第97話 初邂逅

 翌日。

 

「はい、これでミルちゃんは完全に大丈夫です」

 

 ルミカはミルへの治療魔法を当て終わる。

 

「ありがとう、ルミカ」

 

「いえいえ、いいんですよ」

 

 ルミカは微笑む。

 

「この後はどうするんですか?」

 

「ユートとタクヤが実際に食材を買って、夕食を作ってみたらって。だから、市場に行って買ってくる。マサキも昨日、ちょっとだけ落ち込んでた。今日は普通みたいだけど、元気付けたい」

 

「一人で大丈夫ですか?」

 

 昨日の今日で、しかも慣れない国の市場だ。

 少し心配になる。

 けれどミルは首を縦に振った。

 

「大丈夫」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 そして昼過ぎ、三つの影がイエラートに降り立った。

 

「へぇ、初めて来たけど結構栄えてるのね」

 

「宗教国としてはミラージュに次ぐ国ですから」

 

「綺麗な国です」

 

 リル、フィオナ、クレアが珍しげに周囲を見回す。

 

「あたし、王女じゃなくて他国に来たのは初めて。しかも女同士で旅行みたいな感じだし、結構楽しいわ」

 

「久々にクリス様に会えます」

 

「……クレアはそればっかりね」

 

「気持ちは分からなくもないですよ」

 

 リルとフィオナが苦笑する。

 

「でも、とりあえずはショッピングでもしない? アリー達にお土産でも買うわよ」

 

「賛成です」

 

「ではその後、クリス様達に会いに行くのですね」

 

 

 

 

 

 

 しばし露店を冷やかしながら歩いていると、とある話題が耳に入ってくる。

 

「昨日、フォルトレスが復活したって話題で持ちきりね」

 

「しかもすぐに倒されたということで、大魔法士様が再び現れた……みたいなことになっていますね」

 

「ユウト様ですか?」

 

「あいつ以外いないわよ。ていうか、二度目の地震は一度目よりも酷かったし、ユウトも同じように震わせてたんじゃないの?」

 

「……まったく。また格好良いことをして……」

 

 ぶつぶつとフィオナが呟く。

 

「驚くんじゃなくて、格好良いと思えるのはフィオナぐらいよ」

 

「けれどさすがユウト様です」

 

 と、そこで前方が騒がしいことに気付いた。

 

「……ケンカ?」

 

「いえ、誰かが一方的に罵られているようです」

 

 15歳ほどの少女が不良5人と向き合っていた。

 どうやら、大量の食材を持っている少女が、うっかり彼らのうちの一人とぶつかってしまったらしい。

 不良が一方的に責め立てるが、少女は一切反論せずに小さく震えている。

 その姿を見てリルの瞳に怒りが灯った。

 

「フィオナ、勝てる?」

 

「問題ないとは思いますが」

 

「じゃあ行ってくるわね」

 

 リルは頷くと、文句を言っている不良を真後ろから足蹴りした。

 突然の衝撃に突っ伏す不良だが、すぐに振り返り、

 

「誰だテメエはっ!!」

 

「美少女よ」

 

 堂々とリルが宣言した。

 思わず呆気に取られる不良5人。

 

「リルさんが言うと納得しますね」

 

「確かにリル様は美少女です」

 

 否定はできない。

 

「やる気かてめぇ!」

 

「売るなら買ってやるわよ」

 

 戦うのはフィオナだが。

 

「……まったく、リルさんも本当に苛烈ですね」

 

 フィオナは小さく笑いながらリルと隣に立つ。

 そしてアグリアとファーレンハイトを召喚し、

 

「すみませんが人数も人数ですし、本気でいかせてもらいます」

 

 左手を前に翳した。

 

「……大……精霊?」

 

 思わず暴言が止まる不良達。

 

「まじか?」

 

「まじで?」

 

「まじじゃね?」

 

「まじだわ」

 

 すると敵意をむき出しにして攻撃に出るどころか、

 

「女神だ」

 

「…………えっ?」

 

 素直に感動していた。

 

「おい、見てるか!? アグリア様とファーレンハイト様だぞ!」

 

「見てるに決まってんだろうがおい!」

 

「ヤベェ! まじやべぇ!」

 

「あの二体を従えてるのが美少女ってのが、シャレんなってねえぞ! 女神じゃねぇか!」

 

 ハイテンションの5人。

 不良とはいえイエラートの民である。

 精霊に関してはやはり、尊敬の念がすり込まれていた。

 

「……えっと…………どうすればいいのでしょうか」

 

 さすがにこんな状況は初めてなのでフィオナも困惑する。

 攻撃する気も削がれた。

 

「なあなあ、オレとちょっとお茶しねえ?」

 

「なっ!? ずるいぞてめぇ!」

 

「俺と是非!」

 

「ざけんな! この女神は俺と茶をしばくんだよ!!」

 

「馬鹿言うんじゃねぇ!!」

 

 なぜかフィオナの取り合いになる。

 

「イエラートで大精霊を召喚するって、大変なことになるのね」

 

「フィオナ様は確かに神々しいお姿です」

 

「……あの、二人とも? 私はとても困惑してるんですけど」

 

「だったら、ちゃっちゃと無理なことを伝えちゃいなさい」

 

 まさかこんなアホな展開になるとは思っていなかった。

 フィオナはため息一つ、彼らの前に立つ。

 

「あの、ちょっとよろしいですか?」

 

 不良5人の注目がフィオナに集まった。

 

「誘ってくれるのは大変嬉しいのですが、申し訳ありません。人妻なんです」

 

 そして左手の薬指に嵌まっている指輪を見せる。

 一瞬で彼らの表情が崩れた。

 

 

       ◇     ◇

 

 

 その後、周囲で状況を伺っていた人達にも囲まれそうになり、慌てて逃げた。

 

「こんだけ離れれば問題ないわね」

 

 賑やかな中央広場まで来て、一息つく。

 

「あんた、大丈夫だった?」

 

「大丈夫」

 

 大量の食材を持った少女が頷く。

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

「あんたの名前は?」

 

 問いかけるリルに少女は自分の名を伝える。

 

「ミル」

 

「ミル、ね。あたしはリル。で、女神って言われてたのがフィオナで、こっちがクレア」

 

「特に怪我もなくて良かったです」

 

「安心しました」

 

 ほっとした表情のフィオナとクレア。

 けれどミルは彼女達の名前を聞いて、少し首を捻った。

 

「リル? フィオナ?」

 

 つい最近、聞いたことがある。

 

「……あっ」

 

 ちょっと考えて、思い出す。

 

「タクヤの婚約者? ユートの奥さん?」

 

 ミルがそう言うとリルとフィオナがびっくりした表情をさせた。

 

「あたし達のこと知ってるの?」

 

「タクヤとユートに料理、教えてもらってる」

 

「……あいつら、イエラートにまで来て何やってんの?」

 

「分かるわけないじゃないですか」

 

 しかし可愛い少女に料理を教えてるってことが、ちょっとだけ腹立つ。

 

「リルは、タクヤが誰にも譲りたくないって言ってた人」

 

 ミルが卓也から教えてもらったことを口にした。

 

「……へぇ」

 

 それを聞いてリルは努めて平然と返そうとする。

 

「そうなんだ。まあ、やっぱりそうよね、婚約してるんだし」

 

「リルさん、顔が緩んでますよ」

 

 嬉しさを隠し切れていない。

 

「でも、やっぱり分からない」

 

「何がよ?」

 

「タクヤの言ってること、リルの表情を見て理解できたような気がする。恋愛ってどういうものか、分かったような気がする。でも、なんでか違う。わたしも、マサキのこと好きなのに、何か違う」

 

「…………あんた」

 

 いきなりなので話は繋がっていない。

 けれど、きっと卓也が何かを教えてあげたのだとはリルも容易に予想が付く。

 そして内容はおそらく“恋愛”のこと。

 

 ――会ったばかりだけど、仕方ないわね。

 

 卓也が世話を焼いている女の子だ。

 

「じゃあ、質問よ」

 

 ならば婚約者として、リルは卓也の代わりを請け負う。

 

「ミルはいつまで一緒にいたいの?」

 

「……いつ?」

 

「あたしは一生、卓也と一緒にいたい。離れるなんて絶対嫌だし、離れる気なんて毛頭ない。あいつが変な女に引っかかろうもんならぶん殴ってでも取り戻すし、そもそもそんなことすらさせない」

 

 あらゆる可能性を全部潰してみせる。

 

「でもね。この独占欲があるから、あたしは卓也に恋してるって胸を張って言える。好きなんだって声高に証明できる」

 

 自分は卓也と恋愛しているのだと分かる。

 

「あんたはどうなの? あんたの気持ちは、いつまで一緒にいたいと思ってるものなの?」

 

「……たぶん、ずっと」

 

「そう。それが恋なら、良いことだと思うわ」

 

 一緒にいたいというのは自然の流れだ。

 

「でも違うなら、縋ってるだけよ」

 

 相手を締め付けるだけになってしまう。

 

「……。フィオナも、リルと同じ?」

 

 ミルは今度、フィオナにも訊いてみる。

 

「私は一生を優斗さんに添い遂げると誓っています」

 

「……大魔法士、だから?」

 

「いいえ。大魔法士のユウト=フィーア=ミヤガワじゃなくていいんです。異世界人の宮川優斗じゃなくていいんです」

 

 そんなものは、ただの付加価値だ。

 

「私は『優斗さん』が共に居てくれるだけでいいんです」

 

「どうして?」

 

「愛していますから」

 

「何が、きっかけ?」

 

「優斗さんは優しいですし、強いですし、甘えさせてくれますし、他にもたくさん良いところがあります」

 

 数え切れない。

 

「でも一番最初は単純なんです」

 

 フィオナ=アイン=トラスティが彼に恋した切っ掛けは。

 

「私だけに優しさを届けてくれた。そして“私の世界”を広げてくれた」

 

「世界?」

 

「一年前の私は、とても無口で愛想がなかったんですよ。でも優斗さんの家庭教師をすることになってから、私はどんどん変わりました。彼は頑張って話かけてくれました。緊張しながらも私のために頑張ってくれました」

 

 本当に。

 今でも嬉しい出来事。

 

「おかげで私も少しずつ変われて、今の私になりました」

 

 話せるようになって、世界が広がって、たくさんの人と知り合えた。

 

「どうしてでしょうね。広がった世界には造形的に格好良いシュウさんやクリスさんがいたのに……私はやっぱり優斗さんが一番格好良いって思うんです」

 

 どうしようもない。

 他の誰かを格好良い、だなんて思えない。

 

「優しく笑ってくれる彼が愛しい。真剣な表情になった時の彼が愛しい。友人にからかわれている時の彼が愛しい」

 

 心から愛おしい。

 

「他の誰かじゃ駄目で、優斗さんがいいんです」

 

 たった一人の男の子。

 

「優斗さんじゃないと嫌なんです」

 

 唯一の男性。

 

「だから私は心の底から思えます」

 

 フィオナは本当に優しく笑む。

 

「優斗さんを愛している、と」

 

 そしてリルがまた、伝える。

 

「間違えたらいけないわよ」

 

「……何を?」

 

「恋に落ちたら盲目的になるのであって、盲目的だから恋なわけじゃない」

 

 どっちが先かで結果は変わってしまう。

 

「順番を間違えたら駄目」

 

「…………うん」

 

 諭すようなリルに、ミルも頷く。

 するとタイミングよく駆け寄ってくる姿が三つある。

 

「あっ! ミル、やっと見つけたよ!」

 

 正樹とニア、ジュリアがミル達の前に立った。

 

「マサキ?」

 

「帰ってくるのが遅かったから、みんなで探しに来たんだ」

 

 そして一緒にいるフィオナ達に気付き、

 

「知り合い?」

 

「フィオナ、リル、クレア。さっき、助けてもらった」

 

「そうなんだ。ミルを助けてくれてありがとう」

 

 にこやかに笑みを浮かべる。

 そして彼女達の容姿を見て、

 

「うわぁ、すっごく綺麗な人達だね」

 

 素直な感想を述べた。

 瞬間、後ろにいる二人がフィオナ達を睨む。

 

「私達、どうして睨まれてるんですか?」

 

「知らないわよ」

 

「何か粗相でもしてしまったのでしょうか?」

 

 正直、意味が分からない。

 しかし一人の女性が怒鳴る。

 

「貴様ら、マサキに惚れたらただじゃおかないぞ!」

 

「……何語ですか?」

 

「少なくともあたしは理解できなかったわ」

 

「わたくしもです」

 

「なんだか侮辱されてるように思えるわね」

 

 唐突にやってきて何なんだ、この連中は。

 

「どうせ貴様達も『フィンドの勇者』であるマサキの強さと格好良さに惚れるに決まってるんだ!」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ。あたしには婚約者がいるの。そいつがどれほど凄くて格好良かろうがどうでもいいのよ」

 

「マサキ以上の男なんているわけがない! 貴様の婚約者より凄いんだから、マサキに乗り換えるかもしれないだろうが!」

 

「あんた馬鹿? リステル王国第4王女のあたしよ。そいつよりイケメンの王子だって友人だし、笑えないほど強い勇者だってあたしの仲間よ。それでもあたしは婚約者のことが好きだって言ってんの。あんたが惚れてるからって、こっちまで巻き込まないでほしいわね」

 

「貴様、王族の権力を擁してマサキをどうするつもりだ!?」

 

「……ああ、もう。本当に話が通じないわね」

 

 理屈でも感情でも通用しない。

 すると正樹が取りなすように、

 

「でも、ボクなんかじゃ釣り合わないよ。フィオナさんはなんかもう、大和撫子みたいでドキっとするくらい可憐だし、リルさんは王族だって言ってた。クレアさんも儚げな感じがあって可愛いし」

 

 フォローしたつもりなのだろうが、逆効果。

 ニアの視線が今度はフィオナに向かう。

 

「貴様、マサキをどうするつもりだ!?」

 

 一番の褒め言葉を受けたフィオナにニアが猛る。

 

「どうもしません」

 

「事と次第によっては斬るぞ!」

 

「だからどうもしないと言っています」

 

 フィオナの表情が段々と冷たくなっていく。

 一触即発になりそうな空気になった……その時、

 

「正樹さん、ミルは見つかりました?」

 

「こっちにはいなかったぞ」

 

「あとはここを探すだけなのですが」

 

 彼女達の相手がやって来た。

 彼らは正樹達の姿を認め、ミルを認め、そして、

 

「フィオナ?」

 

「……リルか?」

 

「クレア、どうしているのですか?」

 

 予期せぬ訪問者に驚いた。

 

「優斗さんっ!」

 

 フィオナの表情が一気に華やいだ。

 そして優斗に抱きつく。

 リルも卓也のところへと向かい、

 

「お前、どうして――」

 

 スパン、と。

 頬を一閃、ビンタした。

 

「……リル。さすがにビンタは予想外だった」

 

 ちょっとだけ、優斗達みたいになるのではないかと期待していた。

 

「あんた、あたしに言い忘れてることあるでしょ」

 

「……? いや、ないと思う」

 

「誕生日」

 

「……あれ? 今日か、オレと優斗の誕生日」

 

 日付を思い出し、そういえばといった感じだ。

 

「ぶっ飛ばされたい?」

 

「もうぶっ飛ばしてるだろ」

 

 最初の一撃を忘れたのか、この婚約者は。

 

「完璧に忘れてたわけじゃないけど、あんまり重要視もしてなかったからな」

 

「ふ~ん。じゃあ、あたしには伝える価値もないってわけね。あんたの誕生日なんて」

 

 けれど卓也が間違っているのは、卓也にとっての重要度ではなくリルにとっての重要度。

 

「シュウが忘れてるかもって言ってたし、そうなんだろうとは思ってたけど。だけど婚約者として初めて迎える誕生日を忘れてるっていうのは……どうせ……あたしは……」

 

 言っているうちに、ほんの少しリルの声が震えた。

 

「あ~、泣くな! オレが悪かったから!」

 

 卓也が困ったようにリルを抱きしめる。

 そんな彼らを見て、クリスは苦笑。

 

「彼女達はユウト達が誕生日だから来たのでしょうが、クレアはどうして?」

 

「クリス様に会いたかったのです!」

 

 クレアの堂々たる発言。

 思わず、クリスが口に手を当てた。

 ほのかに頬が朱に染まる。

 

「我が妻ながら、これほどストレートに言われるとさすがに照れますね」

 

 軽く手を握り合う。

 そして優斗とフィオナも卓也達を見て、

 

「本当にリルさんの言うとおりですよ。誕生日を伝えないなんて」

 

「ごめんね」

 

「いえ、いいです。ちゃんと優斗さんの誕生日に会えましたから」

 

 お互いに微笑む。

 すると、いきなり蚊帳の外になった正樹が、

 

「えっと……優斗くん?」

 

 恐る恐る声を掛けた。

 

「フィオナさんとは……その……どういう関係?」

 

 問いかける正樹に、フィオナが佇まいを正した。

 

「フィオナ=フィーア=ミヤガワと申します」

 

「ミヤガワ?」

 

「夫がお世話になっております」

 

 優斗と腕を組みながら、フィオナが頭を下げる。

 

「…………はっ?」

 

 正樹が呆けながらも優斗とフィオナに視線を交互に向け、状況を把握した瞬間に叫んだ。

 

「ええっ!? 優斗くん、奥さんいるの!?」

 

「あれ? 言ってませんでしたか?」

 

「初耳だよ!」

 

 本当にびっくりした。

 

「凄く美人な奥さんだね」

 

「ありがとうございます」

 

 そしてやっぱり、といった表情で正樹が振り返った。

 

「ほら、ニア。こういう人にはちゃんと旦那さんがいるんだよ」

 

 そう伝えるものの、ニアの表情は睨んだままだ。

 優斗は彼女の姿を見て、嘆息した。

 

「大変だった?」

 

「ええ、少しばかり」

 

「お疲れ様」

 

 フィオナの頭を撫でる。

 と、ここで刹那と朋子、ルミカも合流。

 

「優先、その人は誰だ?」

 

「……あっ。もしかして、その人がそうなの?」

 

「ユウト君の“良い人”なんですね!?」

 

 ルミカのテンションが一気に上がった。

 

「そうだよ、僕の奥さん」

 

 刹那達にもフィオナは頭を下げる。

 そして小さく笑んだ。

 思わず、刹那達も見惚れた。

 

「……確かにシャレにならないぐらい美人ね。卓也先輩の言ってたことがよく分かるわ」

 

「優先、マジでお伽噺の登場人物みたいだぞ」

 

「大魔法士様と奥様が一緒にいる姿を拝見できるなんて……っ!」

 

 ルミカのキャラが今までと違ってきている。

 昨日、優斗の大魔法士としての姿を見てしまったからだろうか。

 どこぞの副長と同じ匂いがした。

 

「ユウト君っ!」

 

「どうしたの?」

 

「ファンクラブ、作っていいですか!?」

 

「ごめん。もうある」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 夕食も食べ終わり、リライト組は広間に集まっていた。

 ゆったりしていたい空気……なのだが、優斗が立ち上がる。

 

「少し出てくる」

 

「どこに行くんですか?」

 

 フィオナが問いかける。

 

「ちょっとお話し合い」

 

「昨日、言ってたことか?」

 

「そうだよ」

 

 とりあえず、色々と判明させないといけないことがある。

 

「ユウト、誰と話そうと思っているのですか?」

 

「別で少し心配な子もいるんだけどね。僕が相手をするのは、いろいろと猛ってる女の子」

 

「……ああ。彼女ですか」

 

 クリスが納得するように頷く。

 そして優斗は移動しようとしたところで、

 

「駄目です」

 

 フィオナが腕を掴んだ。

 

「あの、変なことじゃないから」

 

「駄目です」

 

「これをやらないと後々、困ることになるんだ」

 

「だったら、私も一緒に――」

 

「それは駄目」

 

「どうしてですか?」

 

 フィオナの表情が疑問を浮かべる。

 最初は嫉妬だったのだが、優斗の返事を聞いて嫉妬ではなくなった。

 優斗が女性と訳もなく二人きりになるわけがない。

 純粋な疑問に変わった。

 

「僕と彼女が一対一じゃないといけないから」

 

「どういう意味ですか?」

 

「正しく、正当に肯定しながらも彼を否定しないといけない。彼女が猛る範囲外で冷静に話し合わないといけない。だからこそ“他の誰か”という逃げ場なんて作らせず、一対一じゃないと意味がないんだ」

 

 

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