第96話 新たなる御伽噺
『――――――――――ッ!!!!!』
フォルトレスの前に極大の魔法陣が浮かび上がる。
乾坤一擲と思えるほどの魔力が注ぎ込まれていく。
地がまた、震え始めた。
「最初で最後の一撃……か」
けれどそれは、フォルトレスだけが震わせているのではない。
相対する大魔法士も同様の力で震わせる。
「長い時間、戦ったんだろう?」
アルカンスト山に残る爪痕が物語っている。
「どうせ勝てると思っていたのだから、全力の一撃を出さなかったんだろう?」
小さき人間如きに負けるはずがない、と。
「けれど余裕を持って戦い、暴れ……負けた」
だが油断という生易しいものではない。
「その全てを圧倒的な力によって覆された」
全力を出しても絶対に勝てぬと思わされるほどに、圧倒された。
「ならば“今度こそ”最強の一撃を放つ」
大魔法士を倒すために。
「敵わないと知っていても、抗うんだな」
助かるためか。
暴れるためか。
それとも、本能か。
負けると分かっても立ち向かう。
「いいだろう」
応えてやる。
「乗ってやるよ、フォルトレス」
優斗の眼前にも極大の魔法陣が浮かび上がった。
互いを打倒せんとする童話の世界の住人同士による戦いが、
『輝ける星の数々よ』
千年前の続きが――始まる。
『幾百、幾千、幾万の輝きよ』
容易に国を破壊できると分かるほどの魔力が集まっていく。
『聖なるものへ準えることのできる、その光よ』
この瞬間、大魔法士と古の怪物の考えは同じ。
『幾億の過去を導とし、未来へと続く路を繋げ』
相手を倒す。
『誰にも触れることは出来ない永遠なる光。されど手を伸ばそう。届かずとも、触れられずとも、求め続けよう』
打ち負かせてみせる。
ただ、それだけ。
『だからこそ我々は夢果てぬ物語を創り出すのだから』
フォルトレスが嘶き、大魔法士が右手を大きく振り広げた。
同時に魔法陣が極光を放つ。
『星光の詩』
『――――――――ッッ!!』
真白の光と黄金の光が相打つ。
そして互いの中間地点で、ぶつかった。
せめぎ合う。
「同じ威力……?」
正樹が呆然と光景を見ている。
化け物同士の撃ち合いに、関与できる余地などない。
けれど、
「いや、少し押されてる!」
優斗の神話魔法が少し、押し返された。
「――っ!」
ハッとして剣を抜く。
しかし、そんな彼を横目に卓也は一言。
「優斗は動くなって言ったぞ」
「少しでも手助けを!」
「今のあいつには邪魔なだけだ」
あまりにも冷たい卓也の言い様。
「そんなの――」
「オレらの親友は絶対に勝つんだから、黙って見てろ」
そしてまた、卓也は前を見据える。
代わりにクリスが言葉を続けた。
「マサキさん。貴方は少々、落ち着きが足りないようですね」
邪魔だと言われようとも、動こうとする。
相手の意向を無視して。
「けれど貴方はユウトに少し似ていますよ」
クリスも前を見続けながら言葉を紡ぐ。
「誰かが傷つくことを許せない。誰かが傷つくのならば、自分が傷ついたほうがいい。まあ、ユウトは仲間に対してですが」
それは優しき者の性かもしれない。
「でも自分達がユウトに対して、そう思わないとでも?」
あるわけがない。
「ユウトが危ないのであれば、自分達は邪魔だろうが何だろうが彼の考えも心も無視して飛び込みます。強かろうが関係ありません」
許せるわけもない。
仲間が傷つく姿を見ているだけなど。
「動かない理由はただ一つ。ユウトがフォルトレスを打倒できると知っているからです」
「……どうして?」
「ユウトはフォルトレスを打倒するために、己は大魔法士であると認めた。セリアールの歴史の中で二人目の大魔法士という存在に“成る”と決めたのです」
セリアールにおいて『最強の称号』を受け入れた。
「ならば『大魔法士――ユウト=フィーア=ミヤガワ』は絶対にフォルトレスを打倒する。先代のお伽噺と同じように、新たなるお伽噺としてフォルトレスを打倒する」
違わず、確実に倒す。
「彼が名乗った覚悟は……そういう覚悟です」
負けることを許されない。
人とは違う圧倒的な力を持った“化け物”としての己を受け入れた。
その重さを承知した上で彼は名乗った。
「だから信じて、頼って、安心して自分達は見ていられるんです。親友の勇姿を」
クリスは笑みを零す。
『星光で届かぬのなら、月の天女に希おう』
彼らの耳に届くは、新たな言霊。
「ほら、また馬鹿げたことを始めましたよ」
二重の言霊。
一つ目で打倒出来ぬのならば、さらに加えよう。
『どうか拝見させてほしい。天上に神々と佇む、貴女の姿を』
負けない。
『どうか知ってほしい。貴女の姿を、誰もが月の女神と感じたことを』
負けてはならない。
『どうか紡がせてほしい。月の女神――貴女の御名を』
だから圧倒しろ。
『赫夜』
追加された砲撃。
追加された魔法。
しかし、それで済むとは思うな。
『暗よりも燦然と輝く星、闇に悠然と佇む月が交わるならば――天を覆すほどの聖なる夜を織りなす』
二つの魔法陣は混じり合い、
『それは夜天を染め上げる、聖なる光々の世界』
新たな形となる。
これこそが、
『白夜』
フォルトレスを屈服させる、最初の一撃。
国だけでは終わらない、周辺全てを破壊し尽くすほどの魔法が吹き荒れる。
フォルトレスの最強の一撃を粉微塵に砕き、フォルトレス自身にも当たる。
そして空中に浮いていた岩石城塞が……地に落ちる。
「落ちたか」
通常の魔法では一切ダメージはいかないと思っていたが、あれほどの威力なら少しは効果があったらしい。
「打ち負けたのなら、分かるだろう?」
右手を前に突き出す。
「終わりだ、フォルトレス」
同時、巨大な岩石の要塞を囲む八つの魔法陣が現れた。
『地響――水麗――火灼――風舞』
一つ紡ぐごとに、魔法陣が輝きを増やす。
『雷轟――氷滞――闇影――光輝』
全ての魔法陣が線で繋がり、中央に新たなる魔法陣が生まれた。
『八頂合わさり成ればこそ、創世の理とする。されど違うな、須く始まりを望んでなどいない』
魔法陣は反転し、
『切望するは零。終わりなる虚無の力』
優斗はさらに魔力を込める。
『だからこそ座す者、坐す者、鎖す者よ。彼の地へ刹那すら征けないと識るがいい』
フォルトレスの一撃を圧倒した以上の魔力が注ぎ込まれていく。
『黄昏など誰も望みはしないのだから』
右手を十字に切る。
『悉皆終焉――』
まず横に、そして叩き付けるように真下へと振り下ろした。
『――剛魔零滅ッ!!』
ほんの僅かな時間、凪が生まれる。
誰もが理解できた。
これで、御伽噺は閉幕なのだと。
『無屏』
瞬間、フォルトレスを透明の膜状のものが覆った。
そして瞬き一つ。
たった、それだけの時間でフォルトレスの全てが失われる。
骨だけの――初めて見たときと同じ姿になった。
同時に魔法陣が結界のようにフォルトレスの骨全体を覆う。
「“また”千年後だ、フォルトレス」
優斗は倒された魔物に最後、告げる。
「その時は“また”大魔法士が相手をしてやる」
◇ ◇
踵を返し、優斗は大きく息を吐いた。
そして卓也達の前に立つと……がくりと前のめりになって、地に手をついた。
「……殺してください」
膝を着き、手を着き、もの凄く後悔しているような体勢を取る。
「優斗先輩、どうしたの?」
いきなりの変わり身に戸惑いを隠せない朋子。
「気にするな。どうせ厨二病を全開でやって、全力で恥ずかしがってるだけだ」
卓也が分かりきったことを指摘した。
よくよく見てみれば、優斗は首まで真っ赤に染まっている。
「確かに凄まじかったですね。“大魔法士――ユウト=フィーア=ミヤガワ”……などと言い放ち」
「“さあ、始めようかフォルトレス。御伽噺の時間だ”……だもんな」
クリスと卓也がニヤニヤと笑う。
あれを厨二病と言わず、何と言おう。
「……いっそ、一思いに殺してくれ」
「で、でも格好良かったわ」
「あ、ああ。本当に“刹那”の魔法を使えるなんて、凄かったぞ」
思わず刹那と朋子がフォローする。
「……ありがと」
優斗も気を取り直し、立ち上がった。
「正樹さんもすみません。あの状態になると、言葉遣いも乱雑になっちゃって」
「……いや、だいじょうぶだよ。優斗くんじゃないと倒せないって、卓也くんもクリスくんも言ってたから」
無理矢理に笑顔を浮かべる正樹。
背後のニアとジュリアは睨んでいるが、いつものことだ。
「ミルは大丈夫だった?」
「克也、守ってくれた。大丈夫」
「刹那が?」
優斗はまじまじと刹那を見る。
「頑張ったんだね」
「……ふ、ふん。俺はイエラートの守護者だ。この国にいる人間を護るのは俺の役目だ」
照れくさそうに刹那がそっぽを向いた。
するとミルが、
「……そうだ。克也、トモコ。言おう」
思い出したのか、二人を呼びかける。
それが何を指すのかすぐに彼らも思い出した。
「そうだな」
「そうね」
三人で頷きあい、優斗に頭を下げる。
「「「 ありがとう 」」」
唐突な感謝の言葉に思わず、優斗の目も点になった。
「……何が?」
「わたし達、ちゃんとユートの話、聞かなかった。でもユートがイエラート、護ってくれたから」
「優先が言ったことを理解していなかった。だが、それでもフォルトレスを倒してくれたことに感謝を」
「関係ない国のことなのに、助けてくれてありがとう」
いきなり素直なことを言った三人に優斗は少し呆けて、笑った。
「後輩を助けるのは先輩の役目だよ」
優斗が嬉しそうに言葉を返すと、卓也とクリスがからかうような笑みを浮かべる。
「お前ら、オレらに感謝の言葉はないのか?」
「あんなに頑張って魔物を倒したというのに」
大げさに泣き崩れるポーズを取る。
三人は大層慌てた。
「あ、あるに決まってるだろう!」
「ちゃ、ちゃんと感謝してるわ!」
「でも、でも、最初はユートって決めてたから!」
「本当か?」
「疑わしいですね」
弁明を懸命に計る三人とからかう卓也、クリス。
優斗はそこで、一向に会話に参加しない一人に話しかけた。
「ルミカはさっきから話してないけど、どうしたの?」
「えっと……あの、今の貴方様は……」
ルミカが恐る恐る話しかける。
今の彼が何なのか、分からなかった。
「ユウト君、でいいよ。大魔法士モードは終わり。あんな態度、長く続けていたくない」
終わったあと、本当に疲れる精神状態なのだから
ルミカも彼の気苦労を知ってか、小さく笑った。
「ではユウト君、終わって早々ではありますがイエラート王に説明をお願いできますか? きっと城下はまだ大慌てだと思いますから」
「そうだね。さっさと説明してあげないと皆、安心できないもんね」
◇ ◇
王城へと戻る途中で優斗が注意事項を伝えた。
「イエラート王と喋るのは僕だけ。何か言われても驚いた表情もさせないで、粛々と頷くこと」
「何でだ?」
刹那が首を傾げる。
「今日の出来事ってね、普通に考えたら国際問題なんだよ」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ」
「だ、大丈夫なの?」
国家規模の出来事だとは思わなくて、朋子も焦る。
平然と言われてビックリしないわけがなかった。
「とりあえず布石は打ったから問題ないとは思うけど」
「ユウト……。イエラート王に状況を説明したのではないのですか?」
呆れたような声をクリスが出した。
確かにクリス達は場内の兵士達にフォルトレスが復活したので城下を護ってくれ、と伝えていたから別行動だった。
だから彼が何と伝えたのかは知らない。
「まあ、あるがままの状況を説明したとは言いがたいね」
というより大嘘を付いた。
「そろそろ兵士達にも見つかりそうな場所まで来たし……フィンド勢は正樹さんとミルだけ来て」
面倒な二人をどうにか正樹に説得してもらったところで説明しようと思ったのだが、目の良い兵士に見つかってしまった。
なので何一つ伝えることなく謁見の間へとたどり着く。
「だ、大魔法士様! 戻ってこられたということは、フォルトレスは倒されたのですか!?」
心底焦った表情のイエラート王に優斗は微笑む。
「マティスと同様、倒すに留まってしまいましたが間違いなく」
「あ、ありがとうございます!」
何度も何度もイエラート王が頭を下げる。
「いえ、感謝の言葉は彼らにもお願いいたします」
優斗が背後にいる全員を指し示す。
瞬間、心の中で皆が疑問を浮かべた。
けれどイエラート王は感謝するように正樹の手を強く握りしめる。
「フィンドの勇者殿! 大魔法士様の命とはいえ、復活する気配のあったフォルトレスの調査に赴くなど、大層危なかっただろうに! それでも貴方がいてくれたからこそ、迅速に事態が収束できたのだと伺っているよ!」
「……えっ? あ、はあ……」
曖昧に頷く正樹。
続いては刹那と朋子とルミカ。
「セツナとトモコも、イエラートの守護者として向かった意思は大いに尊重するよ。ただ、あらかじめ教えてくれると助かる。おかげでルミカも本当に慌てていた」
「……ほ、本当ですよ、セツナ君、トモコちゃん」
「……き、気を付ける」
「……つ、次は伝えるわ」
顔が引きつりながらも、三人はどうにか言葉を返す。
「クリスト君もタクヤ君もユウト様の仲間として、イエラートのために現地へと向かってくれたのだったね。ありがとう、さすがはリライトの方々だ」
「貴国のため、当然のことをしたまでです」
「大魔法士の仲間として、見過ごすことはできなかったですから」
クリスと卓也は慣れているため、そつなくこなす。
そして再度、優斗が言葉を発する。
「あくまでも念の為でしたので、イエラート王に伝えることをせずに事を進めてしまい申し訳ありません」
「滅相もない! ユウト様がいなければ、イエラートは滅んでいたのですから!」
イエラートを狙った一撃で、間違いなく。
「そのように言っていただけてありがとうございます。周辺諸国に大魔法士がフォルトレスを倒した、と伝え安心させていただけますか?」
「すぐにでもお伝えします」
イエラート王が兵士を呼び、最速で諸国に伝えるよう指示した。
「それとフォルトレスはあくまで倒しただけであり、殺すことはできません。後々に詳細はお伝えしますが、そのことを近いうちに貴国で議題として取り上げていただけると助かります」
「分かりました。お伝えしていただいたことは、必ず取り上げることを約束いたします」
言われるがままにイエラート王が頷いた。
ミラージュ聖国の時と同様の扱いに、さすがに優斗も疲れる。
「では、本日のところはこれで失礼いたします。私も含めまして皆、疲れているようなので」
後ろを指し示す優斗。
確かに、ある意味で疲れていた。
「ユウト様、本当にありがとうございます。今日のことは、イエラートで永遠に語り継がれる出来事になるでしょう」
何度も伝えられる感謝の言葉に、優斗は小さく笑みを零した。
「ええ。私もイエラートの民を救うことができて幸いです」
◇ ◇
客室で謁見の間にいたメンバーが集まる。
「それで、どうしてあんなことになったんだ?」
卓也が問いかけてきた。
優斗は少し真面目な表情をさせて説明を始める。
「単純に考えて今回の出来事はフィンドとイエラート、二つの国の責任になる。さらには大魔法士がイエラートにいるから、関係ないけどリライトの責任も少しは出てくるかもしれない」
「それで?」
「これが当該国同士の問題で済めばいいけど、そうじゃない。お伽噺の魔物が復活したんだ。それだけで周辺諸国に対しても大規模な不祥事だよ」
「どうして?」
朋子が首を捻った。
答えたのはクリス。
「“我が国を危険にさらした責任をどう取るつもりだ”と言われたら、責任回避できるはずもないんです」
「そういうこと。それで、今回の問題点。勝手に動いたフィンドの勇者と連れられたイエラートの守護者がフォルトレスを復活させた。これを正直に伝えたら、どうなると思う?」
「……不味いか」
卓也が思わず呻いた。
確かに状況が悪すぎる。
「不味いなんてものではありません。国の存亡をたった一つの魔法で決められる魔物が蘇ったのですから」
どれほど窮した状況に陥るのか、クリスですら想像付かない。
「だから僕の『名』を使ったんだよ」
それが優斗の大嘘に繋がる。
「大魔法士が危険を感じ、フィンドの勇者に命令して調査に向かわせた。ただこれだけを伝えれば、あとは向こうが勝手に好意的な解釈をしてくれる」
良い方向へと勘違いする。
「確かに優斗が狙った通り、感謝しかされてないな」
「勇敢だと思われているでしょう」
危ない調査をしにいった勇敢なる勇者として。
「……それで良かったのかな?」
正樹がつぶやく。
嘘は嘘だ。
自分が間違いなく彼らを危険に晒してしまった。
なのに感謝されるなんて。
「正しくいたいのは分かります。けれど、今回の正しさは罪にしかならない」
間違いなく。
「フィンドが潰れようがどうしようが僕には関係ありませんが、イエラートには刹那達がいる。まだ無知な二人に背負わせる必要はありません」
「ボクだけが責任を負う方法は?」
「ありません。確実に正樹さんだけではなくフィンドが責任を負うことになり、刹那と朋子にも罪は回る」
一緒にいた以上、回避することは不可能。
「……ごめん。ボクは『フィンドの勇者』なのに」
「いいんです。予想はしてましたから」
昨夜の考え事で、それぐらいは想定範囲内だ。
「また、正樹さんが何か言ったところで信じてもらえませんよ」
「なぜなんだ? フィンドの勇者だろう?」
刹那としては信ずるに値すると思う。
他国とはいえ、一国の勇者だ。
「残念だけど、たかだか一国の勇者である『フィンドの勇者』と崇拝する『大魔法士』。どっちを信じる? ってこと」
伝説の存在である『二つ名』を継いだ優斗とはあまりにも格が違いすぎる。
「大魔法士は甘っちょろい二つ名じゃないよ」
そこまで言い切ったところで優斗は皆を促した。
「とりあえず昼食摂らない? 朝食抜きだったからお腹が減ったよ」
◇ ◇
昼食も取り終わり、各自が休憩。
リライト組は優斗が書類を作り、卓也とクリスはのんびりしていた。
「しかし思ったよりも大変な人達ですね」
クリスが想像以上だ、と苦笑した。
どの面子を指すのかは、さすがに優斗と卓也も分かる。
「優斗、あれは本当に王道の勇者か? 存在自体には納得できるけど、凄く違和感があるぞ」
「確かにね。今回はとりわけ酷い」
常軌を逸していた。
優斗が前回よりもずっと呆れかえるほどに。
「というかオレですらこんな感想を抱いたんだ。お前は前回も会ってるんだし、何かしら気付いただろ?」
「さっき、違和感の一端は垣間見えたよ」
フォルトレスを前にしたやり取りで。
「いや、違和感というよりは……異常、矛盾、疑問かな」
明らかに“普通”じゃない部分があった。
「しかも全体で見れば、おかしいのは正樹さんだけじゃない」
分かりやすいのが、もう一人いる。
「明日にでも突っついてみるよ」
優斗は書類をトントン、と纏めて立ち上がった。
「さて、とりあえずフォルトレスのことを書類にまとめたから、イエラート王に渡してくる」
ドアを開けて優斗が部屋から出て行く。
残された二人はちょっとだけ優斗を可哀想な目で見た。
「ユウトも大変ですね」
「半ばしょうがないだろ」
彼自身も諦めている節はある。
「しかし、大魔法士モードですか。さすがに自分も戦慄を覚えました」
理解できる強さの範囲を平然と乗り越えていた。
口にしていた“世界を破壊できる”という台詞。
その一端を目の当たりにしてしまった。
「正確に言うなら、大魔法士モードっていうのはちょっと違うけどな」
「どういうことですか?」
「あれは大人と闘っていた時の優斗だ」
卓也の言葉にクリスの表情が少しだけ曇った。
「……ああ、そういうことですか」
「負けることを許されないっていうのは、大魔法士と一緒だろ?」
誰にも負けられない。
負けてはならない。
そうなれば全てが終わる。
彼が大人と戦っていた時も変わらない。
「ですね」
「でも、だからこそオレらが支えてやらないといけない」
断言する卓也。
当然だ、とばかりにクリスも頷いた。
「当たり前でしょう。大切な親友なのですから」
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