、ちょっと来て」

 

 優斗が手招きで呼び寄せる。

 

「この二人、なに?」

 

「えっと……“青の騎士”ブルーノと“赤の騎士”ワインです。八騎士の中でハルカ様と一緒に動いているのが俺と、この二人なんです」

 

「あのワインって子、僕と修とブルーノって人に殺気放ってるけど」

 

 呟きながらも、何だかんだでどえらい殺気がこっちに向かっている。

 

「……ワインはハルカ様が大好きなので」

 

「なるほど」

 

 優斗は頷くと、修と一緒に肩をすくめた。

 

「百合ヤンデレに俺様にロイス君……か」

 

「うちと同じくらいに濃いんじゃね?」

 

「かもね」

 

 というか勇者パーティは何かしら濃い必要性でもあるのだろうか。

 正樹しかり、春香しかり、修しかり。

 するとブルーノが不意にキリアに視線を送った。

 

「おっと、そこの子猫ちゃん。俺様に惚れたら駄目だ」

 

「……わたし?」

 

 キョロキョロとキリアが周りを見回すが、そこにいる女性は彼女しかいない。

 

「俺様は外見だけで惚れてくるような女を相手をしない主義だ。それに今は、この子猫ちゃんがいる」

 

 春香にウインクを送る。

 決まってはいたが、春香は鳥肌が立ったのか両の手で腕を擦っていた。

 キリアは突然に訳の分からないことを言われて眉根をひそめるが、

 

「イケメンって正直、クリス先輩あたりで見慣れてるのよね。っていうか貴方、顔がくどい」

 

 ブルーノを一刀両断する。

 優斗が笑った。

 

「正統派だもんね、クリスは」

 

「あっちに見慣れると駄目ね」

 

 ドS師弟でさらに追撃。

 そして春香に向き、

 

「鈴木さんも大変だね」

 

「春香でいいよ。こっちに来てからずっと呼ばれてるし、この世界って結構下の名前で呼ぶし。それにたぶん、ぼくの方が年下だよ?」

 

「こっちは高校で言えば高3だよ」

 

「ぼく、高2だから」

 

「じゃあキリアと一緒なんだね。分かったよ、春香」

 

「こっちもよろしくね、優斗センパイに修センパイ!」

 

 簡単に下の名前を呼んだ優斗。

 慌てたのはキリアだ。

 

「ちょ、ちょっとちょっと。フィオナ先輩、大丈夫なの?」

 

 かつて、キリアを名前で呼ぶことすら悩むことになった優斗だ。

 なのにこんな簡単に呼んでいいのだろうか。

 バレたら大惨事しか思い浮かばない。

 

「安心して。名前ぐらいは大丈夫になったんだよ、最近」

 

「……それでも最近なのね」

 

 色々な人に会い、さらには下の名前で呼ぶことも多い。

 なのでフィオナに了承して欲しいと頼んだから、大丈夫だった。

 三月末の一件で、どうやら彼女にも多少の心境の変化があったらしい。

 

「春香も濃い連中に囲まれて楽しそうじゃねぇか」

 

 修がからかうように言うと、春香がもの凄い勢いで頭を振った。

 

「む、無理無理! ほんっとに無理なんだってば! ヤンデレとか百合とかアニメで十分だし、俺様とか実際にいたらキモいだけだし、ロイス君は幼なじみのことばっかりしか話さないけど、人畜無害だからロイス君だけが心のオアシスなんだよ!」

 

 小声ではないので、後ろにいる青の騎士と赤の騎士にも聞こえており、地味に表情が沈む。

 しかし優斗と修は出てきた単語に首を捻り、

 

「……あれ? 君って……オタク?」

 

「もしかして腐ってたりもすんのか?」

 

 先程、優斗が言ったのは確かだ。

 だがどうして彼女も使えるのだろうか。

 

「――っ!? な、なん、どうして!?」

 

「一般人じゃ言葉の意味、分かんねーだろ」

 

 オタカルチャーに多少なりとも理解がなければ使えない。

 

「……あー、えと、これは違うんだって、だから、その――」

 

 瞬間、優斗がロイスの足を引っかけ、さらに突き飛ばした。

 飛ばした先は修。

 修が体勢を崩したロイスを見事にキャッチする。

 

「す、すみません!」

 

「気にすんなよ」

 

 なぜか謝るロイスだが、優斗と修は同時に春香を見る。

 

「キターっ! ヤバッ、ヤバ! うわ、桃源郷がここにあるよ! ロイス君も顔はそこそこ良いけど、やっぱりイケメンがキャッチっていうのが乙だよね! そうだよね! 時代が来てるよ、今!」

 

 小声ではあるが、なんかもう色々と口から漏れていた。

 表情も先程以上に輝いている。

 

「思ってたより腐ってんな」

 

「想像してたより腐ってるね」

 

 春香の様子を見て断言する二人。

 それに気付いた彼女は、

 

「は、謀ったな!?」

 

「謀る以前の問題だと思うけど」

 

 単純そうな娘だからやったのだが、ここまで見事に嵌まるとは。

 

「じゃあ、攻めの反対は?」

 

「引っかからないよ。守り」

 

 自信満々に答える春香。

 

「やり取り知ってる時点で駄目だから」

 

「……っ! 謀ったな!?」

 

「いや、こんな単純な手にやられるとは思わなくてビックリした」

 

 面白い子だ。

 素直にそう思う。

 

「そういえばこの面子で明日、王様に謁見するって?」

 

 クラインドールの腐った勇者、会話ワンパターン黒の騎士、ヤンデレ赤の騎士、俺様青の騎士。

 最初の二人はまだいいが、後者はさすがに殺気やら何やら色々とある。

 

「アポとか取ってんのか?」

 

「えっと……前々から各国に伺う話はしてますし、そこまで時間は掛けませんから」

 

 ロイスが答えると、優斗と修は良い笑顔で言った。

 

「「 却下 」」

 

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