失明

 見て見ぬふり。昔からしてきたことだ。みんなしてきたことだ。

…例えば目の前のドアを開ければイジメ現場に遭遇するように。そしてそれをわかっているからこそこのドアは開けてはいけない、というように。


 これはしょうがない。これが弱肉強食だ。スクールカーストが学生の、クラスのすべてだ。これが社会。これが集団生活。イジメられている人間には悪いが、そのままヘイトを稼いでもらいたいものだ。…まだ見ぬイジメられ人よ。さようなら。


 そんなことをしてたらいつの間にか大人になってしまった。それでもなお見て見ぬふりをすればゆるりと生きていける。これが社会なんだ。これが弱者の戦い方だ。

そのまま上司の監視の目を向けてもらおう。さようなら、名前の知らない同期よ。


 そんなことをしていたらある日目が見えなくなっていた。どうしたものか。意外と驚きもなく、まあ自然の摂理だろ、と納得していた。


 失明してから数週間。横断歩道を渡っているときだった。周りには杖を持った中年男性と同じくらいの人間が数名。


信号は赤。しかしピポ、パポ、となる横断歩道。


歩き始める盲人"たち"。


誰も止めはしない。


だって全員いじめられたことがあるから。


だって全員それから見て見ぬふりをしてきたのだから。


だって全員、盲目なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る