シナプス

森羅万象、この世の全ての物には終わりという結末がある。


物は壊れ、雨は止み、命は尽きる。そして物は作られ雨が降り、命は誕生する。


そう、これは一片たりとも犯されることはない自然の摂理。故に彼は晩夏の月夜を見つめこう呟くのだ。また明日、と。



代わり映えのしない日常は退屈だろうか。不満だろうか。それとも平和なのだろうか。


変わり映え、というか色映えしなくなり、或る意味変わり映えった僕の世界は白と黒で構成されていた。


そんな僕の部屋は白黒でも分かる、綺麗にベッドメイクされた見間違いのない僕のベッド、傷ひとつ無い綺麗に整頓された机、そして...合った、僕の宝物。物心ついた時からの親友であり僕の彼女、咲希の写真。


気持ち悪いと思われるかもしれないが毎日綺麗に拭いていたその写真はその輝きを失うことなく、このモノクロ世界で唯一色を持っていた。


安堵とこの状況を整理するために深く深呼吸する。脳に酸素が行き渡り、再度部屋を見渡してみる。


すると気づくことがあった。1つにこの部屋が新品同然であるということ。2つにこの部屋から出られない、ということだった。


少し危機感と恐怖を覚えた僕は人1人入る程度の小窓がこの部屋にあることを思い出し開けようと思ったがこれもまた何故か開かない。

窓を割るか?そう思ったが、まだ少しこのモノクロ世界に興味がある自分が居るのを理解し、最後の手段として取っておくことにした。



さてどうしたものか。 ため息を吐き、考えた結果、色々と部屋を探索してみることにした。


まずは本棚。僕の好きな漫画、咲希の好きな音楽、僕の好きなアニメのフィギュア、咲希の好きなラノベ。

そういえばこの部屋は2人の好きな物で作られてたんだな。


それにしてもなぜ僕はこんなにも僕のことを知らないんだ?


背中をなぞる刹那の悪寒から逃げるように目線をずらすと、小難しい医学の専門書があった。


そういえば僕って医者になろうとしてたんだったっけな......あはは......。


気づいては行けない何かがそこにはあった。その何かに触れないように慎重に部屋を探索していく。


次に見たのは机。置かれたカレンダーに書かれていた8月22日には赤丸がついていた。

そう、この日は咲希の誕生日......咲希の誕生日だった。


その瞬間、背後で光が瞬いた。

はっとして見返すと、それは煌びやかに装飾されたプレゼント箱が色を持ちそこに置かれてあった。


高鳴る鼓動と震える手を抑えプレゼントを確認していく。リボンの擦れる音と徐々に軽くなっていく指先の感覚を確かに感じながら現れた物は....白衣であった。


思い出した。

この部屋は僕の宝箱だった。


理解した。

このまるで過去のような部屋と渡せてないプレゼント、先程の医学書。


もう分かった。

言わなくてもいいだろう?

分かりたくもないだろう?


耐えられない事実に身を震わせて僕は窓を破った。



「何がまた明日だよ」

割れた窓から見える晩夏の月夜は星々が煌めいていて、それが実に厭なもので。

どうせなら雨にしてくれよ、

と空に呟いた。

ただ独りの男がそこにはいた。

見上げた眼から白衣を赤く染める。

ただ、独りの男だけがいた。













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