第101話 小話④:ツッコミ過多な日々

 

 修、和泉、アリー、ココ、レイナが愛奈とマリカと一緒にテーブルを囲んでのんびりとお茶を飲んでいる。

 

「例えば、だ。マリカがおままごとをしたいと言ったら……誰がどうなる?」

 

 唐突に和泉がこんなことを話し始めた。

 彼の発言に修が笑みを浮かべる。

 

「なんつーか、話を聞くだけでも面白そうじゃんか」

 

 そして役割名をいくつか口にする。

 

「愛奈と優斗とフィオナは同じ家に住んでる家族だし除いておくか。ってなわけで残りのメンバー、ここにいない奴らも含めてパパ役にママ役、兄姉役にペットを言ってもらおうぜ」

 

「ペットに選ばれたらどうなるんだ?」

 

 レイナが尋ねる。

 

「ショック受けるだけじゃね?」

 

「……確かにそうですわね」

 

 マリカの純粋な瞳でペットなんて言われたらショックを受けること間違いなし。

 

「まあ、いいじゃねぇか。面白そうだしよ」

 

 そして修は膝の上にいるマリカに訊く。

 

「つーわけでマリカ。まずママ役は誰だ?」

 

「たーや」

 

 迷うこともせずにマリカが答えた。

 

「……即答でしたわね」

 

「何です? この計り知れない怒りは」

 

「女衆を問答無用で蹴散らしてママ役に選ばれるとは。ある意味さすがだが……腹が立つな」

 

 女の沽券に関わる。

 

「こいつらが女らしくないのか、卓也が母親すぎるのか」

 

「どっちにしても、卓也に負けてるアリー達は残念だなってこった」

 

 ある意味で卓也も残念だが。

 

「じゃあパパ役はどうだ?」

 

「れーな!」

 

 この場にいるためか、元気よくマリカが答えた。

 

「……俺らもレイナに負けてんじゃねーか」

 

「つまり男らしさがレイナ以下ということか」

 

「まあ、妥当なところだろう」

 

 修と和泉は少し項垂れ、レイナは満足げに頷く。

 

「ざまーみろです」

 

「シュウ様達も残念でしたわね」

 

 ココとアリーはこれ幸いとばかりに反撃した。

 とはいえパパ役とママ役が男女逆転しているというのは、何というかおかしな話だ。

 

「……いや、終わったものは仕方ねぇ。残り何枠かはマリカ次第だけど、呼ばれなかった奴がペット役ってことだな」

 

 修は切り替え、残る望みに全てを掛ける。

 

「マリカ、一気にいってみようか!」

 

「くー、いーみ、ありー、りー」

 

 つまりはクリス、和泉、アリー、リル。

 この4人が兄姉役。

 

「よかったですわ。お姉ちゃん枠で」

 

「そこはかとなく安堵した」

 

 この場にいるアリーと和泉が大きく息を吐いた。

 

「ということは、だ」

 

 レイナがからかうような笑みを浮かべる。

 

「ペット役がシュウとココか」

 

 視線を向ければ、がっくりとしている修とココ。

 

「むしろシュウ様の場合、ペット以外ありえませんわよね」

 

「ココもキャラ的にペットになるのは必然だったか。レイナ、パパとして慰めてやれ」

 

「残念だが私はペットにも厳しいぞ。容易に慰めたりはしない」

 

 全力でからかい始めるアリー、和泉、レイナ。

 思わずココがマリカに問い質す。

 

「マ、マリちゃん! わたしはお姉ちゃん枠に入れないんです!?」

 

「あいっ!」

 

 大きな返事が返ってきた。

 

「満面の笑みで頷かれましたわね」

 

「何だろうか、自分からトドメを刺されに来たようにしか思えない」

 

「今の質問は馬鹿だろう、ココ」

 

 アリーが可哀想な視線を送り、レイナが嘆息し、和泉が呆れた。

 

 

       ◇      ◇

 

 

 庭でまた変なことが始まっていた。

 

「第一コース。レナさんwithアリー」

 

 レイナがアリーをお姫様抱っこしている。

 

「第二コース。ズミさんwithアイちゃん」

 

 和泉が愛奈を肩車し、

 

「第三コース。シュウwithマリちゃん」

 

 修だけが何故か四つん這いで背中にマリカを乗せていた。

 審判役のココが説明を始める。

 

「ビリになったメンバーにはタク特製の激辛ジュースを飲んでもらいます。ズミさんの場合は辛いのが大丈夫なので激甘ジュースです。ちなみにアイちゃんとマリちゃんは罰ゲームとかはないので、楽しんでもらえればいいです」

 

 それぞれがスタート位置に付く。

 けれど一人だけ明らかに高さがおかしかった。

 

「なあ、なんで俺だけ四足歩行なんだ?」

 

 思わず疑問を口にした修だが、

 

「何か言ったかペット?」

 

「どうかしたかペット?」

 

「さっきの与太話の続きか、おい!?」

 

 レイナと和泉に疑問を瞬殺される。

 

「はいはい、シュウは訳の分からないチートなんですから、これでいいんです」

 

「ココも俺を雑な扱いしてんな!」

 

「それじゃ始めますよ」

 

「しかも無視か!」

 

 コントのような感じに思わず全員が笑いそうになる。

 

「というわけでいきますよ~」

 

 笑いを堪えながらココが腕を上げて、

 

「スタートです!」

 

 振り下ろした。

 

「行くぞ、アリー!」

 

「任せましたわ」

 

「愛奈、しっかりと掴まってろ」

 

「うん、なの!」

 

「しゃあ、行くぞマリカ!」

 

「あいっ!」

 

 三者三様、飛び出していく。

 僅かばかり抜け出したのはレイナ。

 次いで和泉、修の順番なのだが、

 

「あれで僅かな差しか生まれないっていうのが、意味わからないです」

 

 ココの視線の先にはカサカサと動いている修の姿。

 なぜ、あの体勢で対等の速さを出せるのかココには理解できない。

 とはいえ“修だから”で済ませられるのも、凄い……というか酷い話だ。

 

「あとちょっとでゴールです」

 

 今のままではレイナが一位、二位が和泉、ビリが修なのだが、

 

「マリちゃん、ブーストです!」

 

 ココが叫んだ。

 

「あうっ!」

 

 するとマリカは手に持っていた棒をペチペチと修の右のお尻に向けて叩いた。

 

「シュウ! 加速するんです!」

 

「いきなり無茶言うな!」

 

 修は反論するものの、

 

「ったく、しゃあない。マリカ、しっかり掴まってろよ!」

 

「あいっ!」

 

 実際に加速し始め、

 

「あっ、本当に速くなって……ズミさんとレナさん、抜いちゃいました」

 

 そしてそのままゴール。

 

「どうだ、見たかお前ら!」

 

 四つん這いのまま、勝ち誇った顔をする修。

 もちろん唖然としたレイナ達だったのだが、

 

「……なんというか、本当にシュウはペットのようだったな。ムチ叩かれて速くなるとは」

 

「修はマリカのペットである、と確定させた出来事だった」

 

「マリカンジャーをやった時から決定事項でしたわ」

 

「一位取ったのにペット疑惑深まってんじゃねーか!」

 

 修のツッコミに、からからと笑う全員。

 

「さて、というわけでビリになったズミさんにはプレゼントです」

 

 ココがコップを差し出す。

 そこにあるのは……激甘ジュース。

 和泉は愛奈を降ろし、コップを受け取ると一気に飲み干す。

 

「おおっ、ズミさん躊躇わずいきました」

 

「和泉もシュウも基本、躊躇いがないな」

 

「どうせ飲むしかないんだったら時間掛けたって仕方ねーだろ」

 

 それぞれが感想を述べている間に、和泉は空になったコップを全員に見せた。

 

「……これでいいか?」

 

「ズミさん、感想は?」

 

「……口の中が甘ったるい。味覚が変になりそうだ」

 

 渋い顔をする和泉を見て、また全員が笑う。

 

「そんじゃ戻るか」

 

「しゅーっ!」

 

「はいよ。このままテーブルまで、だろ?」

 

「あいっ!」

 

 マリカは四つん這いの修の首筋にがっちりと掴まる。

 アリーとレイナは二人に続き、和泉も歩き始めようとする。

 すると、だ。

 軽く服の裾を引っ張る感覚があった。

 和泉が視線を向けると、そこには愛奈がちょこん、と和泉の裾を握っていた。

 

「どうした、愛奈」

 

「……いずみにぃ」

 

 前にいるマリカの姿を見て、また和泉を見る。

 何かを訴えかけているのは一目瞭然だった。

 けれど和泉には把握しきれない。

 

「愛奈、悪いが俺は鈍いらしくてな。他の奴らのように察してやることができない。だからやってほしいことがあれば、ちゃんと言ってくれ」

 

 和泉はしゃがみ込み、愛奈を視線を合わせる。

 

「どうして欲しいんだ?」

 

「……えっと」

 

「なんだ?」

 

「……さっきみたいに……かたぐるま、してほしいの。……だめ?」

 

 駄目なら駄目で構わない、と。

 そのような言い方だった。

 和泉は嘆息して、

 

「いいか、愛奈」

 

 小さな妹の肩に手を置く。

 

「妹は兄や姉に甘えるものだ。そして俺もお前の兄だ。遠慮なく言ってくれていい。駄目なものはしっかり駄目だと言う」

 

「……うん」

 

「だから肩車ぐらい、お安いご用だ」

 

 和泉の言葉に愛奈の表情が輝いた。

 

「うんっ!」

 

 そして和泉は愛奈を持ち上げて、先ほどと同じように肩車する。

 

「いずみにぃ、たかいの!」

 

「そうか、良かったな」

 

 苦笑して歩きだそうとした和泉だったが、いつの間にか仲間が自分達を見ていた。

 

「どうした?」

 

「……いや、熱があるのかと思ってな」

 

 レイナが和泉の額に手をやる。

 

「なんつーか、あれだ。和泉が普通のお兄ちゃんをしっかりやってると、心配になるんだよ」

 

「ズミさん、激甘ジュース飲んで頭おかしくなりました?」

 

「お医者様を呼んだほうがよろしいのでは?」

 

 全員が酷いことを言ってくる。

 

「お前ら、せっかく格好良い台詞を言ったのに台無しだ」

 

 和泉だって妹にくらい、良い格好をする。

 

「えっと……」

 

 愛奈はよく分かっていないが、とりあえず和泉の頭を撫でる。

 

「いずみにぃ、ふぁいとなの」

 

「……愛奈が俺にとって心のオアシスだ」

 

 感動する和泉だったが、レイナが一言。

 

「和泉、悪いがアイナが心のオアシスなのは全員そうだぞ」

 

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