第66話 まさかの成長

 三学期が始まり、始業式では優斗達が闘技大会で優勝した功績も伝えられた。

 五年ぶりの優勝に誰も彼もが出場者を称えた……のだけれど、

 

「闘技大会優勝って結構なことだったんだね」

 

「私も少し驚いた」

 

「……レイナ先輩? オレはどうして連れてこられたんですか?」

 

 優勝メンバー三人は生徒会室に逃げ込んでいた。

 

「お前は余計なことを言いそうだったからな。釘を刺すために連れてきた」

 

「オレだって分かってますよ。こいつがやったことは口外しない。箝口令だって出てますし、破ったら禁固刑になるんでしょう?」

 

「理解できているだろうが、うっかり口が滑りそうなのがお前だからだ」

 

「……確かに色々と突っ込まれて困りはしましたが……」

 

 昼前のホームルーム終了と同時に机を囲まれた。

 そこにレイナが颯爽と現れてラスターをかっさらい、生徒会室まで連れ出す。

 優斗はクラスメートに愛想笑いしているところをレイナが引っ張り出した。

 

「悪いがユウトの状況が大会終わったときより悪化していてな。うっかりでも伝わってしまえば大変になる。特にお前は間近で見た当事者だからな、念を押すに越したことはない。ユウト、少しくらいお前の状況を話しても問題はないだろう?」

 

「まあ、ラスターにならね」

 

「……どういうことですか?」

 

 この冬休みの間に何があったのだろうかと、ラスターは訝しむように聞き返した。

 レイナは説明を始める。

 

「今のところ、アリスト王の手回しで周辺諸国の王族だけにユウトが契約者であり、独自詠唱の神話魔法の使い手であることは知られている。その中にミラージュ聖国があるのだが……」

 

「あれですよね。大魔法士マティスが作った国」

 

「ああ。そのミラージュ聖国から『大魔法士マティスの再来』として認められてな。名実共にやばい人物になってしまった」

 

 レイナが告げたことにラスターは顎が外れそうになる。

 

「な、なんでそんなことに?」

 

「ユウトがマティスと同じ事をやっているからだ。契約者であり独自詠唱の神話魔法の使い手であるからな」

 

「つ、つまり?」

 

「マティスを祖とする国がユウトを『マティスの再来』と認めたことで『大魔法士』と呼び、余計に箔が付いてしまった」

 

 よりにもよってマティスが作った国がいの一番に認めてしまったからこそ、性質が悪い。

 

「笑える話ではあるが、目の前にいるこいつは世界重要人物ランキングのトップランカーだ」

 

 レイナの視線と呆然としたラスターの視線が優斗に集まる。

 

「だからラスター、うっかりするとシャレにならない」

 

「わ、わかりました」

 

 さすがのラスターとしても、これは冗談などとは言えない。

 事実、パラケルススを召喚して神話魔法を使っていたのだから。

 けれど当事者の優斗は軽い調子で笑って、

 

「僕が学生身分だからそういう措置を取ってくれてるだけだし、できれば言わないでほしいってだけだから」

 

「しかし貴様はどうやってパラケルススと契約したというのだ? 少し調べたが1000年間、契約者が現れなかっただろう?」

 

 珍しく真っ当な疑問をラスターが投げかけた。

 レイナも後輩の問い掛けに「そういえば聞いていなかったな」と、同じことを尋ねる。

 すると優斗は当時の状況を思い返すと、呆れるように頬を掻き、

 

「八月に大精霊を召喚したでしょ?」

 

「ああ」

 

「案外便利だと思ってね。少しばかり調べて、フィオナに精霊術を教える過程で使えるものを実体験してたんだよ。で、古くてうさんくさい本にパラケルスス召喚の詠唱があって、とりあえず冗談半分で詠唱してみようと思ったんだけど……まさか本物の詠唱だとは思わなくてね。いきなり好々爺が出てきて『それじゃ、やろうかの』とかふざけたこと抜かしつつ、結界張ってきてバトル」

 

 あの時は優斗も冗談抜きで焦った。

 

「契約したということは倒せたのだろう?」

 

「倒したけどね。普通は無理だよ、あんなの」

 

「貴様は馬鹿か。倒したのだから無理なはずないだろう」

 

「ラスター。“普通は無理”とユウトは言ったぞ」

 

 レイナのツッコミに優斗は頷いて苦笑する。

 

「前に話したときは濁したけど、まず上級魔法とか論外。大精霊でさえ召喚して神話クラスの一撃かましたら二撃目お願いする前に強制的にパラケルススに徴用される」

 

「上級魔法が論外……だと?」

 

「精霊を強制的に従える精霊の主であることだ。納得できることではあるな」

 

 優斗の思い出話に驚愕と納得が入り交じる。

 

「要するに上級魔法で牽制して神話魔法をぶっ放す方法しか勝ち目がないんだよ」

 

 こんなもの“普通は無理”に決まっている。

 

「しかも一撃じゃ勝負つかなくて、神話魔法を六個ぐらい使ってようやく戦い終わったからね」

 

 最後の最後、パラケルススが張った結界すらも破壊する神話魔法を使って、ようやく決着がついた。

 

「冗談みたいな勝負だな」

 

「去年最大規模のバトル、絶対にこれだよ」

 

 黒竜を相手したときより、ライカールの馬鹿を相手にしたときより、ミラージュで二十体の魔物を相手にしたときより規模としては大きい。

 

「ラスター、こんなのに勝てるか?」

 

「か、勝てます!」

 

 とレイナに大きな声で返答するものの、

 

「たぶん……いつかは」

 

 ラスターとしても優斗の強さは認めてしまった以上、勝てるとは断言し辛い。

 けれどハッ、と思い出す。

 

「だが、剣技ではまだ負けていない!」

 

「悪いがこの化け物は先日、ミラージュで上位ランクも存在している魔物二十体に囲まれたところを剣技だけで十体以上を瞬殺しているぞ。私でも同じことができるかは分からない」

 

「いや、軽く死にかけたし」

 

「そういう問題ではない」

 

 レイナが優斗の頭を軽く小突く。

 ラスターはレイナが言った話を事実と捉えて、少し考える。

 つまりはなんだ。

 自分が以前に好きだったフィオナが愛しているという男性は『大魔法士マティスの再来』と呼ばれるほど魔法も精霊術も優れた人物であり、尚且つ自分が尊敬しているレイナとも対等に剣技を交わせるかもしれない人物である、と。

 

「これほどの男でなければフィオナ先輩は惚れないということか」

 

 勝てなかったのも無理はない。

 そう呟いたラスター。

 けれど優斗とレイナは首を横に振って否定した。

 

「いや、全然そんなことはないよ」

 

「フィオナは付加価値など、どうでもいいと思っている」

 

「……だったらどうしてこいつにフィオナ先輩は惚れたんですか? 付加価値を除いたら価値ないですよ」

 

 酷い言い様だが、確かに……と優斗は納得する。

 

「正直に言うのも変ではあるが、ユウトはイケメンというわけではないし、血筋としても子爵ではあるが公爵と釣り合うわけもない」

 

 その点では釣り合っていない。

 

「だがな、こいつは優しいんだ」

 

 今は限りないほどに理由はあれど、フィオナが最初に惚れた理由はこれだろう。

 

「別に博愛主義的な優しさではない。誰も彼も平等にする優しさではない。誰かに勘違いされるような優しさでもない」

 

 一般的な優しさじゃない。

 皆が好きになりそうな優しさじゃない。

 それでは彼女には届かない。

 

「フィオナのために頑張った優しさ。フィオナだけに贈った優しさ。フィオナだけを想った優しさ。フィオナの心に響いた優しさ。それをこいつは持っている」

 

 もちろん仲間にだって優斗は優しい。

 けれどやっぱり彼女にだけは、特別な優しさを見せている。

 

「フィオナだけしか受けられなかった『優斗の優しさ』に惚れたんだ。他の誰かでは無理だろう」

 

「フィオナ先輩だけに対する……」

 

 そういえば、とラスターは思い出す。

『貴方の言葉は私の心に響きません』と言われた。

 ということは優斗の優しさはフィオナの心に響いているのだろう。

 

「もちろん、今のフィオナに訊いたら理由など腐るほど出てくるだろうがな」

 

 それは別にレイナも聞きたくない。

 胸焼けを起こすだろうから。

 

「あと言っておくが、フィオナも存外に特殊な人間だぞ。普通の人間ならば手に余る」

 

「……えっ……?」

 

「当たり前だろう? いくら公爵家とはいえ、あれほどの美少女であるフィオナが誰の手にもつかず、尚且つユウト達と出会う前まで一人ぼっちだったんだ。フィオナ自身に問題がある」

 

「無口だったし愛想悪かったらしいから。高飛車とでも思われてたんじゃないかな」

 

 実際は無口で照れ屋な上、下心がある人間には容赦がないだけだったのだが。

 

「本当なのか?」

 

「マジだよ」

 

 今のフィオナしか知らないラスターは信じられないだろうが、出会った当初はそうだった。

 

「あれこれ理由は言ったがな。結論としてフィオナはユウト以外では無理だ。ユウト以外、恋愛対象になれない」

 

 お互い、出会うべくして出会ったとしか思えない。

 

「無論、ラスターも正義感は強いし良い物件ではあるのだがな。一年の間ではモテていると聞いている」

 

「あ~、なんかフラグ乱立しそうな優しさと正義感持ってるよね」

 

 与太話に花を咲かせる。

 するとノック音が響いた。

 

「誰だ?」

 

「フィオナです。優斗さんはいますか?」

 

「ああ、いるぞ」

 

 レイナは席を立って鍵を開ける。

 するとフィオナは中に入るや優斗のことをじと~、と見た。

 

「なに?」

 

「人気でしたね。幾人か、女性の方からも話しかけられていました」

 

 少し不満げな表情のフィオナ。

 

「クラスメートだし、闘技大会の優勝メンバーなら『おめでとう』ぐらい言ってくれるものだよ」

 

「嬉しそうでした」

 

「愛想笑いぐらいはするって」

 

 いきなり始まったやり取りに、レイナは嘆息してフィオナの頭をチョップする。

 

「レ、レイナさん?」

 

「家でやれ」

 

 空気が甘ったるくて胸焼けしそうだ。

 

 

       ◇      ◇

 

 

 さらにくだらない話を続け、少しはほとぼりも冷めただろうと思い、四人で帰る……はずだった。

 

「……レイナさん」

 

 呆れたように優斗が“修練場”の中でため息をついた。

 

「普通……巻き込む?」

 

「向こうは大会メンバーを所望していたからな」

 

 レイナの視線の先には三人組。

 帰る途中に勝負を挑んできた相手だ。

 もちろん、レイナは挑戦を叩き付けられた瞬間に即決で承諾した。

 

「少しは考えようよ」

 

 ということで、現在の状況が生まれたわけだ。

 

「レイナさんは別にいいよ、戦闘狂だし。ラスターだって戦うの好きだと思う。けど明らかに僕だけ巻き添えくらった形だよね?」

 

「別に時間が掛かるわけでもなし、問題はないだろう?」

 

「……まあ、そうだけど」

 

 優斗も相手を見る。

 全員が二年生。

 挑んできたからには、学院内でもそこそこ強いはず。

 ……あくまで学院内という話だが。

 成績的にも優斗よりは下の連中なはず。

 

「ラスター、10秒だ」

 

 レイナがラスターに耳打ちする。

 

「何がですか?」

 

「お前がタイマンをやれる時間が、だ。一人で倒したいなら10秒以内に倒せ」

 

 笑ってレイナは剣を抜く。

 本当に楽しそうだ。

 

「それでは始めてください」

 

 フィオナの開始宣言と同時、レイナとラスターが左右に飛び出す。

 優斗はその場で待機して機を窺い始めた。

 そのまま4秒、5秒、6秒と経過して、7秒を数えようとした瞬間、

 

「あがっ!!」

 

 優斗の相手は真横から攻撃を喰らった。

 不意の一撃でノックダウン。

 レイナは意気揚々とラスターの敵にも向かっていった。

 優斗が彼女と相対したであろう相手に目を向けると、すでに蹲っている。

 続いては別の剣戟音がする方向に視線を移す。

 ラスターはそこそこ押していたものの、倒すには至らずにレイナが参戦。

 ものの数秒で撃破。

 トータルで掛かった時間、およそ15秒といったところだろう。

 

「二人とも、お疲れ」

 

「……ユウト。お前、何もしなかったな」

 

「意気揚々と僕の相手をかっさらっていった人がいるからね」

 

「レイナ先輩! もうちょっと待ってくださいよ!」

 

「10秒と言っただろうが」

 

 全員が傷一つ付かずに勝負が終わった。

 

「さすがは闘技大会優勝メンバーといったところでしょうか」

 

「ラスターは大会で見せ場、無かったがな」

 

「……精進します」

 

 むしろ決勝と準々決勝のレイナと優斗を見れば、他の誰が見せ場を作ったところで絶対に霞む。

 和気藹々と話しながらレイナは倒した三人のところへと向かう。

 そして回復魔法を掛け、ある程度動けるようになったところで隣接してある救護室へと促した。

 優斗は鞄を持ち、

 

「これで帰れ――」

 

「おいコラ!! 生徒会長っ!! ユウト・ミヤガワはどれだっ!!」

 

 帰ろうとして無理だった。

 マイティーのリーダーハゲよりもたくましいハゲが修練場に乗り込んできた。

 

「……誰?」

 

「硬派気取りのバカだ。周りには番長と呼ばせている」

 

 レイナが呆れたように教えてくれる。

 

「今、名指しされなかった?」

 

「されたな」

 

 ラスターが頷く。

 優斗は嘆息しながら対応する。

 

「あの、ユウト・ミヤガワは僕ですが」

 

 番長の視線が優斗を捉える。

 

「貴様か。大会で特に活躍もしてない足手まといなのに優勝メンバーだというだけで粋がっているという輩は」

 

「……はっ?」

 

 いきなりすぎることに優斗も意味が分からなかった。

 

「女連れでチャラチャラしておったらしいな!」

 

「……なんのことでしょうか?」

 

「儂の手下が言っておったわ! 貴様は下種だとな」

 

 今にも殴りかかってきそうな番長。

 レイナが番長に近付く。

 

「貴様は何度勘違いしたら気が済む。毎度、貴様の手下のくだらない妄言に騙されているだろうが」

 

 一本気で良い奴ではあるのだが、直情的すぎるのが傷だ。

 手下だと思っている傲慢貴族にいい様に扱われている。

 

「貴様の手下は二年だったろう? どうせユウトが代表で気に食わなかったとか、フィオナがいつも側にいるのを妬んだだけだ」

 

「儂の手下をバカにするのか!?」

 

「貴様の理解力のなさと学習能力のなさを馬鹿にしている。それに足手まといがいたら大会など勝ち抜けるわけがない。むしろユウトがいなければ勝ち抜けていない」

 

「生徒会長がいれば勝てる大会だったのだろう!?」

 

「馬鹿か。無理に決まっている」

 

 レイナと斬り合える相手もいたというのに、どうやって彼女一人で勝てる大会だというのだろうか。

 

「とりあえずお前はユウトの実力が分かれば納得するのだろう?」

 

「生徒会長の言っている通りの男なら納得してやろう」

 

 その言葉を引き出すと、レイナは笑んだ。

 

「というわけだ、ユウト」

 

「……さっき戦わなかったからってやらせる?」

 

「疲れてないだろう?」

 

「……そうだけどね」

 

 とはいえ、レイナが誘導したのだから戦うことが一番早い解決方法なのだろう。

 

「優斗さん……」

 

 フィオナが心配そうに優斗へ近付いた。

 すると、番長が睨み付ける。

 

「チャラチャラしていたというのは本当のようだな」

 

 そして優斗達に近付き、

 

「失せろ! 場を弁えていない女など邪魔だ!」

 

 フィオナの肩を突いた。

 少しだけフィオナが後ろに蹈鞴を踏む。

 

「……しょうもないくらいに馬鹿だな」

 

 レイナが額に手を当てた。

 瞬間、優斗がショートソードを番長の首筋に突きつけていた。

 過程を視認できたのはレイナだけ。

 ラスターも番長も気付いた時点で、現在の優斗の姿を確認したにすぎない。

 

「……なっ!?」

 

 首筋に当たる冷たい感覚と同時、震え上がりそうなほどの殺気に番長が驚く。

 優斗は無表情のまま、剣柄を握りしめた。

 レイナが否定など許さぬ論調で話す。

 

「今のユウトの動きが分からなかった時点で実力は分かるだろう?」

 

「……そのようだな」

 

 案外、簡単に番長は引き下がった。

 確かに番長は馬鹿で直情的でどうしようもないくらいに阿呆だが、しっかりと見せつけられれば理解できるほどの脳みそはあった。

 故に事実を見せつけられれば納得も早かった。

 

「すまなかったな。儂の勘違いのようだ」

 

 しかも律儀に謝ってきた。

 

「そこの女も申し訳なかった」

 

 フィオナにも同様に謝る。

 どうやら優斗が動いた理由も悟ったらしい。

 優斗の膨れあがったモノも、それですぐに収まった。

 

「邪魔をした」

 

 踵を返して修練場から番長が出て行く。

 

「間違えは間違えだと認められるのはあいつの良いところではあるな」

 

 この一点は褒められる。

 何度も同じことをする奴なので、馬鹿なところは直してほしいが。

 

「それはそうとして、ラスター。今のユウトの動き、見えたか?」

 

「ば、馬鹿にしないでください! 動いたのは分かりました!」

 

 ラスターが言い返す。

 だが、

 

「ショートソードを抜いた瞬間は?」

 

「……いえ、見えませんでした」

 

 続けて問われたことに対しては、素直に首を横に振った。

 

「あれがユウトの速度だ。見えるようにならないと上のレベルにはいけないぞ」

 

 というより、怒り補正で前に副長との勝負で見た抜刀もどきよりも速かった。

 

「フィオナ、だいじょうぶ?」

 

 優斗はショートソードを収めてフィオナに近寄る。

 

「平気ですよ」

 

 突かれただけで痛みはない。

 

「よかった」

 

 優斗が笑みを浮かべる。

 

「珍しいものだな。お前がフィオナに手を出されるとは」

 

「殺気とか敵意だと反応できるんだけど、今のは違くてね。その分、反応が遅れた」

 

 相手としては邪魔だからどけた、という感覚だったのだろう。

 

「けれどラスターだったら僕に文句の一つでも言ってくると思ったんだけど、何も言わないね」

 

「オレも反応できなかったというのもあるし、今更フィオナ先輩を好きだということもないからな。無駄にどうこう言おうとは思わん。もちろん、フィオナ先輩が超絶に美人だということは今でも思っているし、貴様が死ぬほど羨ましいのは変わらんが」

 

 なんか大人っぽいことをラスターが口にした。

 

「……ラスターが成長したよ」

 

「驚きですね」

 

「ラスター、大丈夫か?」

 

 三者三様、酷いことを言う。

 けれどラスターとしては当たり前だと思っているので、思わず溜め息が出てしまった。

 

「……はぁ。フィオナ先輩と貴様があんな大勢の前でキスをすれば、100年の恋とて冷めるぞ」

 

「――っ!? な、何の話ですか!?」

 

 酔っ払って覚えていないフィオナが顔を赤くする。

 

「フィオナ先輩、覚えてないんですか?」

 

「えっ!? だ、だって大勢の前って、私そんなの知りません!」

 

 あたふたするフィオナに対して、優斗が代わりに答える。

 

「あれほど酔っ払ったら、記憶を無くすんだよ」

 

 だから恥ずかしい思いをするのは一人だけ。

 

「ユウトにとっては羞恥プレイでしかないな」

 

「……言わないでよ」

 

 思い出して疲れた様子を見せる優斗。

 

「わ、私、本当にそんなことをしたんですか!?」

 

 一人だけ事情の分からないフィオナ。

 慌てふためき、顔を真っ赤にさせている彼女の叫び声が修練場に響いた。

 

 

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