移り行くは感情。変わりゆくは町の風景。

 私が生まれた場所はかなりの田舎だった。コンビニなんて洒落たものはなく、あっても精々無人野菜販売所くらい、という何とも言えないのどかな村だった。

 小中高すべて同じ校舎。学年は違うのにいつも同じ教室にいる先輩。時間がたつにつれて髭の増えていく校長先生。そのすべてが私を構成するもので、そのすべてが私の世界であった。

 小さな田舎村一つでも住めば都と言うように好きなところは幾らでも挙げられる。

いや、挙げられた。

 

 19で上京してから家族とも疎遠になり、徐々に田舎に対するイメージは悪くなっていった。いつからだろう。田舎を馬鹿にし始めたのは。田舎を知っていたからこそ余計馬鹿にする要素は多かった。同じ校舎、無人野菜販売所。その他もろもろ。

 そんなある日、大きなプロジェクトが立案された。限界集落をテーマパークにする。というもの。はじめは反対意見が多かったが候補となる場所の立地の良さに皆プラスイメージを持ち始めた。そこからプロジェクト始動までのスパンは短かった。

私がそのプロジェクトの概要を見て驚いたのはプロジェクトが開始されたからのことだった。

 

 そして今私は私の故郷を壊したことを実感している。あの甘くおいしかった野菜販売所は撤去され、あの優しかった校長先生のいる学校は取り壊し再利用され、コンビニが参入した。田舎の良さはどこかへ消えていった。偽物の風に流されていく街の憧憬は小さかった私の記憶すらも流されてしまうな気がして、吐き気がした。


 さよなら愛した故郷。さよなら愛さなければならない新しいテーマパーク。


好きになり、嫌いになり、悲しさを覚えるこの感情はどこにぶつければいいのだろう。


こんな感情さえもいつかは移り行くのかと思うと両目から涙があふれた。





 

 


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