精霊のお供え、まさかの新事実、考える事が多い!
「・・・っ!?」
京也の目が覚めたのは、ソウの怒号が途切れてから15分ほどしてからだった。
慌てて辺りを見回すと、少し離れた所に女が倒れており、京也をはさんで反対側には寝かせた時と同じように、少女が横になっている。
そして少女の回りには、なぜかソウと風子が覗き込むように並んでいた。
幸い、まだ誰も京也が目覚めたことには気づいておらず、京也は今のうちにと考えを巡らせる。
まずは京也を襲撃した女のことだ。
年齢はおそらく京也より下、10代後半位、清楚でキリッとした整った顔立ちに、スレンダーな体格(但し胸はデカイ)。
気を失った状態では、とても先ほど京也を襲った人物と同一人物だとは思えない。
しかし、彼女に襲われたのは事実であり、ナイフは相変わらず京也の横に刺さったままだ。
金属らしいが、あまり鋭いといった感じではなく、型から成形して少し研いだだけのような雑な仕上がりの物だ。持ち手も植物の蔓のようなものでぐるぐる巻きにしているだけだ。
それと反対に女が身につけている白無垢のような服は、少女の物よりかなり上等に見え、高級感があるように感じられる。
そのアンバランスさを疑問に思いながら、視線を女から少女の方へ向ける。
次に考えるべきはソウのことだ。
冷静になって考えると、言葉使いに関しては以前話した時に言っていた人間との距離感と合致したものであり、何故あそこであんなに違和感を覚えたのか全く思いだせない。
おそらく気が動転した状況で、見知った人物が登場した安堵感から変にテンションになったのが原因だと推測される。
問題はこれからのソウに対しての対応だ。
間違えなく怒っている以上、謝罪するべきなのだろうが、なんと言っていいか解らない。
そのまま『気が動転していた』と伝えて謝罪するのが良いのだろうが、精霊基準でそれで許されるかどうか・・・。
「別にもう気にしていません」
何か供物でも捧げた方が良いだろうか考えだした京也だったが、その考えは少女の方から聞こえる声に中断されることになった。
「何か頂けるなら頂きますよ」
もちろん京也の意思を読んだソウだ。
京也が意識を取り戻したことに気付いたソウと風子は、知らないふりをして京也の意識を観察していたのだ。
どうやらばれていると悟った京也は、タヌキ寝入りを諦めゆっくり立ち上った。
立ち上った瞬間に軽い頭痛がするが、我慢できないほどではない。
「あーなんと言っていいか・・・、とりあえず悪かった。すまん」
考えがまとまらないままだったが、とりあえず謝罪することにした。
供物に関しては保留だ。
「ですから、もう気にしてません。反省してくれて、お供えなどしてくれれば」
ホントはまだ気にしているのではないかと思って、京也は半目でソウを見るが、自分が怒らせた上、助けてもらっているのだからと、何かないかカバンの中を漁る。
「食糧はさすがにチョコしか無いから渡せないが、これでどうだ?」
「これは・・・食べ物?」
「んー、ちょっと違うが間違ってない。これはガムだ」
京也が取りだしたのは元の次元から持ち込んだもう一つの食べ物、ガム。
因みに個別包装タイプの15粒入りのうちの一つだ。
「ガム・・・、なるほど口に入れて噛むことで味が染み出す無機物ですか。興味深いです」
京也が説明する前に、意識を読み取ったソウが興味を示す。
嗜好品であるガムは甘味ではあるが、飲み込めない為ほとんど栄養にはならない。
今後はどうかわからないが、現時点で一番不要な物だろうという考えで提案したのだが、京也の居た次元を意識でしか知らないソウには珍しい物だったようだ。
「お供えするのは構わないんだが、どうやればいいんだ?」
そもそも、食事が必要無い精霊に、ガムの美味しさが解るのか疑問だったが、それ以上にどうやればお供えしたことになるのか解らない。
「そうですね、ホントは祭壇なんかで厳かにお供えしてもらううですけど・・・、今回は略式ということで」
そう言いながらソウが手のひらを少し持ち上げる。
すると京也の持っていたガムと同じ物が、ソウの持ち上げた手の上に現れる。
「複製か? どんな仕組みなんだ・・・」
複製したことにも驚きだが、ソウの手の上に現れたガムはソウの寸法に縮小されていた。
気になって、どんな仕組みなのか聞いてみたが、『秘密です』と笑顔で回答を拒否された。
因みに手元に残ったガムだが、普通に食べることができた。
但し色が白くなっており(もともとは緑色)全く味が無く、形は変わっていないのに噛み終わった後のようだった。
おそらくだが、物の形以外の情報をすべてを抜き取ったのではないかと思われる。
複製したガムを食べたソウは、さわやかなミント味が気にいったらしく、大分機嫌直したようだった。
「それでどうしたんだ? 二人で覗き込んで。この子がどうかしたのか?」
「精気を送っているんです。そうすれば少しは元気になるでしょう」
機嫌が直ったソウに聞いてみると、そんな答えが返ってくる。
この土地の管理を行うソウは、この土地で生まれ育った者限定だが動植物などに多少干渉することができるらしい。
今はソウ地方の精気を少女に送り込んでいるとのことだった。
精霊であるソウがどうしてそんなことをしているのかと疑問に思い聞いてみると、「助けたくないんですか?」と聞き返され京也は何も言えなくなってしまった。
「まあ私が言いだ出したことでも無いんですけどね」
「どういうことな・・・」
「わー!!! いえいえ! なんでもありません! なんでもありません! そ、そんなことより私もガム食べてみたいです!」
ボソッと言ったソウの言葉の意味を聞こうとする京也だったが、目の前に飛んできた風子に割りこまれてしまう。
「なんで風子にお供えしなければならない」
「私だってがんばりました! 矢から守ったりしましたよ! だから・・・」
初めほどではないが、次々捲し立てる風子に怪訝そうな目を京也は向けるが、助けてもらってのも事実の為、お供えするかどうか考える。
結果的に一粒お供えすることになるのだが、それにより京也は先ほど持った疑問をすっかり忘れてしまった。
因みに風子は旨くごまかすことができたが、ソウの言葉の真意は、少女に精気を分け与えると提案したのが風子だった、という話だ。
実は、京也が早めに復帰できたのも風子のおかげだったりする。
気絶から逸早く目覚めた風子は、荒い息を立てるソウを宥めて、京也を起こしてもらうように頼んだ。
襲撃してきた女をどうにかする力は風子には無い為、先に京也に意識を取り戻してもらい、可能な限り危険から遠ざけようとしのだ。
事情を聞き、風子に説得されたソウだったが、その土地の人間ではない京也に直接干渉することは出来なかった為、不慣れながらソウに教わりつつ精気を風子が自ら送り込んだ。
本来別次元の人間の京也には風子の精気を送り込む事は出来ないのだが、短い間とはいえ接点を持っていた為、効率は悪いが送り込むことが可能となり、女より遥かに早く京也は復帰することができたのだ。
その時にこの土地の人間と思われる少女にならソウが干渉できるのではないか、と風子が言ったのだ。
ソウが理由を聞くと、風子は『何となくです!』としか答えなかったが、実は少女への初めの対応について京也に思うところがあったことを風子は意識から読み取っており、そのことを気にしていたからだった。
そんな事情から、ソウは少女に精気を移動し、照れくさい風子はそのことを隠蔽した。
「まったく、面倒な大精霊さんです」
目の前で不満顔の京也からお供え物をもらって喜んでいる風子を見ながら、ソウはため息をつきながら一人黙々と少女に精気を送り続けるのだった。
※※※ ※※※
「終わりましたよ」
京也と風子が、ガムについて話している間に、少女への治療を続けていたソウが終わったことを告げる。
因みにガムは風子にも好評だった。
風子の場合はお供えなどとあまり縁が無かった為、食べるということ自体も新鮮だったようだ。
「ありがとうな、ソウ」
例を言いながら少女の元へ近寄ると、京也は様子を見てみる。
最後に様子を見たのは襲撃される前だったが、その時より顔色がよくなり、苦しげな表情もしていなかった。
「精気は補充しましたが、根本的な解決にはなっていませんから、何処かでちゃんと処置するべきでしょうね」
ソウによれば精気の補充は疲労回復のようなものらしい。
食べておらず栄養が足りていない状態は改善していない為、今のまま活動すればすぐに前の状態に戻ってしまうとのことたっだ。
「そうだな、この様子なら少しくらいまともな物も食べれるだろう」
「でも食べるものなんてあるんですか?」
「それだよなー」
風子の言う通り、今京也が持っている食糧はチョコレートのみだ。カロリーの摂取はできても、栄養にはほど遠い。
「そういえば・・・」
そんなことを考えていると、ふと京也は倒れている女の事を思いだす。
女はいまだ気を失って倒れており、目を覚ます気配はない。
そんな彼女に近づくと京也は周囲を確認する。
近くにあるのは刃物だけで、本来なければならない物が無い。
「弓は何処だ?」
見えてはいなかったが、矢が飛んできていた方向と、矢が止まると同時に彼女が突っ込んで来たこと、京也達が倒れても追撃が無かったことから、彼女は一人で奇襲をかけてきたと思われる(ソウの怒号に仲間も気絶した可能性もあるが、その場合は仲間もまだ気絶していだろうから問題ない)。
それなのに彼女の回りには弓が無い、向かってくる途中で落としたか、邪魔で捨てたか解らないが、何処かにあるはずだ。
さらに、何処から何人で来たのか解らないが、野盗の類には見えないし、近くても村まで2時間以上かかる場所へ刃物と弓矢だけで来たとは考えにくい。
「てことはあれも一緒に・・・」
念の為、風子とソウに二人の様子を見ているように頼み、京也は彼女が飛び出してきた森へと向かう。
まだ時間が立っていないこともあり、彼女が飛び出してきた場所はすぐ見つかった。
所々、曲がったり、千切れたりしている草を目印に奥へと進む。
ほぼ真っすぐ五分ほど歩き続けると、草むらの中に一メートル半ほどの長弓が落ちていた。
拾い上げると意外に軽く、どうやら竹のようなものを組み合わせて作っているようだった。
京也はさらに辺りを見回し、目的の物を見つける。
「よし、やっぱり荷物があったか。おそらく中には・・・」
皮のような素材で出来た、リュックくらいの大きさの袋に、植物を編んで作ったと思われる紐で縛った簡素な荷物だが、間違いなく荷物である。
幸い他に仲間などは居ないようだ。
中には予想通り、食べ物と思われるスモモくらいの大きさの赤い果実や薄茶色の団子のようなものが入っった袋、干した肉、水袋、袋を閉じていた紐より、もう少し太い同じ繊維の紐、臭いのする粉が入った土器、小さめの刃物が入っていた。
「よし、食料だ」
普通に狩をするにしろ、警備をするにしろ拠点から離れたところへ向かう場合、最小限でも食料等は持って来るものだ。
京也はそれを探しに来たのだ。
念のため弓と荷物の近くにあった空の矢筒も回収し、元来た道を引き返す。
「・・・」
戻ろうと足を進める京也は、ふと自分が歩いてきた道と手元にはる弓を見て思う。
「この距離からそんなに正確に撃ってたのか?」
今でこそ道のようなものができているが、女は茂った草や木の枝などがあったと思われる場所から、京也に向かって矢を射ていた事になる。
距離にして数百メートル位はある所から、障害物を避けて正確に京也を狙っていたとすれば、かなりの腕前だ。
「生きててよかった・・・」
女の技術に驚くとともに、風子に再度感謝をしながら京也は再び元の場所へ戻る足を進める。
途中に荷物に入っていた果実と団子を少量齧ってみたが、どちらも問題なく食べることができた。
果実は甘酸っぱい青リンゴのような味と食感、団子は穀物をすって丸めたような味で、パサパサしており正直あまり美味しくなかった。
風子達の近くまでもどってきた京也は、女の意識がまだ無いことを確認した後、荷物から紐を取り出し手と足を縛る。
悪いとは思うが、また襲い掛かられてはたまらない。
女を縛り終えた京也が風子達の方へ向かうと、
「なんだ?その目は」
近づいて来た京也を、風子はキラキラした目で、ソウはジト目で出迎える。
「京也さんはそういう趣味だったんですね!」
そんなことを言ってきた風子を、京也は無言で掴んで全力で森の方へ投げ飛ばす。
「へ?あぁぁぁぁぁ!!!!」と言う断末魔を残して風子は森の彼方へと消えていった。
「まさかお前も同じような事考えてるんじゃないだろうな」
風子の飛んで行った方を見上げていたソウを睨みながら、京也が問いかける。
「いいえ、縛った事に対して思うところがあったのは確かですが、あそこまで馬鹿丸出しの精霊と一緒にされるのは心外です」
「だろうな。で、思うところってのは何なんだ?」
「んー、まだ確証はありませんのでなんともいえませんが、襲ってきた女とこの子供は知り合いなのではないかと」
「この二人が知り合い?」
考え込むように眉間にシワを寄せたソウが言うには、京也に襲い掛かっている時に意識を読んだ時、女は『あの子を助ける』という強い意識を持っていたそうだ。
おそらく女も村の住人で、知り合いという可能性は高いだろう。
しかし、ソウによればただの知り合いに向ける感情にしては、やけに強い意識を感じた為、確証が持てないとのことだった。
「なるほどな」
ソウの話を聞き、京也は腕を組んで考察するが、もちろん答えは推察の域を出ない。
「本人に確認するのが一番手っ取り早いか・・・」
「でしょうね」
意見を一致させた二人は、とりあえず少女を起こすことにした。
女に聞くと言う手もあるのだが、襲ってきたことを鑑みるに、まともに会話が成立するかわからない為、無難な選択肢として少女に話を聞くことにしたのだ。
「おーい、起きろー」
疲労の回復はしたとはいえ、まだ万全ではないと思われる少女の肩を、京也は声をかけながら軽く揺する。
すると、少女は薄ら目を開け、軽く辺りを見回した後、京也と目を合わせた。
「これを食べた後でいいんだが、少し話が聞きたいんだが」
「・・・」
荷物から果実を取り出だして、少女に差し出しながら京也が言うと、京也の顔と果実を何度か交互に見た後、ゆっくりと起き上がろうとする。
やはり、まだ本調子ではないようだったが、途中で力が抜けそうになるのを京也に支えられて起き上がり、京也の差し出した果実を受け取ると口に運ぶ。
リスが齧る様に少しずつだったが、自分で食べている姿にほっとした京也は、少女に自身のことなどについて質問することにした。
「名前は何て言うんだ? ちなみに俺の名前は橘京也だ」
「・・・」
「森で倒れてたんだが覚えているか?」
「・・・」
「えーっと・・・、どこから来たかわかるか?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「何を見つめ合っているんですか」
果実を食べる手を止め、京也を見る少女はまるで京也の質問に答えない。
質問しても答えない少女と、回答してもらえず黙ってしまう京也が見つめ合う姿を呆れた顔で見ながらソウはため息をつく。
「まいったな、声が出ないのか?」
困り果てた京也は、頭を掻きながらどう質問していいか首をひねって考える。
そんな京也の様子をじっと見つめていた少女も、首を少しかしげる。
「声が出ないのではなく、何を言っているかわからないのです」
「は?」
一向に進展しない状況を見かねてソウが助け舟を出すが、それを聞いた京也は間の抜けた声を出して呆然とする。
「何を言ってるか解らない?」
「そうです」
「耳が聞こえないってことか?」
「はぁー、解ってて言ってますね・・・。違います、言葉の意味が解っていないんです」
「・・・」
考えないわけではなかった。
自分が居るは異次元の弥生時代。元の次元の日本語が通じないのではないか、と。
しかし、今まで話しをした風子やソウは普通に日本語でコミュニケーションが取れていたため、日本語が通じる、もしくは埴輪の力で都合よく翻訳されていると思い込んでいた。
しかし現実は違った。
風子やソウは精霊であり、意識を読んで京也にあわせて回答していただけで、普通の人間である少女に京也の日本語は通じていなかったのだ。
心辺りはある。
水を差し出したときや、チョコレートを食べさせた時、口に触れさせなければ開けなかったが、それは拒否や開けられなかったからではなく、単に京也が何をしようとしているか理解できなかったからなのだ。
「マジかー・・・」
「マジです」
うなだれる京也を、首をかしげて見つめていた少女に首を横にふり、果実を持った手を口に持っていくように動かす。
京也から目線をはずして果実を見た少女は、一口果実を食べるとまた京也を見る。
そんな少女に首を立てに振って答えると、少女はまた少しずつ果実をかじり始めた。
果実を食べる少女をささえながら、京也は途方にくれる。
これから先、精霊としか対話できずに生きて行けるだろうか。
少なくても精霊とは対話できる為、なんとかなることもあるだろうが、なんともならないことの方が多い気がする。
町に立ち寄っても会話できないので、食べ物が手に入らない。寝床も確保できない。それに・・・
「なんでいきなり投げ飛ばすんですか!?」
先行きの不安材料の多さに、頭を抱えて悩んでいた京也の目の前に、先ほど星にしたはずの風子が飛んで来て怒りの声を上げる。
「お前が馬鹿なこと言うからだろ」
あまり機嫌が良いとは言いがたい京也は風子を睨みながら低い声で答える。
「うっ・・・それは・・・ちょっとした冗談じゃないですか!」
「わかったからちょっと黙ってろ。今お前と遊んでる気分じゃないんだ」
頬を膨らませる風子を軽くあしらって、再度これからのことを考え眉をひそめる京也。
そんな意識を読み取ったのか、風子が「どうしたんですか?」と、先ほどまでの怒りを霧散させて問いかけてくる。
ため息をつきながら風子が飛んでいった(飛ばされた)後にあったことを簡単に説明した。
それを聞いた風子は何を言っているんだ、というような呆れた表情を見せ、
「ソウが仲介すればいいだけじゃないですか?」
と、当たり前のように言う。
「あぁ?」
何を言っているかわからないと、怪訝そうな顔をする京也の顔を、少女は首をかしげながら見つめるのだった。
※※※ ※※※
時間は少し戻って少女が目を覚ました時、
揺さぶられる感覚に気がつき、目を覚ました少女の目の前には、また男のあの顔があった。
少し前、突然襲ってきた激しい頭痛に、弱っていた少女はすぐさま意識を失った。
しかし目が覚めた今は、頭痛どころか体のだるさすら消えており、万全とまで行かないが空腹を感じるくらいには回復していた。
男がススモモの実を取り出し、差し出すのを自然と受け取ろうと体を起こそうとするが、途中で力が抜けてしまい倒れそうになる。
しかし倒れる前に男に支えてもらい、なんとか起き上がってススモモの実を手に取った。
空腹の為、自然とススモモの実にかじりつくと、なつかしい味が口の中に広がり、つい夢中になって口を動かす。
「ナマエハナンテイウンダ?チナミニ、オレノナマエ、ハタチバナキョウヤ、ダ。」
男が何か言っていることに気がつき、男の方を見るが、男がなんと言っているかわからない。
それからも何か言っているが、聞き取ることは出来るが、何を意味しているのかはまるで解らない。
答えないことに、困った表情をしている姿を見ていると、不意に男が目線をそらして足元の白い靄のに向けて何か言い出した。
間の抜けた表情をしたり、落ち込んだ入りと、百面相しながら靄の方を向いて何か言い続ける男を不思議そうに見ていると、思い出したように目を合わせて首を横にふる。
その後、手を取られて少し驚いたが、ススモモの実を口元まで持ってくるので、食べろということかと思い、そのまま一口食べる。
これでいいのか確認を求めようと男を見ると、疲れた表情で首を立てに振るので、そのまま果実を食べ続けることにした。
しばらく無言のままスモモをかじっていると、男がまた何か言葉を発する。
また何か言っているのかと男の顔を見るが、男は少女の方を見ておらず、今度は空の方にある靄に向かって一人でぶつ言っていた。
何をしているのかと疑問に思っていると、突然頭の中に声が響き渡る。
『私の声が聞こえますか?』
「あ、あの・・・、はい。聞こえます」
『よろしい、ではあなたにいくつか問いかけますので素直に答えなさい』
「え、あ、あの・・・あなたは?」
『ワタクシはこの地方の精霊、故あって貴方の心に語りかけています』
その言葉が聞こえると共に、足元の白い靄が輝いた。
驚いて目を閉じた少女が恐る恐る目を開くと、そこには純白の貫頭衣を着た、黄色い長い髪をした美しい大人の女性が現れた。
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