証と意味は紙一重

 生きた証が欲しい。彼女はいつもそう言う。写真や記しなど、ことあるごとに彼女は自分のノートにページを刻んでいく。誰にも忘れられないように。


 生きる意味が欲しい。僕はいつもそう言う。人並み以上に不幸な僕の人生は常に僕にそう思わせる。生きるのも悪くない、と思いたいように。


 だから僕らは互いが互いを利用する関係。互いが互いを補う関係を理由に付き合っている。ただの心の隅を埋める"道具"として。


 今日、彼女は本を書いていた。タイトルは"自己顕示欲"だそうだ。自己顕示欲を抑えすぎたために死んでしまうと、簡単に言うとこんな感じのお話。おそらく自分の生きた証を正当化しているのだろう。

 かく言う僕は今日、彼女と来週デートすることを約束した。よかった。これでひとまず来週までは生きる意味がある。ただ、そのあと。来週が終わったらどうなるのだろう。怖い。怖い。そんなことをいやでも考えてしまう自分が、情けない。

 

 こんなように僕らは今という時間を生きている。こんなように僕らは二人で生きている。こんなように僕らは寂しく死んだように、生きている。


 そんなある日彼女が死んだ。彼女の最後の言葉は"私の分まで生きて"だった。

突然のことで何がどうなっているのかわからなかった。だが彼女の生きた証は僕が持っている、というのは確かだった。 

 

 生きた証、それは生きるために必要だったのか。それは僕より大事だったのか。

互いが互いを利用する関係。互いが互いを補う関係で付き合っていた僕ら。  

彼女の分まで生きる、という意味を貰った僕はだれのために生きればいいのだろう。

 

人は一人で生きれない。全くその通りだな。

そんなことを考えながら僕は縄に首をあてがえた。 


 

 

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