第69話 行く先は誰がために

「護衛任務……ねぇ」

 

 一月の終わり、優斗と和泉とレイナはある場所に向かっていた。

 

「父上が騎士になるというのに正式な護衛をしたことがないことを気にしてな。やって来いと言われたのだ」

 

「それで僕と和泉がパーティメンバーに選ばれた、と」

 

 ふむふむ、と優斗は頷く。

 

「向かう場所は?」

 

「ミエスタ。魔法科学が発展している国だ」

 

「護衛は僕ら三人だけ?」

 

「いや、私達以外にも二人いる」

 

「年輩?」

 

「若いと聞いている」

 

 話しながら依頼主と合流する場所に歩く。

 すると、依頼主ではない人物が二人ほどいた。

 近付いて姿形が見えてくると、優斗達も相手方も驚いた。

 

「レイナ……先輩?」

 

「ラスター、どうしてお前がここにいる」

 

 なぜかラスターがいた。

 

「オレはギルドで護衛任務の依頼を受理したんです」

 

「……同じ依頼を受けたのか」

 

 思わずレイナが苦笑する。

 ラスターもギルドで依頼をこなしているのは知っていたが、偶然とは面白いものだ。

 

「隣は誰だ?」

 

「学院一年で女子トップのキリアっていいます」

 

 ラスターが紹介する。

 僅かに黒色が含まれた茶髪のショートカットが優斗達へ振り向いた。

 

「見知った顔が多いが、とりあえず自己紹介といこうか」

 

 レイナはまず、ラスターから順に促す。

 

「ラスター・オルグランスだ」

 

「キリア・フィオーレよ」

 

「レイナ=ヴァイ=アクライトだ」

 

「イズミ・トヨダ」

 

「ユウト・ミヤガワだよ」

 

 優斗達はキリアという少女以外見知った顔なので、どちらかと言えば彼女に自己紹介した形になる。

 

「リーダーは誰がやる?」

 

 レイナが四人に訊いてみると、キリアが発言した。

 

「わたしでもラスター君でも、どっちでもいいけど?」

 

 まさかの申告にキリア以外が軽く驚きの表情をさせた。

 けれどレイナはすぐに笑ってラスターを見る。

 

「ラスター、やってみるか?」

 

「……勘弁してください。レイナ先輩の前でリーダーやる自信はありません」

 

 無茶ぶりもいいところだ。

 けれど、普段と違う様子のラスターをキリアがいぶかしむ。

 

「どうしたの?」

 

「オレが主導権を握れるメンバーじゃない」

 

「どうして? 学院一年の男子じゃトップじゃない」

 

 同年代に対して主導権を握れないなど、そうそうなさそうだが。

 

「この人、生徒会長と言えば分かるか?」

 

 ラスターがレイナを指し示す。

 

「生徒会長って……『学院最強』のことよね?」

 

「その通りだ」

 

「でも、わたしと勝負してないから一番なのよね」

 

 さらっと大胆なことをキリアが口にする。

 慌ててラスターが謝った。

 

「す、すみませんレイナ先輩!」

 

「いや、いい。勝ち気な人物は嫌いではない」

 

 くつくつとレイナが笑う。

 こういう手合いはむしろ好ましい。

 

「でも、年功序列で考えたら生徒会長がリーダーよね」

 

 そしてキリアは優斗と和泉に、

 

「貴方達もリーダーが生徒会長で文句ある?」

 

「ないよ」

 

「問題ない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分ほどした後、今回の依頼人が馬車に乗ってやって来た。

 レイナと、彼女に促されて優斗が依頼人の元へと向かう。

 

「ずいぶんと若いのだね」

 

 御者台には初老に差し掛かっているだろう男性と女性の二人がいた。

 微笑ましい雰囲気を醸し出していて、話しやすそうだ。

 

「安心してください。確かに若いですが、実力は確かなのが私と彼といます。私は近衛騎士団に内定が決まっていますし、こちらのミヤガワは私を軽く凌駕する実力の持ち主です」

 

 さらに依頼人を安心させるべくレイナは話を続ける。

 

「依頼人は先日行われた世界闘技大会の学生の部で優勝したチームをご存じですか?」

 

「ああ、確かリライトの学生が優勝したんだったね」

 

「その時の出場メンバーが全員揃っています」

 

「本当かい?」

 

 男性が目を丸くした。

 

「はい。私と彼、そして向こうにいる男子。この三人で大会を制覇しました。つまりは若い中で最高のメンバーが揃っています。ご安心ください」

 

 どうやらレイナの話は功を奏したらしい。

 男性の表情が安堵した。

 

「ではあらためて自己紹介をさせていただきます。ギルドランクA、レイナ=ヴァイ=アクライトと申します」

 

「ギルドランクB、ユウト・ミヤガワです」

 

 二人の名乗りに依頼者がさらに驚く。

 だが安堵した表情をさらに柔らかくし、

 

「では道中、お願いするよ」

 

「畏まりました」

 

 頭を下げてから優斗とレイナは三人が残っている場所へと向かう。

 

「そういえば誘っておいてどうかとは思うが、フィオナとマリカは大丈夫なのか?」

 

「二,三週間に一度はどっかの他国やら何やらに行かされてる身分だけどね。その分、休みの時は目一杯サービスしてるよ」

 

「パパは大変だな」

 

「パパだから仕方ないよ。あと、お金を貰ってばっかりっていうのも嫌だしね。娘にあげる物ぐらいはちゃんと稼いでプレゼントしたいんだよ」

 

 だからこうやって依頼を頑張って受けているんだ。

 

 

 

 

       ◇      ◇

 

 

 

 

 てっきり徒歩で向かうと思っていたのだが、依頼人の温情で荷台の空いたスペースに乗らせてもらえた。

 周囲を警戒しながらも話をする。

 

「貴方達二人はどっちが強いの?」

 

 キリアが優斗と和泉に訊いてきた。

 

「僕のほうが強いかな」

 

「だったら順番的にはわたしとラスター君が同じくらい強いから、その下に貴方で一番下にそっちの人がいるのね」

 

 上から目線のキリア。

 しかしラスターが焦る。

 

「あの……だな。そこの二人は一応、先輩に当たるのだから横柄な態度はどうかと思うが」

 

「わたし、自分より弱い人は認めない性質なの」

 

 ズバっとした言い草に優斗と和泉、レイナは小さく笑う。

 

「しかし、よくお前達はこの依頼を受けられたな。Bランクに位置する依頼だぞ?」

 

「オレもキリアもギルドランクはDランクなんです」

 

 ラスターが言うとレイナが感嘆の声を上げた。

 

「ほう、頑張っているな。どちらか片方がDランクに達していれば受けられる依頼とはいえ、両方ともDランクとは驚いた」

 

 一年としては上出来なランクだろう。

 

「そっちはどうなの?」

 

 キリアとしてはレイナぐらいは自分たちと同じくらいだろうと思って訊いてみる。

 

「俺はEランクだ」

 

 和泉の返答はキリアの予想通り。

 けれど続いた二人のランクは予想外。

 

「私はAランクだ」

 

「僕はBランクだよ」

 

 キリアよりも二つも三つも高いランクを言われた。

 

「貴方がBランク!?」

 

 特に優斗のランクに驚く。

 

「どうやってなったの?」

 

「普通にギルドの依頼をこなしてたらなったけど……」

 

 優斗の“普通”は明らかに普通じゃない。

 それは和泉とレイナはおろかラスターにだって分かる。

 

「ふ~ん。貴方みたいなのでもBランクってことは、量をこなせばランクは上がるのね」

 

 そういうことなのだろう。

 キリアは自己完結する。

 

「でも、わたしはパーティを組んでる人達から声を掛けられるぐらいだから、ギルドランクで実力を計って欲しくないわ」

 

 自信満々のキリア。

 思わず、ラスターが優斗とレイナに顔を近付けた。

 

「……貴様も色々と声を掛けられた、という話を聞いたが?」

 

「そろそろ三桁に届くらしいよ」

 

「……キリアが自慢しているのが空しくなってくるな」

 

 絶対数が違う。

 

「お前もこの間まではそうだったのだぞ?」

 

 レイナが笑ってラスターを弄る。

 

「い、言わないでくださいよ!」

 

 今になって思えば、かなり恥ずかしい。

 こんな人間を相手にそんなことを言っていたなんて。

 すると、キリアが彼らのやり取りを訝しんだ。

 

「何をこそこそ話してるのよ?」

 

「いや、なに。先月にあった闘技大会メンバーだからな。昔話に花を咲かせていた」

 

「闘技大会メンバー?」

 

 キリアが首を捻ると、ラスターが説明する。

 

「オレとミヤガワ、レイナ先輩は闘技大会メンバーだぞ」

 

「……ああ、あれのことね。わたしも出たかったんだけど出れなかったのよね」

 

 キリアは少し悔しそうな表情を浮かべる。

 

「ラスターはこれでも上級魔法を一つ、使えるからな」

 

「わたしは四大属性の中級魔法使えるのに……」

 

 ぶすっとした表情のキリア。

 学院生として上等なラインにいるのだが、やはりラスターよりも下に見られているのは悔しいらしい。

 けれど気を取り直し自慢するかのように、

 

「あとわたし、精霊術も少し使えるのよ。魔法も使えて精霊術も使える。結構稀少よね、わたしって」

 

 レイナと和泉とラスターは思わず優斗を見る。

 キリアが稀少ならこいつは何なのだろうか。

 魔法は神話魔法まで、精霊術はパラケルススまで。

 もう稀少というか論外。

 

「なに?」

 

「昔のオレは本当に恥ずかしいと思っていた」

 

「気にするな。あの時は私も気付かなかったが、普通に考えたらお前の考えは正常だったと思うぞ」

 

「そうだ」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 今回の護衛の行程としては三日ほどある。

 ミエスタに行くにも荷物があるため、今日と明日の二日を掛けて向かう。

 帰りは高速馬車で帰るため、向こうで一泊してから帰ることにしている。

 そして今は一回目の休憩。

 キリアと和泉は監視。

 優斗とレイナとラスターは相談事。

 

「実際、キリア以外は実力も動きも把握しているが彼女はどうだ?」

 

「メインは魔法になります。剣技はオレより劣っていますが、捌くぐらいは使えます」

 

 ふむ、とレイナは考え込む。

 

「ということは基本的に前衛は私とラスター。中衛にユウト、後衛にキリアとイズミか」

 

「そういうことですね」

 

 首肯するラスター。

 次いで優斗からの質問。

 

「彼女は性格的に言うこと聞くタイプ?」

 

「……聞かないだろうな」

 

「つまりは昔のラスターだと思えばいいということか」

 

「うぐっ! ま、間違ってはいません」

 

 突き刺さるような言葉に、一瞬言葉に詰まる。

 

「だったら僕は全体のフォローに回るよ」

 

「頼んだ」

 

「ルート的に魔物は出てくる?」

 

「弱いのは出てくるだろう。ランクの高い魔物は……そうだな、一応予期しておいたほうがいいが、まとまって出てくることはないだろう」

 

 レイナの予想に優斗は頷く。

 

「だったらAランク単体には大精霊も神話魔法も使わないけど、SランクないしAランクが2体以上来たら使うね」

 

「ちょっと待て。Aランクが出ても使わないのか?」

 

 ラスターが口を挟む。

 けれど優斗は平然と、

 

「いや、だってレイナさん倒せるようになってきたんだよ。それに僕が何でもかんでもぶっ飛ばしたらレイナさんが訓練にならないって怒る」

 

「ラスター、こういう本番だからこそ実力を伸ばす機会だ。最低ラインはユウトが設定してくれている。存分に力を振るって実力を伸ばせ」

 

 レイナもさらっと言ってのける。

 ラスターは少しだけ困惑したが、この二人が言っているのだから大丈夫だと信じ、

 

「分かりました」

 

 素直に頷いた……瞬間だった。

 

「――ッ!」

 

 優斗とレイナが一斉に構えた。

 

「レイナ先輩? どうしました?」

 

「さて、早速だがお客さんだ」

 

 レイナは叫ぶ。

 

「イズミ、キリア! 構えろ!!」

 

 同時に気配で数を察する。

 

「ユウト、六体で合ってるか?」

 

「合ってるよ」

 

「左右に三体ずつ。ラスター、お前は左側だ。私は右側を相手する」

 

「分かりました」

 

「イズミは私の支援をしろ! キリアはラスターの支援だ!」

 

 レイナの号令に各々が散らばる。

 

「ユウトはどっちかが危なくなったら手伝ってくれ」

 

「了解」

 

 優斗は頷くと、まずは馬車に防御魔法を掛ける。

 そして魔物が姿を現わした。

 

「なんだっけ、これ」

 

 ライガーの小型な奴が現れた。

 

「イシュライガーだ。ランクはEランク!」

 

 レイナが答えながら一体、切り倒す。

 他のイシュライガーは和泉が牽制していた。

 とりあえずレイナ達は心配いらない。

 優斗はラスター達を見る。

 少し苦戦していた。

 三体全てに対応しようとしているのか踏み込めていない。

 優斗は大声で指示する。

 

「ラスター! 一体だけを追えばいい! 他はキリアさんに任せて!」

 

「分かっている!」

 

「キリアさんは二体をラスターに近付けさせないようにして!」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

 そう言うが、どうにか倒そうとするキリア。

 二人だけでも十分、どうにか出来るのに出来ていない。

 優斗はため息をつくと、ラスターの隣に躍り出た。

 

「ラスターは真ん中、相手にして。僕は右。キリアさんは左」

 

 優斗はショートソードを抜き、そのまま逆袈裟で切り捨てる。

 ラスターも一体だけを相手にすれば、優斗に少し遅れて撃破。

 キリアもラスターからさらに遅れて倒した。

 

「大丈夫か?」

 

 レイナが駆け寄ってくる。

 

「あれぐらい問題ないわ」

 

「心配しないでください、レイナ先輩!」

 

 一年生コンビは意気揚々と答える。

 けれど優斗はバッサリと切り捨てた。

 

「全然、駄目。これじゃ危ないよ」

 

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