第45話 評価の誤差

 リライト居残り組――修、卓也、アリー、ココでのんびりとお茶をする。

 

「優斗のやつさ、俺とかマリカがトラブル体質だと思ってんじゃん」

 

「思ってるな」

 

「ですわね」

 

 卓也とアリーが当然のように頷く。

 

「けどあいつもトラブル体質だって気付いてんのか?」

 

 修が今更のように言った。

 

「そうなんです?」

 

 ココが疑問を浮かべると、

 

「年に数回、俺が関係なかったときにだってトラブってた」

 

「そこまで大事ってわけじゃなかったし……まあ、気付いてないだろ」

 

 修が酷すぎて、優斗も自分で気付けていないだろう。

 

「だよな」

 

 むしろ、あの人生でトラブル体質じゃないと断言するほうがおかしい。

 

「俺とかマリカが酷いだけだし」

 

「それはそれで、何と言っていいのやら」

 

「アリー、笑っとけ。修はこれでも楽しんでる」

 

 卓也の苦笑に修も笑った。

 面倒ではあるが。

 つまらない人生よりはマシだ。

 

「優斗の奴は普段いる場所だったら、トラブルが発生する可能性は低いんだけどな。今日から行ってる場所は初めてなんだし、何かしらは起きそうだわ」

 

 

       ◇      ◇

 

 

「事前申請は行っていましたので、これで無事に本登録も終了です」

 

 副長が受け付けより受け取った闘技大会の詳細用紙を各々に配る。

 

「私はこれからアリスト王を迎える準備をしてきますので、これにて解散。20時に宿の食堂で集合としましょう」

 

「我々も出迎えたほうがよろしいのでは?」

 

 レイナが訊く。

 

「いえ、アリスト王より学生は遊ばせておけと厳命されているので」

 

 副長は踵を返して離れていく。

 

「どうする?」

 

 優斗がレイナに振る。

 

「しばらくぶらつくとするか」

 


 

 

 市中を歩く。

 街全体がお祭りムード一色だ。

 優斗たちは歩きながら先ほど手渡された資料に目を通す。

 

「学生の部、登録チームは32チームだって」

 

「予選はバトルロイヤルとありますね」

 

「4チームの中から1チームのみトーナメントまで勝ち抜けられる、か」

 

 レイナはルールを口にしたあと、本音を言う。

 

「相手が上位評価以外なら予選は楽だな」

 

「レイナ先輩! オレが全部倒してやりますよ!」

 

 彼女の口に乗ったのか、調子よくラスターが宣言するが、

 

「バカを言うな。お前が倒せるほど甘い奴らがやってくるわけではない」

 

 すぐに叱責される。

 

「強敵ってどの国か分かる?」

 

「ちょっと待っていろ。おそらく、近くに……」

 

 レイナが見回す。

 そして目的の場所を見つけたのか、すぐさま寄っては“ある物”を手にして帰ってくる。

 

「新聞?」

 

「公的な行事で賭けも出来るからな。新聞でも特集として組んである」

 

 広げた新聞を優斗たちはのぞき込む。

 和泉が感嘆の声を上げた。

 

「魔物と同じようにランクで分けられているんだな」

 

 和泉はそのまま、読み進めていく。

 

「ふむ。唯一のSランクはライカールだな。学生最強の精霊術士と魔法士がいるらしい。魔法士のほうは学生の中で神話魔法を扱うに一番近い存在だと謳われている。倍率としても圧倒的だ」

 

 レイナも和泉の後ろからのぞき込み、

 

「続いてAランクが2チーム。エンガルトとコリル。そしてBランクには3チーム……。私たちはここだ」

 

 新聞のある一点を指さす。

 確かに優斗たちの名前が載っていた。

 

「なんて書いてあるの?」

 

「学生の中でも最上位の実力を持っている三年のレイナ=ヴァイ=アクライトが中心となっているチーム。ただし例年と違い穴が存在しており、一年のラスター・オルグランスの奮闘が勝敗に左右される。しかしながら、関係筋より高評価を得られている二年のユウト・ミヤガワには要注意。データがほとんど存在せず、出場選手の中で一番の未知数である。唯一出場している国内大会では初出場で決勝まで勝ち上がったことを見るに侮れない。よって昨年よりもランクは一つ落ちてBランクとするのが妥当ではあるが、ダークホースとしては一押し」

 

 読んでいるレイナの眉間に少し皺が寄る。

 どうやら、お気に召さなかったらしい。

 

「Bランクの中でも一番下の評価か」

 

 さらに眉間に深く皺ができる。

 

「レイナさん以外は雑魚と思われてるんだろうね」

 

 優斗の評価なんて、まるでゴシップだ。

 

「王様のコメントも載っていますね」

 

 フィオナが発見する。

 紹介文のすぐ下にあるのは、アリスト王のコメント。

 

「えっと……『今年は優勝できるメンバーが揃っている』と書いてあります」

 

「さっき書いてあった関係筋って……王様?」

 

「かもしれません」

 

 優斗とフィオナは顔を見合わせて苦笑する。

 と、賑やかな集団が目の前に現れた。

 優斗達の姿を確認して、足を止める。

 

「調子はどう? レイナ」

 

 そして気軽に声を掛けてきた。

 レイナは目を大きくすると、小さく笑った。

 

「マルチナか」

 

「昨年は楽しかったね」

 

「そうだな」

 

 言葉を交わすレイナと女性。

 どうやら知り合いらしい。

 

「今年はどうなの?」

 

「悪いが、負ける気がしない」

 

「凄い自信ね」

 

「このメンバーで勝てなかったら、二度と優勝できんさ」

 

 自分がいて優斗がいる。

 優勝できなかったらどうしようもない。

 

「貴方自身の実力も伸びているでしょ?」

 

「お前の予想の最上位を当てはめてくれ。それぐらいの実力を付けてきたつもりだ」

 

「あら? 楽しみね」

 

 そう言って笑うと、行く場所があるからと女性の集団は離れて行った。

 

「今のは?」

 

 レイナの先程の会話から優斗が誰なのか訊いてみる。

 

「去年、準々決勝で当たった。強敵の一人だ」

 

「勝ったの?」

 

「チームとしてはな。ただ、個人の決着はついていない」

 

「チーム自体も強敵なの?」

 

「ああ。さっきの新聞の評価では私たちより上のAランク。エンガルトのチームだ」

 

 レイナがいてもBランクのリライト。

 そして昨年、対等の闘いを演じたマルチナのエンガルトはAクラス。

 ということは、穴があるかないかの差だ。

 

「厄介だね」

 

「かもしれないが、言っただろう? 負ける気がしないと」

 

 

 

 

 食事を取ったあと、副長は明日が早いために個室へと戻る。

 残った学生達は明後日より始まる予選のために作戦を考えようと思ったのだが、

 

「貴様が足を引っ張らなければ予選など問題ない!」

 

 とラスターが豪語して、彼は部屋へと戻っていく。

 

「あれでも聞き分けはよくなったほうなのだがな」

 

 レイナが苦笑する。

 

「たぶんだけど、僕がいなかったらちゃんと参加したんじゃないかな?」

 

「やたら無闇に優斗さんに突っかかってこないだけマシになりましたね」

 

 とはいえフィオナは興味なさげ。

 さて、と優斗は仕切り直す。

 

「作戦とかってある?」

 

「トーナメントでは王道で一番手同士、二番手同士、三番手同士が闘いながら仲間のフォローをするのが常だが……」

 

 つまり自分たちの順番を当てはめると。

 

「評価順だとレイナ、優斗、ラスターの順番か」

 

 和泉が指を一本ずつ立たせながら言った。

 つまり対外的には優斗が二番目と思われている。

 

「優斗が二番手って鬼畜だろう」

 

「相手が可哀想で仕方ないな」

 

 思わず対戦チームの二番手に合掌する和泉とレイナ。

 

「いやいや、全力でやるわけじゃないし」

 

 さすがに神話魔法は使えない。

 

「ただし予選はバトルロイヤルだ。評価上位国と同じ組にならないかぎりは、新聞の評価を鵜呑みした連中がおそらく私を集中的に狙うだろう」

 

 おそらくはそうなるとレイナが予測する。

 

「バトルロイヤルだからリングアウトでも選手失格。最後に一人でも残っていたチームがトーナメントに進めるって書いてありましたね」

 

 フィオナがルールを確認していると優斗はからかうような感じで、

 

「レイナさんにみんなが集まった瞬間、風の魔法で全員ぶっ飛ばす?」

 

「私ごと飛ばす気か!」

 

 フィオナも和泉もテンプレのようなツッコミに思わず笑ってしまう。

 

「……まあ、確かに案としては悪くないがな」

 

「悪くないんだ?」

 

「しかし、つまらん。トーナメントに入ったらワガママなど言ってられんが、予選くらいは楽しみたい」

 

 レイナの要求に三人が呆れたような、納得したような表情を浮かべた。

 

「戦闘狂だしね」

 

「戦闘狂ですから」

 

「戦闘狂だからか」

 

 仕方ない。

 

「けど、レイナさんは大丈夫かもしれないけど、僕はさすがに制限してある魔法で余裕は生まれないと思うんだよね」

 

 特に上位評価のチームに対しては。

 同じレベルの魔法を使えるのだから厳しいものがあるかもしれない。

 

「今のところ、どこまで使えるように見せているのだ?」

 

「風の上級魔法を使えるかな? ってぐらい。他は中級までだね」

 

 それでも学生としては十分すぎるほどなのだが、世界クラスと闘うとなると心許ない。

 

「精霊術も使おうかな?」

 

「隠し技として使えばいいだろう? せっかく未知数という評価をもらっているんだ」

 

 和泉が優斗に同意する。

 

「滅多に見ないからな、優斗の精霊術は」

 

「おかげで有名なのは恋人の方だ」

 

 レイナの言葉にフィオナは苦笑する。

 

「私の精霊術の先生は優斗さんなんですけどね」

 

「まあ、ユウトが精霊術まで使うとなれば、不意打ちで私かユウトのどちらかがリングアウトしても、片方が残っていれば何とでもなる」

 

 過信なく、自信だけを覗かせるレイナ。

 和泉がレイナの様子を見て、しみじみと呟く。

 

「この二人が同じチームで学生の部に出るって反則だと思うのは俺だけか?」

 

「安心してください。私も思っています」

 

 フィオナも同意した。

 

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