第125話 新入生とドSな師弟もどき

 4月になり、新入生も入る。

 あのメンバーも学年が上がり最上級生になってもう1週間。

 

「失礼します」

 

 優斗が生徒会室へと呼ばれた。

 レイナがいる時はちょくちょく訪れていた部屋。

 今は当代生徒会長、ククリ・ニースがそこにいる。

 

「あっ、ミヤガワさん」

 

 優斗に気付くと眼鏡と三つ編みをぶら下げた少女は立ち上がった。

 

「ニース生徒会長、僕を呼んでるって聞いたけど修とか和泉とかがまた馬鹿やった?」

 

 彼女は去年書記であり、優斗とも面識がある。

 いつものメンバーが馬鹿やってレイナに説教されている時や、その他いろいろなことで。

 彼女は小さく笑うと、

 

「いえ、それも問題といえば問題なのですが今回は別件です」

 

 そう言ってククリは優斗を椅子へと促す。

 優斗も促されるまま席に座る。

 

「別件っていうのは?」

 

「それはもう二人来てから説明させていただきます」

 

 とククリが言うので、二人で談笑しながら待つ。

 すると、

 

「すまない、待たせたな」

 

 ドアを開けながら予想外の人物がやって来た。

 

「……レイナさん?」

 

 赤みがかった髪に、近衛騎士の制服をまとった女性。

 先日卒業した元生徒会長がそこにいた。

 

「何でいるの?」

 

「これも近衛騎士の仕事だ」

 

「……どういうこと?」

 

「平時のアリシア様の身辺警護が私の仕事になった」

 

 今までも近衛騎士の方々が学院にいることは優斗も知っている。

 貴族の子息も多く、今に至ってはアリーもいるから近衛騎士が警護の為にいても理解できる。

 そこに今回、レイナが加わったというわけか。

 前年度の生徒会長にしてアリーの仲間。

 とても都合が良いし、彼女の指南役になる近衛騎士はここの警護を請け負っている人物になったのだろう。

 

「アリーが平時にいるというと……ここだね」

 

「そう、学院だ。ちなみに私の指南役となっていただいた近衛騎士と一緒に剣の指導も行うこととなった。よろしく頼む」

 

「……パーティーでのやり取り、台無しだね」

 

 あれほどかっこつけて色々とやっていたのに。

 思わずレイナも顔が赤くなる。

 

「あとは学長もいるなんて、かなりの大事ということですか?」

 

 優斗がレイナの後ろに視線を送る。

 学長が飄々とした様子で優斗達に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優斗は事の次第を聞く。

 

「……1年が調子に乗りすぎてる?」

 

「はい、そうなんです」

 

 ククリが頷く。

 

「近いうち、3年にも喧嘩をふっかけそうな勢いらしくて。1年同士ではもう、喧嘩というかいじめに近いですね」

 

「生徒が出る幕なの、それ?」

 

 明らかに先生側で対処すべきことだと思うのだが。

 けれどククリはちらりとレイナを見て、

 

「学院の平和ぐらいお前達で守れ、と言われてしまって」

 

「……うっわ、うざったい前生徒会長がいる」

 

 レイナは武闘派生徒会長だったからいいかもしれないが、ククリはそうじゃない。

 同じようにさせるのも酷という話だ。

 

「っていうか3年にアリーがいるって知らないの? アリーに見られたらやばいとか思わないわけ?」

 

「理解できていないからやっているのだろうな」

 

 レイナもそこには呆れる。

 

「ラッセルの時は?」

 

「あれの場合はただの貴族至上主義だ。しかもいじめは一切していない。悪いことはしていないのだから厄介なだけだった」

 

 基本的には貴族と話す平民を邪魔する。

 平民の子にいかに貴族と立場、血統が違うかを見下しながら話す。

 とはいえ、暴力等は使っていない。

 最終的にはとんでもないアホなことをやったが。

 

「この学院って時折、変なのいるよね」

 

「……本当にな」

 

 レイナも全力で同意する。

 

「それで、どうして僕なのかな?」

 

「お前に頼むのが一番楽だ。シュウだと問題が大きくなりそうだし、クリスだと“公爵イケメン学院最強”ということで遺恨が残りそうだからな」

 

 あとはククリが頼みやすい、という点でも優斗が一番だ。

 

「学長はどう思われますか?」

 

 優斗は黙って話を聞いている学長に振る。

 

「生徒で解決できるのなら、問題ないとは思うがのう」

 

「僕でいいんですか?」

 

 自分で問題ないのか、と。

 そう訊く優斗。

 だが学長は笑みを浮かべたまま、

 

「君はリライト魔法学院の生徒ではないかの?」

 

 

        ◇      ◇

 

 

「……で、どうしてわたし達を連れてきたの?」

 

「2年の男子トップと女子トップを連れてきたら何かと楽」

 

 その日の放課後、優斗はキリアとラスターを連れて校舎脇を歩いていた。

 

「まあ、学院の為になることをするのはいいことだろう」

 

 ラスターは納得しながら優斗の後をついていく。

 だがキリアは大げさにため息をつき、

 

「ラスター君はそれでいいかもしれないけどね。わたしの場合、これも訓練の糧にされるんだから。しかも状況が状況なだけに何をやらされるか分かったものじゃないわ」

 

「たまには新鮮でいいと思うよ」

 

「……先輩。基本的にやることなすこと新鮮だから余計な心配よ、それ」

 

 ダンジョンとかの罠を全部無効化しろとか鬼だし、目隠しして気配でかわせとか酷いし、訓練自体が基本からとっぱずれている。

 

「だとしても、こういうのはあんまりないし……っと。見っけ」

 

 校舎裏までやってくると、とある集団が見つかる。

 集団は15人。

 一人だけが真ん中で時々殴る蹴るの暴行を受けていて、ほとんど泣いていた。

 

「あん?」

 

 優斗達の足音に彼らが気付いた。

 いぶかしんだ表情をさせているが、優斗は気にせず集団に飛び込み、

 

「はい、邪魔」

 

 颯爽と少年を助けて引っ張りだす。

 それで自分の背へと隠した。

 

「ほら、泣かないの。男でしょ?」

 

「大丈夫か? いま治療してやる」

 

 優斗の背後ではキリアが声を掛け、ラスターが治療魔法を使う。

 

「何だてめえは」

 

 威圧するように目を鋭くとがらせる少年がいた。

 おそらく彼がリーダーなのだろう。

 ただ、

 

「……なんでこう、不良って不良然としてるのかね」

 

 優斗的にはもうちょっと捻りが欲しかった。

 こう、普通すぎる。

 しかしラスターが魔法を使いながら、

 

「毎年いるらしいぞ。うちの学年にもいたがレイナ先輩が更正させていた」

 

「……今年は僕にやれってか」

 

 はあ、と盛大に優斗はため息をつく。

 するとリーダーの少年はさらに凄む。

 

「……その制服、3年と2年か。先輩だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 詠唱破棄の火の魔法を一発、優斗に撃った。

 

「喧嘩っ早いのもテンプレっぽいなぁ」

 

 だが優斗は風の魔法を手に纏わせると火玉を地面に叩き付ける。

 まるでゴミを払うかのように軽いスナップで。

 

「余計な手間を……って、あれ?」

 

 少年達を見ると唖然とした表情。

 中には口をあんぐりと開けた子もいる。

 

「……あ、そっか。あんまりやる人いないんだっけ?」

 

 すっかり忘れていた。

 ここ最近は神話魔法にばかり驚かれていたから、こっちも似たようなものだということを失念していた。

 

「手ではじき飛ばすのは先輩以外、見たことないわ」

 

「コンマ数秒の準備で火の中級魔法を服焦がす程度ではじき飛ばす奴だ。鬼だろ」

 

 キリアが優斗に並びながら呆れ、ラスターも治療が終わったのかキリア同様呆れる。

 彼らの前ではなぜか警戒心を滲ませている少年達が構えていた。

 

「初っぱなから相手を呑み込んだわね」

 

「いや、呑み込む気はなかったんだけど」

 

 かわしても後ろの皆に当たるかもしれないからやっただけ。

 偶然の産物にすぎない。

 

「ミヤガワも少し常識を知ったほうがいい」

 

「……ラスターに言われるとかショックだ」

 

 優斗が少し落ち込む。

 と、リーダーの少年がちらりと魔法具のようなものを見せた。

 そして勝ち誇った表情。

 

「弱い奴らが粋がってんじゃねぇよ」

 

 どうにも凄い魔法具らしい。

 もしかしたら上級魔法を扱える、といったものかもしれない。

 だが、

 

「ちょっと前のキリアとラスターを見てるみたい」

 

「……あそこまで酷かったかしら?」

 

「そこまで酷いか?」

 

 この3人は余裕を崩さない。

 

「まあ、キリアもラスターも『わたしは先輩より強い!』みたいな感じだったよね。あの子とはちょっと違うか」

 

「……今聞くと恥ずかしいわね」

 

「……本当だな」

 

 2,3ヶ月前の自分のことを暴露されて顔が赤くなる2人。

 少なくともこの男に言ったことだけは大きな失敗だった。

 と、後ろで庇うようにしていた少年も僅かばかりに余裕が生まれたのか、

 

「あ、あの、ありがとうございます」

 

 頭を下げて感謝してきた。

 優斗とラスターは気にするな、と手を振る。

 キリアはまじまじと少年を見たあと、

 

「でも彼ら、やってることが温いわよね。蹴る殴るだけとか誰でもできるじゃない」

 

 なんかとんでもないことを言い始めた。

 さらに優斗も大きく肯定する。

 

「確かに。もうちょっと限界までいじめればいいのに。身体全身脱臼させて、ある程度やったら治す。で、エンドレスに繰り返したら痛いわ動けないわで心を叩き折れると思うんだけど」

 

「こういうのって骨が折れる限界まで見極めてやるのが普通じゃないの?」

 

 さらっと漏れた二人の言葉にその場全員の肝が冷える。

 

「何だこのドS師弟もどき」

 

 ラスターがツッコミを入れた。

 後ろでボコボコにされた少年を前にして『やっていることが温い』って。

 ちょっと少年が恐怖でガクガクし始めたので、ラスターが背中をさすってフォローする。

 

「何をコントしてんだよ!!」

 

 怒鳴り声を上げてリーダーの少年が自分に注目を持ってくる。

 そしてまた、にやりと笑って言った。

 

「俺のパパは侯爵だぜ? 俺はそこの次男坊ってわけ」

 

 すると、だ。

 優斗達3人の身体がビクっと跳ねた。

 その様子にリーダーの少年は喜ぶように言葉を続けた。

 

「はっ、ビビッたか」

 

 そうだろう、そうだろう、と。

 仮にも貴族を相手にそう無理が出来るわけも――

 

「そりゃあ、その歳で『パパ』って言ってるんだからビビるわよ」

 

「キリア、そういうのは分かっていても言わないのが先輩ってものだよ」

 

 またドSの2人が笑いそうになりながら抉るような言葉を発する。

 身体が跳ねたのは恐怖で驚いたのではなく、唐突な笑いのネタに吃驚しただけ。

 優斗もフォローしているようで、まったくフォローになってない。

 

「あっ、パパといえばこの間、フィオナ先輩が盛大に自爆したって聞いたわよ。先輩、教室の中でフィオナ先輩から『パパ』って呼ばれたんですって?」

 

 マリカのことを考えていたフィオナが優斗を呼んだときに『パパ』と呼んだことがあったらしい。

 優斗達の教室――3年C組では想像以上に面白い光景になったともキリアは聞いている。

 

「……2年にまで広がってるの?」

 

「フィオナ先輩ってやっぱり美人だもの。目を惹くし話題にもなるわよ」

 

「……超恥ずい」

 

 また話が盛大に逸れる。

 

「無視すんなっつーの!!」

 

 リーダーの少年がまた叫ぶ。

 同時に集団にいた一人がキリアに殴りかかった。

 おそらくは3人の中で唯一の女性であるからなのだろうが、

 

「女だからって舐めてるの?」

 

 仮にも優斗に師事をしているキリア。

 振りかぶって放たれた右手を取ると、少年の手を背後に捻りながら足を掛けて転ばせる。

 そして左手を背に置くと、地面へと叩き付けるように押しつけた。

 あまりダメージはないように考慮したので、彼に与えたのは衝撃ぐらいだろう。

 

「……生爪でもはがしたら面白いかしら」

 

 殴りかかった少年を取り押さえながら背筋が凍りそうな怖いことを告げる。

 

「キリア、それはいじめではなく拷問だぞ」

 

「いや、でも現状だと一理ある。爪ぐらいなら――」

 

「ミヤガワも乗るな!」

 

 ラスターがツッコむと優斗とキリアも笑い、

 

「冗談だから」

 

「冗談よ」

 

「貴様らのは冗談に聞こえない!」

 

 むしろ本当にしか思えなかった。

 ラスターとてそう感じたのだから、先程のやり取りしか知らない少年達は余計に恐怖したことだろう。

 キリアが押さえつけている手を離すと、少年は飛ぶような速さで集団に戻る。

 

「さて」

 

 優斗は気を取り直したように彼らを見る。

 

「ラスター、キリア。この中で好戦的なのは何人でしょう?」

 

 彼らは総勢で15人。

 この中で優斗達と一戦を構えようとしているのは果たして、何人いるだろうか。

 

「……10人か?」

 

「……6……いや、5人ね」

 

 ラスターは何となく。

 キリアは気配を感じながら答える。

 

「ラスター論外キリア残念。キリアは最初の感覚を信じればよかったのに」

 

 優斗は彼らに手の平を向けると、

 

「答えは6人だよ」

 

 瞬間、好戦的と言われた6人が襲いかかってくる。

 まさしく乱戦となりそうな状況だったのだが、

 

「キリア、後ろの子はラスターに任せていいよ。あと、この子達1年だから怪我させないように」

 

「はいはい。これも訓練なんでしょ?」

 

「手加減を覚えるには最適だよ」

 

 優斗とキリアは訓練と称して彼らの相手をし始めた。

 ラスターは少年を背にしながら状況を眺める。

 

「あ、あの」

 

 すると背後の少年がラスターに話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「だ、だいじょうぶなんですか?」

 

 心配そうに優斗とキリアを見る少年。

 だがラスターは無用な心配だと言ってあげる。

 

「2年の女子トップと3年の成績優秀者だ。で、史上最悪の師弟もどきだ。並大抵じゃない1年だろうと相手にならないぞ」

 

 話している間にも優斗は3人を上空に放り投げ、キリアも1人目と2人目の戦意を喪失させるほどに圧倒した。

 キリアは3人目の前に立つ。

 

「あなた、でっかいわね」

 

 目の前にいるのは縦にも横にもでかい。

 身長は185センチぐらいだろうか。

 横も恰幅が良く、体重も軽く100キロはオーバーしているだろう。

 

「キリア。純粋な実力なら彼が一番強い。だけど近接と初級魔法だけね」

 

 優斗から指示が入った。

 視線は逸らさずキリアも頷く。

 

「――っ! 舐めるなっ!」

 

 でかい少年は激怒したかのような声をあげ、殴りかかってくる。

 

「動きが遅いわ」

 

 キリアは右から放たれる拳も、左から唸る豪腕も全て流すようにかわした。

 当たりそうになるものは僅かに触れて逸らし、微かに触れそうなものは足を動かして最小限でかわす。

 でかい少年が数歩下がり右手を掲げた。

 

「求めるは――」

 

「この状況下で大げさな魔法を撃てると思わないことね」

 

 キリアは前に出ると少年の右手に触れ、真下に押しつける。

 

「わたしが……何度も……何度も……何度も何度も! 本気で先輩に殺意を抱くぐらい何度も言われ続けてきたことなんだから!」

 

 慌ててさらに下がろうとした少年の右かかとにキリアは足を入れて、軽く胸元を押す。

 それだけで容易にでかい少年が尻餅をついた。

 優斗が満足そうに頷く。

 

「まあ、これぐらいは出来ないとね」

 

 自分は相手をし終わったのでラスター達のところへと戻る。

 

「ミヤガワ。キリアの近接が異様に強くなってる気がするんだが。というかテンションがおかしい」

 

 時折、この師弟もどきが訓練している際に一緒に動く時があるが、その時のキリアの妙な様子に似ている。

 本当に師匠もどきはありえない、と思っている時のキリアだ。

 優斗はきょとん、とした表情をさせるが、

 

「魔法と精霊術中心だとしても、ある程度の近接はできないと駄目だからね。少なくともクリスの剣技をかろうじて防げるぐらいには育てるつもり。まあ、クリスはオールラウンダーだから剣を防いだところで勝てないけど」

 

「……要するにテンションがおかしいのは訓練の後遺症か」

 

 キリアは常々、優斗の訓練は酷いと言っているし聞いているが、自分が話を聞いていない訓練もそうなのだろう。

 

「あれは動きながら詠唱できないキリアが悪い。毎度同じ感じでぶっ飛ばしてるし。出来ないなら出来ないで他の方法を考えろっていうことを教えてるだけ」

 

 確かに中級、上級魔法を使う時は集中するので動きが止まる場合も多い。

 だが、そこを毎回的確に狙う優斗もどうかとラスターは思う。

 

「今の『学院最強』も強いのか?」

 

「鍛錬以外やることなかったからね。あれほど綺麗な剣技は見たことない。教科書通りってものを極めたら、あんな風になるってことを教えられたよ」

 

 綺麗で見惚れる。

 というか欠点が見当たらない。

 

「先輩!」

 

 するとキリアから声が掛けられる。

 

「この子体力が有り余ってるみたいなんだけど、どうしたらいいの!?」

 

 立ち上がったでかい少年の攻撃をかわしながら訊いてきた。

 なので優斗は、

 

「とりあえず相手が大きく踏み込んで殴ってきた瞬間――」

 

 彼らの動きの流れに沿って伝える。

 

「――足を蹴り上げる!」

 

 言われた通り、キリアが足を蹴り上げた。

 

「うぐっ!」

 

 現在、立ち位置的にキリアはでかい少年の真っ正面。

 近い位置でかわしていたので足は必然的に足の間を通り、股間を直撃。

 でかい少年が衝撃でうずくまった。

 

「ご、ごめんなさい。だいじょうぶ?」

 

 男子しか分からない痛みなのだが、痛いということはキリアも知っているので申し訳なくなった。

 けれどこれで戦闘は終了。

 ラスターは息を吐く……と同時に気付いた。

 

「あのリーダー格の少年はどうした?」

 

 優斗が3人を上空に放り投げたのは見ていた。

 そして無事に落ちてきているのは2人。

 リーダーの少年だけが足りない。

 

「上だよ」

 

 優斗がピッ、と上を指す。

 

「……うえ?」

 

 ラスターが指先を追うように上を見た。

 

「うわあああぁあっぁぁぁぁあっっ!」

 

 かろうじて聞き取れるような叫び声をあげながら、リーダーの少年がぐるぐると高速で回転させられていた。

 

「精霊術か?」

 

「その通り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分後。

 グロッキーになるまでリーダーの少年をシェイクしたあと、

 

「ちょっと学院でも問題になってるからね。二度とやらないって誓ってくれるなら、特に何もなしで帰すけど」

 

 優斗は窘めるように15人に聞かせる。

 リーダーの少年は真っ青になりながらも反抗した。

 

「だ、誰が聞くか!」

 

「これでも生徒会長直々のご指名でやってることだから、少しは成果を見せないといけない立場なんだよ」

 

 なので中身は変わらずとも暴れなければ優斗はそれでいいと思っている。

 だが、

 

「そりゃ残念だな。俺は何度でもやるぜ? お前らもそうだろ!?」

 

 リーダーの少年も負けない。

 意地を張って反抗する。

 他の少年達も鼓舞されたのか彼が怖いのか分からないが「そうだそうだっ!」と叫んだ。

 ただし、

 

「あっ、やっちゃったわね」

 

「……ご臨終だな」

 

 2年生2人のご愁傷様ポーズが彼らの視界に入って、勢いが一気に盛り下がった。

 というか勢いそのものが消える。

 

「そっか。何度でもやるんだ」

 

 優斗が笑みを浮かべる。

 しかし先程までとは違い、凄味が違う。

 というか、笑っているのに何故か怖い。

 

「全員、正座」

 

 笑みとは全く釣り合わない単語が出てきた。

 

「聞こえなかった? せ・い・ざ」

 

 染み渡らせるように告げられた3つの音。

 逆らえない何かがあり、15人全員が即座に正座をした。

 

「では宮川先輩による“更正タイム”の始まり始まり」

 

 優斗が自分で言いながら拍手する。

 ……1年生にとって恐怖の時間が始まった。

 

 

      ◇      ◇

 

 

 翌日、校門では異様な光景が広がっていた。

 

「おはようございます!!」

 

 1年生数人が校門に立ち、登校してくる生徒達に大きな挨拶をしている。

 他にも校舎回りを清掃している1年生の姿がちらほら見えた。

 生徒会長――ククリは唐突な光景に驚きを隠せない。

 

「……彼ら、でしたよね」

 

 調子に乗って暴れてる1年生、というのは。

 だがこれはどうしたことだろうか。

 一体全体、何があったらこうなるのだろうか。

 いや、やった人物に心当たりはあるけれど。

 

「頑張ってるね」

 

 すると彼らを改造した張本人が婚約者を伴って登校してきた。

 

「押忍! おはようございます!」

 

 代わる代わる優斗に挨拶していく1年生。

 リーダーの少年も綺麗に腰を折って挨拶していた。

 ククリは優斗の姿を見つけると駆け寄る。

 

「……ミヤガワさん、何をやったんですか?」

 

 いきなり超優良生徒になっているなんて、どんなことをしたのだろうか。

 けれど優斗は曖昧な笑みを浮かべ、

 

「知らないほうがいいよ」

 

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