新たな精霊登場!! その名も・・・
村から三十分ほど北東に向かって林の中を歩くと、目的地である池が見えてきた。
「いや、池っていうか・・・これは湖だろ」
辿り着いた京也は池の淵まで近づき、驚きを隠せず口をぽかんと開けたままつぶやいた。
池というから、農場用のため池みたいなものを想像していた京也だったが、目の前に広がっていたのは、広大な湖だった。
向こう岸は霞んでおり、うっすらと山が見える。左右は木々に覆われた斜面になっており、ここが一段下がった土地であることが分かる。
「水もずいぶん綺麗だな」
しゃがんで池の水を抔うと、川の水ほどではないがかなりの透明度があった。
水際には小さなタニシのような貝や、カニの姿も見ることができる。
「それは当然でしょう。この池の精霊さんは古くからここを管理する古株ですから」
「池の精霊?それって・・・」
「なにか文句がありますの?」
嫌な予感とともに顔をあげると、数メートル先の水面から声をかけられる。
声の方を見ると、青いウェーブがかかったロングヘアーに、真っ白なシンプルドレスを着た、ややきつい顔だちの風子達と同じサイズの精霊が居た。
「お疲れ様です。何か問題はありませんか?」
「ありませんわ、あればとっくに貴方に言っていますの」
「それもそうですね」
「知り合いか?」
親しげに声をかけたソウに聞くと「ここの土地精霊なんですから知ってて当然じゃないですか」と呆れた顔で言われて、それもそうかと納得する。
「貴方、私達が見える上、話しまで出来ますのね・・・」
「そうですよ! 京也さんはすごいんです!」
「なぜお前(貴方)が威張るんだ(んですの)」
腰に腕をあて、ふんぞり返る風子に呆れた表情をした京也と池の精霊の言葉がシンクロする。
一瞬顔を見合わせた二人だったが、池の精霊がすぐにプイッと顔をそらす。
「そ、それなら自己紹介くらいしてあげますわ! 私はこの池の精霊。覚えておくと良いですわ!」
腕を組んでそっぽ向きながら自己紹介する池の精霊に「また変わった精霊が出てきた」と京也は頭を抱える。
「はー・・・俺は橘京也だ。それで、お前は名前はあるのか?」
「精霊に向かってお前とは失礼な人間ですわね!?」
「あーはいはい、すいません。池の精霊様にお名前はあるんですか・・・」
「・・・・」
怒りをあらわにする池の精霊に、言い返すより従った方が楽だと考えた京也は、改めて聞きなおすが、再度そっぽ向いた池の精霊は何も答えない。
「ん? 名前無いのか?」
「いいえ、ありますよ」
答えない池の精霊に変わって、ソウが答える。
「そうなのか? なんていうんだ?」
「彼女は・・・」
「ちょ! ちょっとソウさん!?」
慌てた池の精霊がソウの発言を止めようと口を挟むが一歩遅く、ソウは池の精霊の名前を口にする。
「ひょうたんさんです」
「・・・・・、は? なんて?」
「だからひょうたんさんですと言っています」
「っっ!!」
突拍子の無い名前に京也が呆けていると、池の精霊改め、ひょうたんさんが顔を真っ赤にして顔を両手で覆い隠す。
「な、なんでひょうたんなんだ?」
「それはですね・・・」
「上から見ると分かると思います!」
「上から?」
空を指差す風子とソウをちらりと見てから改めて池を見渡す。
京也の立っている場所から左右に円を書くように斜面が広がり、一度凹んでさらに奥にはまた水面が広がっている。凹んでいる先はどんな形か分からないがおそらく・・・
「あ、なるほど。ひょうたん型だからひょうたん池ってわけか」
「好きでこんな名前じゃありませんわ!! かってに人間がつけたのですわ!!」
なっとくして手を打った京也にひょうたんは掴みかかる。
「そもそも精霊に名前など必要な無いのですわ!!」
どこからそんな力が出ているか分からない強い力で襟首を掴み、京也を揺ガクガクらすひょうたん。ってなんか呼んでて可愛そうになる・・・
「わかった! わかったから! 別の名前で呼ぶから!?」
ぐらぐら揺らされながら京也は呼び方を考える。
「そ、それじゃあ瓢子とか?」
「「「安直です(ね)(わ!!)」」」
三人の精霊のシンクロした声と共にさらに京也を揺らす手が早くなる。
「だ、だめか? それじゃあ・・・」
女性の名前など考えたことも無い京也の少ないレパートリーから、出来るだけ女性らしい名前を考える。子がダメなら・・・
「
「ヒョウカ・・・」
「あんまり変わらない気もしますが・・・」
「京也さんネーミングセンスありませんからね・・・」
安直に風子と名づけられたことをいまだ少し根に持つ精霊と、地名そのままに呼ばれる精霊がジト目で見るが、名づけられた本人は先ほどまで揺らしていた手を止めて自分の呼び名を繰り返す。
「ヒョウカ・・・に、人間がつけたにしてはまだマシな名前ですわね」
「意外と気に入ったみたいですね」
「ひょうたんさんは案外単純ですね!」
「その名で呼ぶなですわ。アホの精霊・・・」
「ひどい!? 私は風の精霊の風子です!! だいたい・・・」
平常心を取り戻したヒョウカが睨みつけながらはき捨てると、すぐさまそれに風子が突っかかる。
言い合いを初めた二人を横目に、京也は先ほどまで振りまわされていた気持ち悪さを直すために池の水で顔を洗う。
「はぁー、ほんとに精霊にはろくな奴が居ない・・・」
「私を含めないでください」
「・・・」
ソウも含めていた京也だったが、ここでツッコんでも藪蛇にしかならないので、あえて黙っていることにした。
「さ、さあ、とっとと水汲んでもどるか。ヒョウカちょっと水わけてもらうぞ」
「勝手にすると良いですわ。どうせ私には止めることはできませんの」
「どういうことだ?」
ヒョウカ曰く、池の精霊であるヒョウカは池自体や水が溜まることには力を発揮できるが、出て行くことに関しては干渉できないらしい。
池の性質が水が溜まるというものだからだそうだ。
「力にもいろいろ制限があるんだな、意外と不便なもんだ」
京也が持っている水袋程度なら問題ないだろうが、もし大量に水を抜かれる事態になっても、ヒョウカは抵抗することが出来ないということだ。
「精霊とはそういうものですわ。貴方やそこのお気楽な精霊のように自由に生きていられるのかうらやましいですわ」
「お気楽な精霊じゃなくて風の精霊です!!」
再び言い合いを始めた二人を見ながら確かにと京也は納得する。
京也は精霊ではないため別にしたとして、風子とソウやヒョウカは精霊として大きく趣旨が違う。
この土地の精霊である二人は風子のように移動することはできない。
風子にも制限がないわけではないだろうが、二人とは大きく制限の幅が違うだろう。
ここに池が出来たときから、もしくはこの地方が名づけられてからか定かでは無いが、ずっとここに居る。この地方から移動することが出きないまま何十年、何百年といった月日をここで過ごすことになるのだろう。
それは意外と窮屈なのかもしれない。
「それが精霊です」
「そういうもんか・・・」
「はい」
京也の意識を読んだソウが静かにうなずく。ソウにも思うところはあるのかもしれない。
しかしそれは精霊として生まれた以上、どうしようもないことなのだろう。目の前で言い合いする二人の精霊にも思うことはあるのかもしれない。
精霊という存在について考えながら京也は水汲みを再開し、持ってきた水袋をすべて満たした。
「よし、これで最後だな」
水を汲み終えた京也は額の汗を拭う。
一つ一つはたいした量ではないが、ゴミが入らないように気をつけながら水汲みするのは案外神経を使った。
「あー風呂に入りたい」
昨日、埴輪に強制的にこの次元に飛ばされてから、すでに丸一日風呂に入っていない。
一日くらい風呂に入らなくても死ぬことはないだろうが、かなりの距離を歩いて移動した上、慣れない野宿をしたこともあり、体中汗だくで髪は埃だらけだ。
毎日風呂に入るのが習慣付いている日本人には案外きついものがある。
「それではせめて水浴びでもしたらどうですか?」
「ここでか?」
「人間達はたまに行っておりますわ」
「水浴びか・・・」
季節が京也の予想どうりだとすると4月前後の初春、手に触れる水はまだ冷たく、日が出ているとはいえ気温もそれほど高くない。
水浴びはしたいが、この次元で風邪などひいてしまっては、最悪長引いて肺炎などになりかねない。
「是非入りましょう! サービスカットというやつです!」
水浴びの魅力と体調不良のデメリットでせめぎ合い、考え込む京也に風子が鼻息を荒くしてよって来る。
「誰向けのサービスだよ、ってか風邪ひいたらどうするんだ」
「それならヒョウカさんに頼めばなんとかなるのでは?」
「ヒョウカに?」
「はい、この池はヒョウカさんそのものですから。どうですか?」
「当然、出来ないことはありませんわ」
首をかしげて問いかけるソウに、ヒョウカは腕組をしてふんぞり返りながら答える。
「本当か? それならぜひともお願いしたいんだが」
期待の眼差しで京也が見ると、「ん」と言いながらヒョウカが手を広げて突き出す。
「なんなんだ? この手は?」
「決まっていますわ。対価ですの」
つまりお供えを要求しているらしい。
京也はため息をつきながら、残り半分に近づくガムをリュックから出そうとするが、ヒョウカから「そっちではありませんの」と止められてしまう。
「これじゃないって・・・もしかしてこっちか?」
リュックの中にあるもう一つのお供えになりそうなものといえば一つしかない。そう、チョコレートだ。
京也は残り少ないチョコレートの包みを一つ取り出すが、ここで渡してしまって良いものか考える。
「いいではありませんの! 食料は手に入ったのでしょ、一個くら問題ありませんわ!」
勝手に京也の意識を読んだと思われるヒョウカの言うとおり、昨日よりも食料事情は明るくなっている。
ここで一つお供えしてもさほど問題はない。問題はないのだが・・・
「へー、ヒョウカさんにはそれ、あげるんですね」
「えー! 私達は栄養にならないって言ってガムだったのにですか!?」
そう、この二人からの目が面倒なのだ。
一人一個づつ供えたとして3個。残るのは2個。京也は最低残りのチョコレートをこの次元の食べ物との物々交換にするつもりでいた。
自己採取出来ない以上、今京也の財産はこのリュックの中身で全部だ。
その中でもこの時代背景の中で、手軽に交換に出せるものはおそらくチョコレートくらいしかない。
そのことを考えるとここで大量に消費するのは京也にはかなりの痛手であった。
しかし、リスクの無い水浴びも魅力的ではある。
悩んだ末に、京也は一つの案を思いつく。
「そうだ、ヒョウカこの池に魚はいるか?」
「ええいますわ。といってもあまり大きなものはおりませんの」
「水浴びプラスその魚取って良ければこれをお供えする。これでどうだ?」
「んー、いいですわ。その条件飲んであげますの」
「よし、風子、ソウ、お前らにもお供えしてやるから手伝え」
「かまいませんけど、何をするんですか?」
「漁だ」
首をかしげる三人の精霊に向かって、京也は不適な笑みを浮かべた。
※※※ ※※※
水浴びついでに脱いだ服を洗って干した後、下着一枚になり水中へ入った京也は驚きを隠せないでいた。
水の中に入ってすぐは肌寒さを感じたものの、震えるほどの寒さではなく、心地よい冷たさだった。
ヒョウカによれば、水面の温められた水だけを京也の周りに集めているそうだが、京也にはどうやっているのか検討もつかない。
あの後、三人にチョコレートをお供えした京也は、風子とソウに頼んで漁の準備に取り掛かった。
チョコレートの甘さに顔をまで蕩けさせたヒョウカを三人で笑いものにして、ヒョウカがキレるといったこともあったが、それはまた別の話だ。
風子にはあたりに人影がないかどうか見張ってもらい、ソウには近くの林に蔦、蔓類が生えている場所を教えてもらった。
ちょうど良い太さの蔦を見つけ、近くに落ちていた平たい石を使って二メートルくらいに切って、粗く網の目に編む。
四角に編んだ蔦の四方に、長めの指の太さくらいの蔦を結んで網を完成。四方四箇所の蔦の先には太めの蔦を結びつけてる。
完成した網を水中に敷いて浮かないように四方に石を置く。あとは近くの木の枝に網から伸ばした蔦を通して地面に垂らし、大きめの石を結びつけた後、木に登って石を引っ張り上げてから太めの枝の上に乗せて網までの長さを調整して、完成だ。
そして一連の作業を終えた京也は水浴びをかねて水に潜っていた。
池の中は真ん中が窪んでいるようで、徐々に深くなっており円の中心と思われる部分がかなりの深さがあった。
周りを見回すと思ったより魚が泳いでいるのが見える。
さっそく周り魚を網を仕掛けたほうへ誘導しようと追いかける。しかし追われた魚は網を仕掛けた浅瀬へと行かず散り散りに逃げてしまう。
『がんばってください!』
『ぜんぜんダメですわね』
『魚も命がかかってますからね』
精霊達の言葉を無視して 一度水面に上がって息を吸いなおしてから、今度は深めにもぐって魚を追い立てる。
やはり中心はかなりの深さがあり、底までは行けなかったが、底には様々な物が沈んでいるようだった。
その中に明らかに人工物の木製の木の箱が複数個沈んでいるのが目に入り、中身が何かと気にはなったが、目の前を横切った魚を見て本来の目的を思い出し、魚との鬼ごっこを再開する。
そんなことを繰り返しながら魚を追い立てていると、数匹の群れが網のある浅瀬へ向かった。
このチャンスを逃すまいと慎重に追い込み、魚が網に近づいた所を見計らい、
『風子! いまだ!』
『了解です!』
風子には合図があったら枝の上の石を落とすように言ってある。
弱い力の風でも落ちるように石の位置も調節済みだ。
京也の前で先ほど敷いた網が素早く持ち上がる。
「獲れたか!?」
水面に顔を出した京也が引き上げられた網を見るとそこには・・・
「ぷっ」
笑い転げる精霊達と、何も入っていないちぎれた網があった。
それから、意地になった京也が網を修理して同じ仕掛けで二度ほど漁を試みたが、魚が取れることは一度も無かった。あとでソウに聞いた話では、この池は大きな川の支流が流れ込んでおり、魚が多く入り込むため、釣りや漁が定期的行われるらしく、魚の警戒心も強いとのこだった。
「それを早く言え・・・」
泳ぎ疲れた京也は池の辺で大の字で横になりながら、恨めしそうにソウを睨む。
「それを言ったらチョコレートが食べられませんから」
「聞かなかった貴方が悪いんですわ」
苦笑いする風子を除いて、辛辣な言葉をかけながら覗き込んでくる精霊達を見て京也はため息をつく。
「まあ当初の目的として水浴びは出来たからよしとするか」
「あら、意外とあっさりしてますわね」
「ん? まあ魚は取れたらサヤ達の食料の足しになればラッキーくらいのつもりだったし」
「さすが京也さん! お優しい! 『漁だ(キリッ)』とかカッコよく言ってたから、落ち込んでいるかと思い・・・へ? あぁぁぁぁぁぁぁー」
恥ずかしいセリフを思い返してニヤニヤしていた風子を、京也は掴んで彼方へと投げ飛ばす。
目の前で起きた光景にヒョウカが目を丸くしていたが、ソウが特に何も言わないのでそういう物と納得することにしたようで、何も言わなかった。
「しかしこれだけ魚が取れるなら作物や獣がとれなくてもなんとか生活できるんじゃないか?」
もっともな疑問を言う京也に、ソウはため息をつきながら首を横に振る。
「出来ないこと無いでしょうが、この池は彼らにとって精霊の住む清らかな場所として信仰の対象となっていますから、定期的と言いましたが、年数回の祭事以外は漁をすることはありません」
「食料難でも信仰は守るってわけか・・・」
「別に私が言ったわけではありませわ」
人間の信仰とは精霊の意志と関係なく行われる。
その決まりが出来た当初は乱獲を防ぐなどの意図が含まれていたのかもしれないが、長い年月をかけて教えが決まりとなり、意図と関係なく守られて行く。
それは京也のいた次元でも同じようなことが多々あった。
「いつの時代でも人間は変わらないな」
「そうですね」
「まったくですわ」
しみじみ三人で語っているとふと京也は思いつく。
「そういえば、祭事しか漁をしないってことなら、俺が魚を取って帰ったら不味かったんじゃないか?」
「それもそうですね」
「・・・」
「聞かれませんでしたから」
再度無言で睨む京也に笑顔で答えたソウ。それを見て京也は大きなため息をついて力を抜いた。
適度な疲労感と、心地よい風に身を任せて目を閉じると、京也の意識は眠りに誘われて行った。
※※※ ※※※
暗闇の中に居た。
体を自由に動かすことも出来ない狭い中でひざを抱えて丸くなっている。
おそらくこれは夢だ。自分のものにしては体がやけに小さい。
ひざと一緒に握り締めた牙のお守りが手に力が入りすぎて皮膚に食い込むが、痛みを感じることは無い。
それは夢だからなのかそれとも・・・
小さな体に溢れる感情は恐怖。
だが恐怖しているということ自体がもっとも怖かった。
狭い中に凍るように冷たい何かが流れ込み満たしていく。
直にこの小さな体を飲み込んでしまうだろう。
しかし恐怖しているという恐怖の前では些細なことだ。
次第に薄れている意識の中で小さな体の持ち主は恐怖に恐怖しながら願っていた。
村の為、
お守りを作ってくれた大切な・・・の為、
繰り返し繰り返し願い続ける。
暗く狭い冷たい中、
一人・・・
小さな体はそんな事を願い続けながら、意識までも暗闇へと沈めて行った。
※※※ ※※※
「っ!?」
目を覚ました京也は飛び起きて辺りを見回す。
辺りは薄いオレンジに染まっており、京也の横には長い木の影さしていた。
「やっとお目覚めですか?」
「あ、あぁ、悪い」
どうやら泳いだ疲れでそのまま寝てしまったらしい。
京也は自分の手を見て二、三回握り返すが特に変わったところは無かった。
下着姿で寝てしまった為、肌寒くはあったが、凍えるほどの寒さではない。
「風子さんに感謝して下さい。こんな格好で寝てる京也さんに辺りの暖かい風を集めて送ってましたから」
「そうか、ありがとうな、風子」
「いえ、お安い御用です! というか、どうかしたんですか?」
言われるがまま風子に礼を言った京也だったが、その後も服を着るでもなく水面を見ながらボーっとしていのを不思議に思った風子が顔を覗き込む。
「いや、夢・・・みたいなものを見てな」
「夢ですか?」
「やけにリアルというか感覚に残る夢でな」
「どんな夢だったんですか?」
「それを思い出そうとするんだが、感覚ははっきり覚えているんだが、どんな、と言われてもまたく思い出せないんだ」
暗く狭く冷たい孤独な感覚は残っているが内容はさっぱり思い出せない。
「私は夢というのを見たことがありませんからなんとも言えませんが、夢とはそういう物なのではないですか?」
「まあそれもそうか」
ソウに言われて納得していると、徐々に夢の余韻も薄くなっていく。
「気が済んだのでしたらその恥ずかしい格好をなんとかしたらどうですの?」
「おっと、それもそうだな」
ヒョウカに言われて立ち上がった京也は干しておいた服と荷物を身に付けると、再度体を動かして感覚を確かめる。
「よし、暗くなる前に戻るか」
「やっと静かになりますわ」
「悪い悪い、てか寝てたからそんなに五月蝿くなかっただろ」
「五月蝿かったはこのアホの精霊ですわ」
「だから私は風の精霊です!!」
「ああ、なるほど」
嫌そうな顔をして風子を見るヒョウカに、納得して同情する。こんな感じでずっと言い合いしてたのだろう。
「んじゃな、またいつか来たら泳がしてくれ」
「その時はもっとちゃんとしたお供えも持ってくるんですわよ」
数個の水袋を抱えながら「はいはい」と答えて京也は池を後にした。
後に残った瓢箪池の精霊は夕日の中一人佇み、京也達が見えなくなるまでずっとその姿を見守るのだった。
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