13

 瞬間移動は3人では成立してしまう。

手を繋ぐ人数が減れば減る程、回避できなくなると言う事だ。

ならば、今 生き残っている4人ではどうかと言う問題。

否、今も義也と彗が無事でいると言う確証は無い。


「お願い……協力して……これ以上失えば、誰も生きて帰れないっ、うぅぅ……」


 恐怖に怯える気持ちは良く解かる。

然し、『自分さえ』では自分すらも守れないのだと、弓絵は登美に気づいて欲しい。

ここでは疑って争うよりも前に、守り合わなくてはならなかったのだ。

何よりも、自分自身が生きて元の世界に戻る為にも。


「分かってるよ……」


 自信は無さそうだが、どうあるべきかは理解できただろう。

弓絵は立ち上がり、痛む肩を押さえながら登美に向き直る。


「義也はきっと彗君と一緒にいる筈。義也は彗君の為にも保健室に戻ろうとする。

 だから私達も」

「うん……」

「でも、その前に教えて。何があったの? 心当たりがあるなら教えて」

「!」


 何故こんな事態に陥ったのか、切欠・原因・いつもとは違う何か。

登美と理恵は心当たりがあるからこそ、言い争っていたのだ。弓絵はそれが知りたい。

それが解かれば、この暗闇校舎から脱出できるかも知れない。

涙交じりの弓絵の問いに、登美は観念を決めて頷く。


「理恵が、両想いになるおまじないがあるって、声をかけて来て……」



『おまじないには3人必要なの』

『バカバカしい。そんなの迷信じゃん?』

『付き合ってくれたってイイでしょ? 亜希子もさ』

『参加したら、私も両想いになれるかなぁ?』

『やるだけやってみようよ、願かけだと思ってさ!』



「信じて無かったけど、面白そうだったし、卒業制作ウザかったし……

 だから、3人で空き教室に集まったんだ……」


 登美は放課後の卒業制作に専らサボリ癖を発揮している。

然し、数日前のある日には、理恵と亜希子も一緒になって顔を出さなかったのを弓絵は覚えている。その日に3人は、両想いになるまじないと言うのに挑戦していたのだろう。


「おまじないって言っても良くあるヤツで、守護霊とか天使とか呼び出すみたいなの……

 そんな感じので、どうせ冷やかし何だしって思ったら、後始末も面倒臭く感じて……」

「後始末?」

「おまじないに使った紙を三等分に切って、夫々家に持ち帰って、3日以内に燃やす……」

「3日目……もしかして、それが今日の16時だったの?」

「!」


 卒業制作が面倒だったとは言え、真面目に取り組む弓絵を気しない事は無かった。

3人は度々時間を確認し、まじないを終えたら作業に戻ろうと話していたのを思い出す。

そして、まじないを終えた時、登美が見上げた時計の針は丁度16時を指していた。



「16時、だった……」



 登美の中で全てが一致。

その日から数えて3日目の16時に暗闇校舎への扉が開かれたのだ。

こんな偶然があるだろうか、登美は体を震わせてその場に座り込む。


「そ、そんな……だって、あんなの、ただの、噂で……」

「約束通り、燃やしたの?」


 理恵が何度も聞いていた事だ。登美は肩を竦めて顔を伏せる。


「し、信じてなかったけど、あんなの……

 でも、何か不気味だし、気持ち悪いから、家には持って帰りたく無くて……

 燃すなら家じゃなくてもイイと思って、学校の焼却炉に……」

「焼却炉……」

「焼却炉なら、先生がやってくれるから!」

「登美チャン、先生が焼却炉でゴミを燃やすのは、明日だよ……」


 教師は週末にのみ、焼却炉に点火する。

そんな事は登美にも分かっていただろうに、『燃やせば良い』と高を括っていたからこそ、

日にちについては二の次にしてしまったのだ。

今更ながら、今日が3日目で、明日では遅い事に気づく。


「だって、1日ぐらい……」


 登美の呼吸は次第に荒くなる。

本当に自分の過失でこんな事態を招いたとなれば、その罪は重い。

登美1人の背に負いきれるものでは無い。頭を振って必死に弁明を見つける。


「で、でも待ってよっ、やっぱ違うと思う! だって、理恵が言ってた!

 罰が下って悪霊が殺すのは、おまじないの関係者だけだって、、弓絵チャンは関係ない!」

「それなら義也と彗君だって関係ないじゃないの!」

「そ、それは……書いたから、紙に……

 俊典だけじゃくて、高野クンと西原の名前も……

 だからッ、アレが原因だってなら、弓絵チャンがここにいるのは可笑しいんだよ!」


 まじないに参加した登美・理恵・亜希子と、名前を書かれた、義也・彗・俊典。

この6人が関係者全員なのであって、弓絵は蚊帳の外なのだ。

この暗闇校舎が悪霊の仕業と仮定する事は出来ないと、登美は強く訴える。

だが、イレギュラーが発生しないとも限らない。

関係者6人と一緒にいたからこそ、弓絵が巻き込まれたと言う極自然な流れは否定できないだろう。


(何が原因か何て、決定づける事は出来ない……でも、1つの可能性ではある。

 登美チャンが焼却炉に捨てたおまじないの切れ端……

 まだ燃やされずに残ってるだろう、それを燃やせば、もしかしたら……)


「燃やそう。今からでも、その紙を。それで違ったなら、また他の何かを考えよ……」

「どうやって!? ここは向こうと何もかも同じだけど、焼却炉は外なんだよ!?」

「元の世界に戻れば外に出られる筈……戻って、1時間以内に燃やす……」

「いつ戻れるか分からないのに!? それまでどうすんの!?」

「それまで、生き延びるの……」


 無理難題。登美は天を仰ぐ様に首を寝かす。

然し、暗闇校舎からでは外にある焼却炉に向かえない以上、元の世界に戻ってからの機を狙う他無い。


(やるしかない……やるしかないんだ!)


「義也達と合流して、ちゃんと説明しよう。これからの事を」

「うん……」



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