神様はじまりました。

たん

神様はじまりました。




 僕は昨日、神様になった。何でオレが選ばれたか、理由は分からない。



「おい、君」


 学校帰りに変なおっさんに呼び止められた。何やコイツ思ってたけど、まぁこのまま付いてきても困るなと思って、一応相手した。


「何やおっちゃん。オレ急いでんねんけど」


 そしたら、おっさんは物凄い真剣な顔で言い放った。


「君な…神様ならへんか?」


 …は?



 話によると、そのおっさんは神様をやってるらしく、国狭槌尊(『くにさつちのみこと』と読むらしい)の第825代目らしい。2,30年くらい神様をやってきたらしいが、神様というのは消耗が激しいらしく、これ以上続けるのは厳しいと。そういうわけで後継を探していたところ、目が死んでいて、見た目ちょーヤンキーで、生きる希望が無さそうなオレに声を掛けたらしい。


「いや絶対ウソやん」


 一蹴。いや、それ以外に選択肢無いやろこれ。何やねん、くにさつちのみことって。一文字も知ってる部分無いわ。


「いやググれや。今時の若者やったらスマホぐらい持ってるやろ。これ書いてる端末もスマホやんけ」


 メタ発言やめろやおっさん。あとナレーション読むな。読者混乱するわ。



 そのあと色々とゴタゴタがあって、何やかんやで一週間のお試し期間が設けられることになった。いや要らんし。神様のお試し期間って何やねん。シュールな世界観も大概にしとけや。


「…まぁでも、言うて本物っぽかったしなぁ。使うだけ使ってみるか」


 とかボヤいてみる。そう、「あのあとのゴタゴタ」とは、自称神様の能力お披露目パーティーだった。



「見とけよ?……ハイヤー!」

「うおぅ。急に何やおっちゃん、気ぃでも狂ったん…あ、すげぇ、ハンカチ浮いてる」


 突如と始まったおっさんのお披露目パーティー。その奇っ怪な現状は、割と現実味を帯びていた。が、しかし。


「次は……ふんぬぁ!どうや!乾電池無くてもラジコン動いたやろ!」


 何か……。


「ノってきたでぇ!じゃあ……どるぅぁ!ほら!あのレジ袋消えたで!」


 何か……。


「よっしゃ!どんどん行こう!次は触らんとあの葉っぱ散らし」

「いやショボいねん!!!」


 思わずツッコミをいれてしまった。


「いや、おっさんショボいねん!神様やったら家とか浮かせや!乾電池程度の自家発電やったら文明の益で人間にも出来んのじゃ!あとなに!?触らんで葉っぱ散らすぅ!?あの今にも落ちそうなカラカラの葉っぱを!?数十秒くらい力んどったら勝手に落ちるわあんなもん!枯れ草やんけ!総じてショボいねんホンマ!!」


 言いたいことを全部言った気がする。だいぶ息が荒い。大きく深呼吸をして肺を落ち着かせる。いやでも、ゆーてホンマに大したことなかった。何かちょっと頭使ったら出来るようなカラクリばっかりで、一瞬だけでも期待した自分をボコボコにしたいと思った。けど、


「……正直に言うてみ」

「あん?何がやねん」

「レジ袋はちょっとビビったやろ」

「……あれはビビった」


 これを機転にあれよあれよと言いくるめられ、結局お試し期間へとフェイズを移してしまったのだった。



「…………マジかこれ」


 そんなオレだったが、一時的に与えられた神様の力に驚愕していた。


「全くもって乾電池程度ちゃうやん…。電柱黒こげの消し炭やん…」


 いや、驚愕というより正直引いていた。


「えぇ…何これ、全然思ってたんと違う…。昨日のおっさんがやってたやつ、ホンマに日常に活かせる便利機能レベルやったやん…。あのおっさん才能無さすぎやろ…」


 怖かった。オレのような一辺倒に普遍的な人間が、こんな力を持っていて良いのか。御し難い超能力によって、誰かを傷付けはしないか。そもそも、オレの身体はこの力に耐えきれるだけの丈夫さがあるのか。


「…ま、考えとってもしゃーないな。習うより慣れろってやつや」


 楽観主義者はヤバい。強烈に感じた一抹の不安でさえ、バイバイと手を降って見送ることが出来る。我ながらアホじゃないかと疑った。


「ん?オレ…アホやったな」


 うん、そういえばアホやった。



 一週間後。こないだの公園にオレはポツンと立っていた。


 文句を言って、この力を突き返すためだ。


「……と思っててんけど」


 全然来ない。そりゃもう、ひゅるるると風が吹き曝して、草だるまが転がり、閑古鳥が鳴くかのように。


「あのおっさん…ホンマ大概にしとけよ…」


 誰だってこの状況を理解できる。いわばオレは、あのおっさんに騙されたのだ。いや、騙されたというには少し誤りがあるか。


「ちゃう!今はそんなんちゃうねん…。何処やおっさぁぁぁぁぁん!!!」


 ありったけの神通力を使っておっさんを探す。ナメんなよおっさん、与え逃げなんか出来ると思うなよ。


「オレは……神やぞぉぉぉぉぉ!!!」


 後から聞いた話、近所から通報が入っていたらしい。お騒がせして申し訳ない。



「うぉいこらおっさ…!」


 おっさんの所在地を特定し、現場に音速で急行。結果、1分/kmという驚異の世界新記録を叩き出してしまった。これも神様の御業ということなのだろうか。


 いや、そんなことは今はどうでもいい。問題は、この場所である。おっさんの所在地を特定し、音速で急行した現場。それは、


「火葬場…?」


 おっさんは、一週間前の今日の深夜、眠るように息を引き取ったそうだ。



「それであんなに必死に……」


 どんよりした気分で自宅に帰ったオレは、おっさんの意図を汲むことが出来なかった自分を悔やんでいた。おっさんは、自分が死ぬことを分かっていたから。使い方によるが、こんな希望の力を、生きる気力も無いようなオレに託してくれたのだ。


「何や知らんけど…頑張って生きなアカンな」


 両頬にバチーンっと一発。気合いを入れ直したところで、オレは大声で叫ぶ。


「見とけよおっさん!立派に神様やったんぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

「たかし!!!!!うるさいで!!!!!」

「ひっ…!」


 オレの戦意は一気に消し飛んだ。言い忘れていたが、オレの名前は「たかし」である。やめろ、笑うな。



「とはゆーてみたものの…」


 神様やったる宣言を提示したオレだったが、肝心の「神様の仕事」の内容を、オレはおっさんから聞いていなかった。


「何も言わんとポックリ逝きよったしなホンマに…。そういうの言うとけや」

「今から言うやないか」


 ゾクリッ


「どぉうわぁぁぁぁ!!!え!?お、お、お、お、おっさん!?お前死んだんちゃうん!?」

「アホかお前。今の自分の立場考えてみーや。お前、どんだけ偉いと思う?自分のこと、平社員より課長より部長より人事より役員より副社より社長よりビル・ゲイツより偉い何やと思ってる?」

「あっ…」


 そう、今のオレは神様。何故ビル・ゲイツを引き合いに出してきたかは定かでないが、今のオレは神様なのだ。


「死んだ人が…見える…!?」

「大正解」


 おっさんは静かに答える。な、なんか雰囲気ちゃうな、とか思うが、話の本筋を思い出してそれを問う。


「そ、そうやおっさん!今から言うってさっき言うてたけど…」

「ん?あー、あれな。まぁ習うより慣れろや」

「え?」


 それだけ言うと、おっさんは突如として何もない空間から死にかけのおっさん(type2)を産み出した。


「……えーと」

「助けろ」

「どないして!?」


 おっさんはそれ以降は黙ったままだった。死んでもこの理不尽さは治らんらしい。勘弁してくれホンマに。


「えー……じ、じゃあ…」


 といってオレはおっさん(type2)に歩み寄る。


「どないしたん?」

「めし」


 頭はたいて弁当あげたら帰っていった。


「……なぁ」

「こういうことや」

「さいですか」


 何か無性にやっていけそうな気がしてきた。





「何してんねんボケェ!その資材はこっちや言うたやろ!何べん言わすんじゃあ!」

「ひっ…!すいま」

「まぁまぁ、そんな怒らんと」

「お…おう…。それもそやな。悪かった」

「い、い、いえ!こちらこそすいません!」


 オレの活動はだいたいこんな感じに落ち着いた。喧嘩を見付けたら両成敗する。過度ないびりを見付けたらやめさせる。困ってる人がいたら助ける。神様だから、飲まず食わず寝ず動かずでも生きていける。この分、普通の人間の生活をする必要が無くなったのだ。


「まぁオレが関わったら大概解決するし、困ることもないしなー」


 独り言を謳いながらオレは空を翔る。困り人を探して生きている。そんなこの生活は、それなりに楽しかったりする。そして、


「……神様やって、良かったな」

「それ、今だけやで」

「うぉい沸いて出てくんなやおっさん。あと水差すなし」


 時々おっさんも、オレを見に来たりする。
















「何か…ええ感じで終わったな」

「ええやん」


 飽きない日々は、到底やみそうにない。

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