第40話 変なところで変なすれ違い
寒空となった12月。
フィオナはアリー、ココ、リル、そして卓也を集めて相談をしていた。
「寒さも強くなってきたのでマフラーと手袋を編んであげたいんです」
「へぇ、いいじゃない。ユウトもマリちゃんも喜ぶわよ」
リルが大賛成、とばかりに頷いた。
「それでですね。内緒に編んで驚かせたいんですけど、どうしたらいいですか?」
「……えっと、驚かせたい気持ちはよく分かりますが、どういうことなのですか?」
アリーが逆にフィオナへ問う。
「優斗さんは聡いので、絶対にバレちゃうと思うんです。だからバレないための策を皆さんに提案してもらえたら、と思いまして」
フィオナの言葉に全員が「確かに」と納得する。
彼女が優斗に隠し事を通しきれるとは思えない。
「策って言っても、ユウトさんが近づいてきたら逃げるとか」
「わたくしもそれぐらいしか思い浮かびませんわ」
「あたしも」
ココが言ったことに対して、アリーもリルも頷く。
というか、それ以外は無理だと思う。
「でしたら逃げたほうがいいですね」
女子勢が和気藹々と話を進行していく。
と、卓也がストップをかけた。
「オレとしてはお勧めしないな」
「どうしてです?」
ココが首を捻る。
「相手が優斗だからだよ」
卓也の言うことにフィオナ達は一斉に首を傾げる。
「フィオナが驚かせたいっていう気持ちも分かるけど、オレは素直に編み物を作ってあげてプレゼントしたほうがいいと思う。優斗の性格からして隠さなくても目一杯喜んでくれるよ」
「かもしれませんが、先ほどの案も問題があるようには思えないのですけれど」
こういうイベントに目がないアリーが反対する。
フィオナもココもリルも同様だ。
「甘い。あいつは基本的に全力でネガティブだ。そんなことやられたら、どう勘違いするか分からないって。後に問題になりそうなことは断つべきだ」
「大丈夫じゃないの? ユウトとフィオナに問題起こるわけないでしょ」
「そうです」
「私も問題があるとは思えないのですが……」
平然としている女子勢。
卓也は一つ溜め息を吐き、
「一応は止めたからな。万が一に問題が起こっても知らないぞ、オレは」
◇ ◇
翌日、優斗が朝起きるとリビングにフィオナがいなかった。
すでに朝食を取り終わってゆっくりしているマルスとエリスが「おはよう」と挨拶してきたので、優斗も言葉を返す。
フィオナがいないなんて珍しいこともあるんだな、とテーブルについて食事を始める優斗。
「義母さん、フィオナはどうしたんですか?」
「あの子ならもう出て行ったわよ」
「こんな朝早くからですか?」
「あら? ユウトも知らなかったの?」
「何も聞いてませんけど……」
エリスと優斗、二人してハテナマークを浮かべる。
そして優斗が学院に着いてからというもの。
「フィオナ。今朝って何か――」
「すみません! 用事がありますので!」
優斗が話しかけようとすると、
「フィオナ。あのさ――」
「アリーさんに呼ばれてますので!」
物の見事に、
「フィオ――」
「すみません!」
避けられた。
あまりにも不自然な状況に優斗も困惑する。
「……何かやったっけな?」
自分の過去を思い返すが、それほど大きな失敗はない。
と、和泉が困惑している優斗のところへやってくる。
「どうしたんだ?」
「なんか、フィオナに避けられるようになった」
「何かしたのか?」
「いや、記憶があるうちはやってない」
「そうか……」
だとしたら和泉も手助けのしようがない。
ただ取っ掛かりを見つけるぐらいは相談に乗ろうと思う。
「一緒にいては困る、もしくは一緒にいるところを見られては困ることがあるのか?」
「そんな話を聞いた覚えはないんだけど……」
と、優斗は言ったところで可能性を一つ思い付く。
「もしかして……」
「何か思い付いたのか?」
和泉が訊く。
基本的には優斗の予想は信頼性が高く、かなりの確率で当たる。
「とりあえずは。ただ確証が持てないから、もうしばらく待ってみるよ。気のせいかもしれないし」
「……? まあ、よく分からないが解決できそうならいい」
◇ ◇
二日後。
「それで、首尾はどう?」
リルがフィオナに訊く。
「大丈夫です。優斗さんには悟られていません」
「一安心ですわね」
「よかったです」
教室の一角で女子勢が集まって話し合う。
「手編みのマフラーと手袋はどこまで出来てるんです?」
ココが進行具合を尋ねる。
「まーちゃんの分は完成しました。あとは優斗さんのマフラーですね」
「早く渡して驚かせてほしいですわ」
アリーとしては、あの優斗がどんな表情をするのか気になって仕方ない。
「時間が経つほどフォローも苦しくなるしね」
リルがフィオナの肩を叩く。
「はい。頑張ります」
こそこそと話し合う。
彼女たちを視界に入れてる卓也は、ため息をつく。
――楽しみにしてるのはいいんだけど、優斗のことは考えてるのか?
視線を少し変えれば、優斗が真面目な表情をしながら女性陣を見ていた。
避けられ続けてからというもの、迂闊に近付くことはなくなった。
――優斗のやつ、碌でもない方向に考えが及ばないといいんだけど。
優斗のネガティブ思想は仲間内で一番酷い。
何か問題が起こったとき、プラスに考えることはない。
それが今回も同様だった場合、問題になるのは目に見えてる。
◇ ◇
フィオナが優斗を避けてから、数えること五日。
今でもフィオナの態度は変わることがなかった。
家でも学院でも優斗との接触を極力断つようにしていた。
和泉は少し前に相談に乗った手前、心配になって優斗と二人での帰り道で問いただしてみる。
「フィオナは一体どうしたんだ?」
「……あくまで僕の予想でいい?」
「それでいい」
和泉が頷く。
「たぶんだけど、誰かに惚れてるんじゃないかな?」
「……なんだと?」
ぶっ飛んだ発想にさすがの和泉も驚く。
「だから、誰かに惚れた。となると僕と一緒にいるのを見られて勘違いされるのが嫌なのも理解できるよ」
「いや、ちょっと待て。いくらなんでも発想が突飛すぎるだろう」
優斗にベタ惚れだったフィオナが優斗以外に好きな人ができるなどありえない。
「そうでもないよ。これなら数日間、僕と接触を極力避けてきたことにも納得できる」
答える優斗に和泉は何でそうなる、と問いかけたくなる。
だが、優斗のネガティブ発想は今に始まったことではないと考え直す。
――中学のときからそうだ、こいつは。
常に最悪のところに考えを置いて対処する方法を導き出す。
良い方向に考えることがほとんどない。
それが今は、明らかに裏目に出てる。
「あとは――」
言葉を続けようとした優斗が一瞬、驚いて、困ったような顔をして、すぐに表情を戻した。
優斗の変化に気付いた和泉は彼の視線の先を辿る。
商店で珍しく楽しそうに男の店員と話して買い物をしているフィオナの姿がそこにはあった。
「……あの人かな。フィオナの好きな人って」
「そんなわけがないだろう」
「分からないよ。世の中、可能性なんてそれこそ無限にある。加えて人の気持ちなんて論理的に理解することは出来ないしね」
「それでも、あり得ないことは存在する」
和泉がもう一度、否定する。
けれど優斗は踵を返して違うルートで帰り始める。
「まあ、あそこにいる人じゃないかもしれないけど、フィオナが僕を避けてるのは確か。今のところ、僕が彼女に一番近しいのは間違いなかったとは思う。だからこそ勘違いされないために、ね」
足早に優斗は去って行く。
表面上は普通だが、その場にいたくなかったのは明らかだ。
「……とりあえずフィオナのこと、応援しないと。僕の気持ちを抑えて、それでフィオナとはあくまで『家族』として接するようにしないと」
「待て、優斗!」
和泉が引き留めようとするが、優斗は止まらない。
「ごめん、和泉。ちょっと心の整理をしたいからさ、今日はこのまま一人で帰らせてもらっていい?」
「……させると思うか?」
とてつもない勘違いをさせたまま、帰らせるわけにもいかない。
「フィオナがどういう理由でお前を避けてるかは知らないが、少なくともお前が考えている理由じゃないはずだ」
「論破になってないよ。どういう理由なのかが分からないから、僕が言った理由であるのかもしれない」
「しかし……」
「例え、僕の言っていることが間違っているとしても、唯一分かってるのはフィオナが僕を避けてること。それは覆すことのできない事実で、常識的に考えてポジティブに捕らえることはできない出来事だ」
急に避けられたら、誰だって思う。
「だったら……分かるだろ?」
「……お前の言いたいことは理解できるが」
和泉としても、そう持ち出されたら納得せざるを得ない。
「とりあえずさ、気持ちを落ち着けたいんだ。だからごめん」
優斗はいきなり走り出す。
元々、身体能力でも絶対の差がある二人。
すぐに和泉の視界から優斗の姿がなくなった。
優斗は和泉を引き離すと、歩きながらゆっくりと考える。
「フィオナが僕を避けてるなら、僕からもある程度は距離を置かないといけないよね。でないとフィオナのやってることが無意味になる」
今後、どうやってフィオナと接していこうか。
「最初のうちは呼び名を『フィオナさん』に戻して、口調も最初に会った頃にしよう。これをアピールしていけば、フィオナも露骨に避ける必要はなくなるはずだし」
うん、と優斗は頷く。
「僕の気持ちが落ち着いたらフィオナを妹的な存在として見ていこう。初恋の相手だし、なかなか出来ないかもしれないけど……僕なら時間が経てば出来る」
切り替えることのできる人間だ、自分は。
「マリカも可能なかぎり、僕が見てあげないと。マリカのせいでフィオナに迷惑を掛けたくないし、最悪の場合は僕一人で面倒を見ることも視野に入れよう」
責任感が強いフィオナのことだから育てる気はあるだろうが、フィオナの懸想の相手からしたら迷惑かもしれない。
「とりあえずはこれぐらい、かな」
そう言って優斗は胸元を握りしめる。
「……大丈夫。こういうことには慣れてるし」
今更、一つ二つ増えたところで問題はない。
優斗は考えをまとめると、寄るところに寄ってからトラスティ家へと帰る。
まだフィオナは帰っておらず、エリスとマリカと三人での食事を終える。
そしてソファーで娘と一緒にくつろいでいると、エリスがお茶を持ってきた。
向かいのソファーへと座る。
「最近一緒に帰ってこないしフィオナの挙動は不審だし、どうしたの?」
さすがにフィオナの様子がおかしい。
優斗ならば何か知っていると思い尋ねる。
「忙しそうですから、仕方ないですよ」
「何かやってるのかしら?」
「僕は何も聞いてませんし」
お茶を啜りながら優斗は答える。
エリスは冗談で、
「もしかして、誰か男の子と会ってたりするのかもね?」
なんて言ったものだが、彼の返答はエリスの想像を超えるものだった。
「僕もそうじゃないかと思ってます」
「……えっ!?」
驚きの声が出た。
冗談かとも思ったが、とてもじゃないが冗談を言っている雰囲気ではなかった。
「……そう……なの?」
「分かりません。ただ、彼女の行動を鑑みるにそうなのかな、と」
落ち着いている優斗に比べ、エリスは焦る。
「で、でも、何か用事があって会ってるのよね、きっと」
「僕はてっきり好きな人が出来たものだと思ってましたよ」
「――っ!」
続いた爆弾発言。
ただ、これについては信頼性がない。
「い、いやね。ありえないわよ」
「今週に入ってからずっと避けられてるので、好きな人に男の子と仲良い姿を見られたくないものだとばかり思ってたんですが」
平然とそう答える優斗。
ここまで堂々と言われると、少しだけエリスも不安になる。
「……え……いや……そんなわけ……」
「大丈夫です。来週までには彼女に迷惑を掛けない距離感を会得してみせますから」
優斗は心配しないでいい、と元気な様子を見せるが、エリスとしては正直そんなものどうでもよかった。
――どうなってるの!?
頭がこんがらがる。
エリスとしては、優斗とフィオナは完全なる相思相愛で本物の婚約者になるのも時間の問題だと思っていた。
普段の様子から見ても間違いないはずだ。
――なんだけど。
どうしたらこんな状況になるのだろうか。
――ユウトは平然とした表情してるし。
とは言っても彼のことだから取り繕っている表情なのかもしれない。
しかし義息子が鉄面皮を気取るなら、とてもじゃないがエリスには判断ができない。
――ああ、もう面倒ね。
色々と拗れているので、いっそのことバラそうかとも考えたが、当人同士の気持ちを他人が言うなんて駄目だ。
かといって優斗を説得するだけの情報がエリスにないのも事実。
渦中のフィオナは最近、帰りが遅い。
――あの子ったらホント、何をやってるのかしら。
◇ ◇
今日はココの家に集まる前に、他にも色々と優斗の好きそうな柄を選んでみた。
店員に話し掛けられたので、助言をもらいながら次の機会に編めるように決めておく。
今やっているものも明後日には編み終わりたいので、自然と帰りが遅れてしまったのはしょうがないところだろう。
――でも、3分の2くらいまでは編めました。
予定していたところまで編めてフィオナ的には大満足だ。
「ただいま戻りました」
家の中へ入る。
リビングにはまだ優斗とマリカ、エリスがくつろいでいた。
「お帰りなさい」
「お帰りなさい」
「あい」
エリス、優斗、マリカの順に『お帰り』と言われるが、何かしらの違和感がフィオナの中に生まれた。
けれど優斗がリビングにいるので、その疑問をすぐに打ち消す。
「わ、私はご飯も食べてきましたし疲れているので、部屋でゆっくりとしていますね。あとでまーちゃんはお母様が連れてきてください!」
一息で伝えきってフィオナは自室へと向かっていく。
おそらくは何もバレていないはず。
――今日と明日を乗り切ればいいんです。
フィオナはただ、それだけを考えて自室へと入った。
「本当に何を考えているのかしら?」
あまりにも不審な態度にエリスに眉間に皺が寄った。
「いいじゃないですか。家族に知られたくないことだってあるんですよ」
優斗は笑う。
「今日は僕がマリカを引き受けますね。疲れてるのにマリカの面倒までさせるのは大変ですから」
言ってマリカを抱き上げる。
それと同時にあることを伝えていないことに気付く。
「あっ、そうだ。明日と明後日、二日間に跨がってギルドの依頼を受けてます。もし彼女が明日、帰らないようなら申し訳ないですけど義母さん、マリカのことお願いします」
「それは別にいいんだけど……」
どうしてこのタイミングで、とはエリスが思う。
けれど、すぐに一つの予想を思い付いた。
――偶然、ってわけじゃないわよね。
フィオナと距離を置くために依頼を受けたとみたほうがいい。
「部屋への戻り際に僕がマリカと寝ることを彼女に伝えますね」
優斗はエリスに軽く頭を下げる。
「おやすみなさい」
少し困ったような義母の姿を背にして、優斗は自室までの道のりの途中にあるドアを二回、ノックする。
そして母親と間違えられないように声を掛ける。
「フィオナさん。このままでいいので聞いてください」
彼女の部屋から聞こえたドアに駆け寄る音がピタリと止まった。
声を掛けておいてよかったと優斗は思う。
「今日は僕がマリカと一緒に寝ますので、フィオナさんはゆっくりと休んでください」
先ほどに決めた通りの口調でフィオナに話しかける。
「失礼しますね」
◇ ◇
フィオナは今し方に彼から伝えられた言葉を把握するのに時間が掛かった。
「…………え?」
最初に聞いたときは間違いだと思った。
「……えっ……?」
彼が紡ぐ言葉の中で。
“フィオナさん”と。
ありえないものが聞こえた。
「……あれ……?」
耳が遠くなったのだろうか。
それともドア越しだから聞き間違えたのだろうか。
「気のせい……ですよね?」
しかも心なし口調が丁寧な気がする。
自分にはもう、半年以上は向けられていない義務的な口調。
それが使われていたような……。
フィオナは一度、思い切り頭を振る。
「……聞き間違いです」
すでに彼の姿を扉の向こうにはない。
少しぼぅっ、としていたから。
だから聞き間違えたのだろう。
けれど、勘違いと思うのは……ただの望みで。
翌朝。
不安が拭えずにあまり眠れなかったフィオナが部屋から出ると、出かける準備万端の優斗がいた。
「おはようございます、フィオナさん」
笑顔で挨拶する優斗。
「…………えっ……」
不安と心配が現実になって、体が硬直するフィオナ。
「僕はもう出ますしマリカの面倒は義母さんに頼んでいますから、疲れているのならもう少しゆっくりしてもいいと思いますよ」
時間が詰まっているのか、急ぎながら玄関へと向かう優斗。
彼女の様子には気付いていない。
「では、行ってきますね」
パタパタと出て行く。
フィオナは彼の姿に、否定も反論もできずにただ……後ろ姿を見送っていた。
フィオナはそのまま、慌てて家を出てココの家へと向かう。
すでに卓也たちが集まっていて、フィオナの様子に卓也以外の誰もが怪訝な表情を浮かべた。
「どうしたのですか?」
代表してアリーが訊く。
「ゆ、優斗さんが……」
フィオナの顔が少し青い。
両手が震えているのは寒さか、恐怖か。
それでもフィオナの口からは昨夜と今朝あった出来事を紡いでいく。
卓也は一通りの話を聞くと、
「まあ、予想できたことと言えば予想できたことだな」
普通に納得した。
「どうせフィオナが避け始めてから、いろいろとネガティブに考えたんだろ」
優斗のことだから。
そして出した結論の一つとして、
「一旦、関係を最初の状態に戻すことがフィオナのためだと思ったんだろうな」
「そう……なの?」
問うリルに卓也は頷く。
「このままだと距離まで置かれるんじゃないか?」
「べ、別に編み物を渡せば解決する問題よね」
リルが慌てて取り繕った。
避けていることが問題なら、解決すればいいだけだ。
けれど、
「優斗が受け取る隙を見せるとは思えない」
「えっ? で、でもクラスメートで同じ家に住んでるんですよ」
ココが卓也の予想を否定する。
「あいつ、距離を置こうとしたらとことんやるぞ。完全無欠に抜け目なく、な」
優斗に対してフィオナがどうこう出来るとは思えない。
卓也は大きく溜め息を吐いた。
「だから言っただろ。問題が起こりそうだからやめろって」
「……はい」
今となっては後の祭りだが、フィオナが素直に頷く。
けれど続く卓也の言葉はフィオナの心をさらに抉る。
「下手したらフィオナ以外の女の子と仲良くなろうとか思いかねないな」
「ど、どうしてですか!?」
「だってフィオナに避けられたってことは、フィオナに誰か好きな奴が出来たとか優斗のことが嫌いになったとか、ネガティブな優斗ならそう考えるだろ」
事実は明らかに違うし、優斗の考えがあまりにもアホらしいのは優斗以外が納得するところだ。
けれども問題は“優斗がどう思っている”のか。
「後者ならいいけど前者ならフィオナのために別の女の子と仲良くしようとしても不思議じゃない」
「……どうやったらそんな馬鹿な考えになるのよ」
呆れた声をリルが出す。
「簡単だって。フィオナの優斗を避けた理由が“男”なら、フィオナの為にもフィオナが好きになった相手のためにも“自分はフィオナよりも仲良い女の子がいますよ”とアピールする可能性がある」
これぐらい余裕でやってのける男だ。
卓也の予想にフィオナの顔が真っ青になる。
「わ、わ、私、帰ります!!」
そしてパニックになったのか、フィオナは早々に家へと戻っていった。
フィオナを見送りながら、
「あいつ、自分が幸せにするって甲斐性を持ってないの!?」
「そうです!」
リルとココが憤慨していた。
しかし卓也は二人に呆れる。
「お前らこそ何を怒ってるんだ。あいつは『フィオナが幸せ』だったらいいんだよ」
自分が幸せにする必要性がない。
「好きな女の子は自分が幸せにする、なんて殊勝で自信ある考えを持てるほど優斗は出来た人間じゃない」
親友に対して辛辣ではあるが、この評価は正しいと思っている。
彼は自身の人間性に対してとことん、自信がない。
むしろ毛嫌いしている節もある。
「あいつが自分の幸せとフィオナの幸せ、秤に掛けてどっちに傾くか。答えは分かりきってる」
並行にはならない。
「フィオナだ」
確実に彼女に傾く。
「だからフィオナのためになら何だってやるし、フィオナのためならいくらでも自分の気持ちを殺す」
大切だから、と。
ただそれだけの理由でやる。
「ほんと……馬鹿な奴なんだよ、あいつは」
大切だから手放さない、ではなく。
大切だからこそ手放す。
自分が幸せにしたいと願っても。
「それにお前らが優斗に怒るのはお門違いだ。ちゃんと不安要素は伝えたし、最悪だけどその通りになった。分かってたことだろ」
「だ、だったらタクヤが強く止めてくれたら、こうならなかったんじゃ――」
「可能性があるってだけで強く止められるわけない」
リルの言葉をすぐに否定する。
未来予知の如き予想が卓也は出来ないのだから、伝えられるのはあくまで可能性のみ。
それだけで彼女の行動を止めるのは難しい。
「もちろんフィオナだったら、ここから挽回して優斗とちゃんとなるだろうと思ってるけどな」
卓也は彼女こそが優斗の運命の相手だと思っている。
だから大きなトラブルが起こしたとしても、フィオナであれば挽回してくれると信じている。
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