20 幕。


 春になると、私は高校生になった。


「登美、アンタの中学ってさ、廃校なんだって?」

「イマドキそんなんあんの!? どんだけ田舎だっつーの!」

「……うっせぇなぁ、隣町だって大して変わんねぇんだよ!」


 高校のクラスメイトもウザイ。

休み時間になるとイチイチ絡んで来るし、大体クラスの人数多いんだよ。

30人って何? 顔と名前、覚えらんねぇっての。


「一緒にすんなっての~淫乱中学、駆け落ち学級ぅ」

「ハァ? 何それ?」


 クラスメイトは7人だった。幼稚園から中学3年まで、たった7人。


「登美だけハブって、他の子ら駆け落ちしちゃったんでしょぉ?

 皆、噂してるけど、実際どぉなの?

 本気で駆け落ちとか、昼ドラみたいな事しちゃうヤツらだった?」

「6人揃って消えるとか計画的だよねぇ。登美も連れてって貰えば良かったのにぃ~」

「ってか、廃校、お化けでるんじゃん? 今の内に肝試ししとく?」


 私に絡んで来るのは、この手の話がしたいからだ。

ホントの所はどうなのか、誘拐か、集団家出か駆け落ちか、

私がこの高校に進学すると、そんな噂が一気に広まった。


(ホントの事 言ったって信じねぇよ、バぁカ)


 皆、殺された。あっちの真っ暗な世界で。


「勝手に言ってれば?」


 何も話したくない。学校にもいたくない。もう帰る。


「登美ってホントつまんなぁい!」

「そんなんだからハブられんだよぉ!」

「イイんじゃない? あれがイケてるって本人思ってんだろーし?

 あんなんで愛想良くされてもキショイっしょ?」


 元々 人付き合いは得意じゃないんだ。

だからって1人でいたいワケじゃないけど、でも、我慢してまで仲良くしたくない。

嫌なもんは嫌だから。


 弓絵チャンみたいに、あっちこっちに気ぃ使って笑顔ふりまくのもウザイ。

西原みたいに、気合だけで何でもこなそうとする暑苦しいのもウザイ。

理恵みたいに、イイ女ぶって気取ってんのも見ててウザイ。

亜希子みたいに、内気キャラぶってアザトイのもウザイ。

俊典みたいに、趣味が合うからって馴れ馴れしくされんのもウザイ。


 だけど、我慢しないで一緒にいられた。


 弓絵チャンはいつも笑顔で接してくれて、困った時は いつも助けてくれた。

西原は仲間に入れてくれて、それが当たり前って顔して違和感なく居場所を作ってくれた。

理恵は新しい事を沢山教えてくれて、遊びもオシャレも楽しくしてくれた。

亜希子は私のやる事なす事全部に興味を持って、褒めてくれない日は無かった。

俊典は いつもゲームの相手してくれて、先生に怒られてくれも懲りずに遊ぼうって誘ってくれた。


(高野クン……)


 彼は、キレイな人だった。

優しくて、静かで、押しつけがましくなくて、

それでいて考えをシッカリ持ってて、いつも私達の気持ちを尊重してくれて、

私達が仲良く過ごせていたのは、高野クンが見守ってくれてたからだ。


(好きだった……)


 見ているだけで幸せだった。

彼が私以外の子を好きでも、彼が学校に来る度に1日が充実した。


「ハァ。どぉでもイイわ、そんな事」


 帰り道、チャリこいで、ジジババばっかりの友達のいない町に帰る。

だから、いつも皆の事を思い出して、途中に見える廃校になった母校を見て、あの日の事を思い出す。


(真っ赤……)


 焼却炉の炎。

スゴく赤くて血ぃみたいだって思った。


(あっちの世界って閉じた後はどぉなってんだろ? 3人はまだ生きてんのかな?)


 真っ暗な校舎の中に閉じ込められた、高野クンと弓絵チャンと西原。

ってか、あれから何ヶ月 経ったよ? あそこで生きるとか絶対無理。


(最期に残ったのは誰かな? やっぱ、弓絵チャンかな?

 高野クンも西原も、弓絵チャンの事 守って死んでそ)


 閉まったままの錆びた校門の前に立ち寄って殺風景な校舎を眺める。

6人がいなくなって、この田舎町は大騒ぎになって、学校どころじゃなくなった。

私は自宅待機で事情聴取の毎日。

マスコミにインタビュー何かもされたけど、何処を探しても見つからないもんだから、

結局6人は失踪者として処理された。

騒ぎが収まって学校へ行っても1人だし、卒業制作はそれこそ意味が無いと思ったから そのままにした。不完全のまま、何れ校舎ごと取り壊される。



「早く壊れろ」



 1人ぼっちの卒業式。先生達の暗い顔。飾られた6人の写真。



「全部、忘れるから」



 私は悪くない。だって、ああするしか無かった。

確かに、私がちゃんと片付けなかった所為で あんな事になったけど、

理恵があんな事をやろぉ何て言い出さなけりゃ良かったんだ。



『何それっ、面白がってたクセに……』



 半信半疑で面白がってたのは理恵の方だ。信じてたら やらなかっただろって。

ミスれば悪霊に呪い殺されるんだから。



『ちゃんと捨てたよねっ? おまじないの時に使った紙!』



 もっとマジメな話って分かってりゃ私だってちゃんと片付けた。

理恵も亜希子もビビッたってだけで迷信を信じたからじゃない。

だから私も そこまで真に受けなかったんだ。



『鍵を始末したと同時に この空間が閉じるんだぜ? 取り残されたヤツはどうなる?』



 運が悪かったんでしょ?

西原だって私と同じ立場になったら同じ事するよ。

あの時、運良く紙切れが見つかったとして、それを私が向こうに持ち帰ったとしてさ、

それでどーなんの?

焼却炉で燃やされなくて良かったってだけの話じゃん。


 4人で飛べなかったら?

飛べたとして、次はいつこっちに戻って来られるかも分かんない。

その間に1人ずつ殺されるに決まってんじゃん。バカでも解かるよ、そんな事。


「だから私は悪くない」


 可哀想だとは思うよ、あんなトコであんな風に殺されたんだから。それは同情するよ。

でも、私にはどうにも出来ない事だったんだから、どぉしよぉもないって。

折角 戻れた私まで無駄死にする必要ない。


「てか、もぉ来ないから」


 嘆いたって、失ったものは戻って来ない。

あんな所で殺されなくて良かったって、私は納得してるんだ。


 家に続く帰り道。ジジババばっかの帰り道。友達はイナイ。


「うぅ、」


 悲しく何か無い。私だけでも助かって良かった。

皆殺しにされるより、ずっとマシ。


「うあぅぅ、あぁっ、」


 涙なんか風に吹き飛ばされろ。



 ズン!!



 揺れた。



 ドサ!!



「イタ!」



 暗い。


「何、ここ、学校?」


 通い始めたばかりの高校の校舎。でも、光も届かない真っ暗な校舎。


「ウソ、でしょ?」


 スマホのディスプレイは13時50分で停止。秒針が動いてない。



 バタバタバタバタ!!

 キャハハハハハハ!!

 バタバタバタバタ!!

 アハハハハハハハ!!



「誰かが私の名前、書いた……」



 暗闇は何処にでも現れる。



*



 3日前。


「我が校の七不思議その1。こっそり流行ってるらしぃ両想いのおまじない!」

「授業サボっておまじないって、乙女か、オメェは」

「3人必要なんだって。物は試しで付き合えよ!」

「俺、好きな子とかいねぇけど?」

「クラスの適当な女子の名前書いときゃイイんだよ。告白しなきゃ成就しねぇってから」

「俺が決めてやんよ。えーっと、出席番号15番」

「15番、誰だぁ?」

「久松じゃん! 書け書け、久松登美って!」

「マジかよ。よりにもよってか」

「イイじゃんか。どーせ迷信なんだし」

「終ったら三等分に切っから、3日以内に燃やせよ~悪霊に呪い殺されっからぁ」

「怖ぇ怖ぇ。ってか、面倒クセぇな、ソレ」

「覚えてたらな~」


「でもさ、知ってるか? マジナイって【呪い】って書くんだぜ?」





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ことどむすび 坂戸樹水 @Kimi-Sakato

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