第12話 新しい世界で、新しい日々を

結局のところ、魔物が出てきてしまったので全てはうやむやのまま終わった。

 

「優斗。何であんなもんが出てきたのか、分かってんだろ?」

 

 帰っている最中、皆の中で最後方を共に歩いている修がそれとなく話題に出した。

 

「まあね。状況から考えたら“あいつ”しか考えられないし」

 

 展開的にもあまりに分かりやすくて罠かと思えるぐらいだ。

 

「潰すか?」

 

「いや、いいよ。次に何か仕掛けてきたら、その時は容赦なくやるけど」

 

「今回はお前のミスだかんな」

 

「分かってるよ」

 

 自分がキレて容赦なく叩き潰したのが原因だ。

 

「何を言われたんだ?」

 

「……フィオナをもらうって言ったんだ。彼女の容姿は自分に相応しいとかふざけたこと抜かしてさ」

 

「そんでキレたわけか」

 

「うん」

 

 修は話を聞くと、軽く伸びをした。

 

「まあ、でも少し安心はした」

 

「なにが?」

 

「お前の中であいつらも『大切』のうちの一つに入ってたことが、だ」

 

 優斗と修は視線を前に向ける。

 前のほうではアリーとフィオナが笑って何かを話していた。

 

「俺らの中で一番、大切なものを作らないのがお前だからな」

 

 “作れない”のではなくて“作らない”。

 そうしないと……失うものに耐えれなかったから。

 

「俺ら全員、歪んでるけどよ。俺らは俺らなりに大切なもの──信じられるモノを作ってもいいんじゃないかって思ってんだ」

 

 その中でも特に優斗は。

 もう少し誰かを信じられるようになってほしい。

 

「これからこの世界で……もっとできればいいんだけどね」

 

「できるだろ」

 

 修は空を見上げながら答える。

 

「あっちとは違う世界なんだからよ」

 

 自分たちが嫌いだった世界とは違うのだから。

 

 

 

 

     ◇    ◇

 

 

 

 

「もしかしてタクヤさん達もあれくらい出来ます?」

 

「無理」

 

 ふとしたココの疑問に卓也が瞬間的に答えた。

 

「即答ですね」

 

 クリスが苦笑を浮かべる。

 

「それはそうだろう。俺たちは優斗ほど頑張ってもない。あいつほど頑張れたら出来るかもしれないが……まあ、無理だ」

 

 和泉から断言されたことにココとクリスが首を傾げる。


「優斗もチートの中身が俺達と違うのかもしれないが、それでも元々のスペックが尋常じゃないからこそ出来たことだろう。それに今回の大会に向けて優斗は自分なりに出来ることを分析し、行動している。俺達が容易にやれることじゃない」


 凡人がチートによって圧倒的な力を持ったわけではない。

 凡人ではないからこそ、優斗は独自詠唱の神話魔法が使えたのだと和泉は思う。


「しかも優斗の努力は身を削ることが前提条件だ。自分を省みないレベルは誰でもできるわけじゃない」

 

 だからこそ強いと言えるのだが、優斗ほど自分を痛めつけようとは思わない。

 

「どうしてそこまでするんです?」

 

 ココが首を捻った。

 話を聞いているかぎりじゃ、絶対に普通じゃない。

 すると卓也は曖昧な笑みを浮かべて、

 

「……仕方ないんだ。どんな時でも優斗は強く在る必要があったからな」

 

 しょうがないんだよ、と最後に卓也は付け加えた。

 

 

 

 

 

     ◇    ◇

 

 

 

 

 

「優斗さん、すごかったんですよ」

 

 フィオナは家に帰ると、エリスに今日の顛末を伝えた。

 

「カルマを瞬く間に倒したのよね」

 

「知ってるんですか?」

 

「さすがにね。学生主催の闘技大会にAランクの魔物が出れば問題になるわよ。マルスも現場にいたから」

 

「お父様も?」

 

 フィオナが少しだけ驚く。

 

「ええ。ユウトさんが神話魔法を使ったのだって知ってるわよ。まあ、これに関しては緘口令が敷かれたから、これ以上広まることはないでしょうけど」

 

「どうしてですか?」

 

「王様の配慮よ。神話魔法を使えるのが学院にいるなんて知られたら、それだけで注目の的だから」

 

 あの歳で独自詠唱の……しかも紛うこと無き神話魔法を使うなんて、規格外にもほどがある。

 過去に優斗と同じことをやっているのは歴史上、確認されているだけでは一人だけ。

 これだけで優斗の異常性が分かる。

 さらにその他もろもろ、大きな事情があるがここで話すことでもないだろう。

 

「確かにそうですね」

 

 納得したように頷くフィオナ。

 

「ふふっ、ユウトさんが魔物を倒した後のことでマルスが驚いていたわよ」

 

 貴族の一人として観戦をしていた旦那が驚愕していた。

 

「フィオナったらユウトさんに近付いて、服を握りしめたんですって?」

 

「……ど、どうしてそれを?」

 

 いきなりの話題にフィオナは顔を僅かに赤くにする。

 先ほどより時間が経った今から思い返せば、大それたことをやってしまったと自覚できる。

 

「ガラガラの観客席に残ってるだけでも目立つのに、そこにユウトさんが歩いていけば余計に注目されるわよね。しかも全員の視線が集まった瞬間にあなたが近付けば完璧よ」

 

 数少ない人数とはいえ、現場にいたほとんどがフィオナ達の光景を目にしたといっても過言ではない。

 

「……ぁぅ……」

 

「物語のワンシーンだった、と言ってたのはマルスだけどね」

 

 まるで御伽噺のようだ、と。

 旦那はそう語っていた。

 

「今度、機会があればユウトさんと酒でも酌み交わそうと思ってるみたいだから、都合が合ったら呼んでね」

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