精霊にはろくな奴が居ない?

 埴輪にはめられ、再度霧の中に取り残された京也はため息をつきながらも、前に進むことにした。


 道なき白い世界を歩き続けると、次元の狭間へ来る時と逆にだんだん霧が薄れていく。


「いったいどんなとこに放置されるのやら・・・」


 徐々に色が付き始めた世界を恐る恐る歩いて行くと、足元の感触が変わっていく。


 次元の狭間へ行く前は、踏み固められた砂利道か獣道のはずであったが、今歩いているところは雑草が生い茂る庭といった感じだ。


 次元云々はともかく、元居た場所とは違う場所なのは間違い無いのようだ。


 草を踏みしめながら進むと、徐々に風景も見え始め、白い世界に終わりが見えてきた。


「どうやら夜の森みたいな危険な場所は避けることができたらしいな」


 あの埴輪の差し金なのかは解らないが、霧を抜けた先の景色は見渡す限りの草原と雲ひとつない青空だった。


 見上げると太陽はまだ高く、サンサンと輝いている。


 後ろを振り向いてみるが、先ほどまでの霧が嘘のように何もなかった。


 あるのは彼方まで広がる草原だけだ。


「危険は避けたようだが、これはこれでどうすりゃいいんだ?」


 草原にぽつんと佇む京也は、これからのことを考えてみる。


 とりあえずやらなければならない事は精霊とやらに話を聞き、時の精霊を探す事だ。


 よく考えるとその先どうするかを全く聞いていないことに気が付く。


 見つけてどうするべきだろうか、事情を話て埴輪の元につれて行く? いや、そもそも埴輪に会う手段が無い。


 そんな手段があるなら今すぐにでも使ってカチ割りに行っている。


 時の精霊なら埴輪に連絡する手段があるかもしれない。


「とりあえず時の精霊を探すしかないか」


 当面の目標を、時の精霊に会う事にした京也は草原に腰かけ、自分の荷物を確認する。


 ショルダーバックには財布、観光案内、スマホ充電器(フル充電)、真空断熱式のステンレス水筒(ミネラルウォーター入り)、お菓子(ガム14粒、チョコレート11個)、たばこ(12本)、使い捨てライター、携帯灰皿、ポケットティッシュ。ポケットにスマホが入っている。


 スマホに関してはとりあえず、使用するまで節電で電源は切っておく事にする。


 旅行中に拉致されたが、日帰り旅行の為着替えなどは持っていない。


 つまり、これらと今身につけている衣服が京也の持ち物のすべてだった。


「どうやって生きて行けってんだ・・・」


 確認の為に持ち物を並べた京也は絶望する。


 人間生きてくには最低でも衣食住は必要だろう。とくに食べ物は現在死活問題、チョコレートしかないのだ。


 飲料水に関しても水筒に入っているミネラルウォーターの残り900mlほど。まったくどうやって生きていけばいいかわからない。


「もって一日だな・・・」


 荷物をショルダーバックにもどして立ち上ると、京也は再び辺りを見回した。


 何処までも草原が広がっていると思ったが、よく目を凝らしてみれば薄らと遠くに山が見える。


 水蒸気量が多い季節は、遠くの風景が霞み見えにくくなることがある。京也が居た世界では季節は春だったが、ここでも同様に春~夏くらいなのかもしれない。


 この土地に四季があればの話だが。


 他の方向も良く見てみると何処までも草原が広がっているのではなく、少し傾斜になっているようでここが小高い丘になっていることがわかった。


「っていっても、それが分かったところでどうしようもないんだよなー」


 何をするにしても、生きていく為に他の人間に合いたいが、そもそも人が居そうな場所がどっちなのか検討もつかない。


 山の上よりは平地の方が人は居るとは思うが、この小高い丘の先がどれくらいの距離下っているのか解らない。


「こんな状態でどうやって精霊探せっていうんだ・・・」


 埴輪が言うには精霊は物、現象、概念に宿っているといっていた。


 しかし京也の会ったことがある精霊は、あの小賢しい埴輪だけだ。他にどんな精霊が居るか想像もつかない。


 とりあえず埴輪の説明の中にあった精霊を思い浮かべてみる。


「埴輪が言ってたことが本当なら、風の精霊ってのはとりあえず居るらしんだがな」


 首をかしげながら京也が呟くと、突如目の前に小さな人影が現れた。


「呼びました?呼ばれちゃいました!? どもども私は風の精霊!! よろしくお願いします!! いきなり歪みが出来たから来てみればなんとビックリ人間が居るじゃありませんか!? いったいどこから? 別次元から? 神隠し? 神隠しなんですか!? それは不幸ですねー!! というか、もしかして私のこと見えてます? 見えてますよね!? この私の可愛い姿が見えちゃってるんですね!? キャー照れるー!! 可愛いだなんてー! あ、でもこの容姿は人間さんのイメージですから私は関係なかったりするんですけどねー! それでも可愛くイメージされて悪い気はしませんね!! 有難うございます!! それにしても~~~~~」


 小さな人影の全長は20センチほど、外国童話の妖精のような緑色の貫頭衣のような形で、スカートがギザギザになった姿、淡い緑の髪をポニーテールを揺らしながら、かわいい顔を笑顔万点にしながら浮いている。もしこれで羽でもついていたらまさに京也が思い描くザ・妖精っといいた感じだ。


ただ決定的に違うのは、


「それでですね、私はこの見た目を大変気に入っています!! っということなんですよ!? わかります? わかって頂けますよね!? それにしても人間さん精霊見えてるなんてすごいですね!? 超レアですよ?レア!! SSレアです!? レアガチャ確立0.000003%です!! そんなわけでレアSSR人間さんは何してるんですか? どうしてこんな所に? あれ神隠しでしたっけ!? 違いましたっけ!? まーどうでもいいですね! それで~~~~」


 五月蠅い、とにかく五月蠅い。さっき出てきてから息切れすることもなく、とにかくしゃべり続けている。


 それにより京也は驚きの声を上げるタイミングを逃し、誰だと問い詰めるタイミングも逃した。呆れて口をはさむタイミングすら無い。


 てかこの時代にレアガチャって言葉あるのか? 完全にソシャゲの概念だろと思う。


「~~~てなわけでして!! ああソシャゲ思想ですか? 別にそれが何かは解りかねますね! あなたの意識を元に、珍しいってところでイメージが一緒なので使わせて頂きました!! ちなみに確立が0.000003%かどうかは適当ので解りません!! ごめんなさーい!! でも意味合いが通じればいいですよね!! よね!? あれ? なんか怒ってます? ちゃんとごめんなさいしましたよ? あれ? これから私どうかされちゃいます!? ・・・はっ!? この先の展開が読める! 読めます!! 絶対私、あられもない姿にされて犯され・・モゴーモガーモモモガー! んーんー!? んんー!!」


 呆れを通りこして無感情のまま風の精霊を睨んでいた京也だったが、危険な事を口ばしり出した風の精霊の口をすばやく頭ごと掴んで黙らせる。


 掴まれた風の精霊は、その後も口を塞がれつつも何か言ってるようだが、聞き取ることはできないし、聞きたくない。


「誰も聞いて無いとはいえ、なんてこと言いやがるこの精霊は!? 精霊にまともな奴は居ないのか!?」


 他にも精霊が居たという驚きよりも、あまりにもまともな精霊がいないことに京也は怒りを覚える。


 埴輪型の毒舌精霊といい、見た目ファンシーにも関わらずマシンガンのごとくしゃべり続け、挙句人を強姦扱いしようとする精霊。これまに京也が会った精霊は二人だが、とてもまともとは言いがたい。


「んー!! んーー!?」


「あの~」


 それはこれから精霊達に話を聞き、時の精霊を探さなければならない京也にとって、死活問題だ。今後もこんな精霊ばかりでは、とても京也のメンタルが持たない。


 手の中では未だに風の精霊が口を押さえられたままモゴモゴし続けているが京也はそれを無視する。


 風の精霊とは別の方向から、今後のことを考えて頭を抱える京也に声がかけられているが、その小さな足元からの声は届かない。


「あ~のぉ~」


「まったくあの埴輪に騙されなければ・・・」


「あぁー! のぉー!」


「精霊っていうからもっとファンジーなのを想像したたが・・・」


「・・・」


「どいつもこいつも人の話を聞きやしない!」


「むぅー・・・てぃ!!」


「痛!?」


 考え込んでいた京也の脛に激痛が走る。


 慌てて下を見ると、そこには風の精霊と同じくらいのサイズで赤茶色の民族衣装を着た少女が立っていた。セミロングの黄色の髪は微妙に逆立つており、顔も頬を膨らませて、目は釣り上がっている。つまり怒っているようだ。


「精霊?」


「やっと気が付きましたか。まったく、どっちが人の話を聞かないのやら」


 呆れた様子で肩を竦ませた精霊に苦笑いしながら、京也はしゃがんで精霊と目線をなるべく会わせる。


「悪い悪い、んで君は何の精霊なんだ?」


「はじめまして、わたくしこの地域の土地精霊です。呼びにくければソウとでも呼んで下さい」


「俺は橘京也。よろしく。ていうか精霊に固有の名前なんてあるのか?」


「ソウはこの土地の今の名前です」


 今までの精霊とは違い、初めて丁寧なあいさつを交わしたソウは、この地方について説明をしてくれた。


 この地方はソウ地方と言い、山に囲まれ、中央は草原や林になっているらしい。一部には湿地帯もあり、大きな池もあるそうだ。


 彼女はこの一帯の土地精霊で、この地域の管理精霊といった感じらしい。


「それで、ソウは俺に何の用だったんだ?」


「あなたにお願いがあって声をかけました」


「お願い?」


「はい。ちなみにお願いの前にそろそろ風の精霊さんを放してあげてはどうですか?」


「あっ」


 ソウとの話に夢中になり、風の精霊を掴んでいたことすっかり忘れていいた京也は、あわてて手元を確認する。


 そこには風の精霊が力なく白眼をむいた姿で握られていた。


「やばい!?」


 口を塞いでいた手をどけて、草原に風の精霊を横たえるが、反応はない。


「これは・・・」


「返事が無い唯の屍のようですね」


「死んでませんよ!?」


 顔を覗き込んだソウの辛辣な言葉に、ガバッと飛び起きて浮かび上がった風の精霊は、勢い良く二人に突っ込む。


「よかった、いきなり精霊殺しの異名を背負うことになるところだった」


「ええ、誠に残念ながらよかったです」


「二人ともひどすぎませんか!? もうちょっとで河の向こうのお爺ちゃん精霊のもとへ旅立つ所だったじゃないですか!? いったい私をなんだと思ってるんですか!? だいたいムグッ!!」


 先ほどまで白眼をむいていたのが嘘のように元気になった風の精霊は、冷たい態度の二人に文句を言うが、言い終わる前に京也に再度口を塞がれ、強制的に黙らせられる。


「やかましい、静かにしなければまた気絶させるぞ」


 つまんだまま、低い声で京也が脅すと、風の精霊はカクカクと首を振りながら冷や汗をながす。


 同意したのを確認した京也は風の精霊から手を離した。


「ふー、まったく酷い目に会いました!」


「五月蠅いお前が悪い」


「まったくです。おかげで私は無視されてしまいました」


「・・・」


 不満を訴える風の精霊に、二人でさらなる追い打ちをかける。そんな二人を風の精霊は半目で睨むが、もちろん二人とも無視だ。


「で、邪魔が入ったせいで話が途中だったが、ソウのお願いってのは何だったんだ?」


「私が先に話かけたのに邪魔って・・・」


「あぁ? なんだ?」


「いえいえなんでも無いです! 無いです!」


「お願いしたいのは・・・」


 ソウの話では草原と森の間で、一人で泣いている子供が居るので、どうかしてほしいとのことだった。


 ソウにとって人間が何処で泣いていようが気にはならないらしいが、精霊等から報告が入っており、それがもう丸一日も続いている為、迷惑しているとの事だ。


 通常であれば我慢して放置するところだが、風の精霊と話している(といっても風の精霊が一方的に話していただけ)俺が居たので早期解決の為、声をかけたとのことだった。


「泣いてる子供って・・・」


 どんな事情があるかは解らないが、山の中、一日中、一人で泣いているという状況は間違いなく面倒事だろう。


 来たばかり土地で面倒ごとを抱えるのはさすがに避けたい。


 ノーと言える人間を目指す京也はいつも面倒事は断るように心がけている。


 可哀想だとは思うが。


「んー・・・」


「困りましたねー。この辺には狼が出るかもしれませんし、もう一日近くともなると大部体力も消耗しているでしょうしねー」


 明後日の方向を向きながら、目線だけちらちら向け、京也の心情に訴えかける。


「困りましたねー、可哀想ですねー」


「そーだー、かわいそうーかわいそ・・・ムグッ!!」


「ソウが直接動くことはできないのか?」


「んー、難しいですね・・・」


「何か問題が?」


「はい、色々有りますが、まず基本的に私達の姿は普通の人間には見えません。それ以外に・・・」


 この次元には精霊信仰というものがあるらしい。


 すべての現象には精霊が宿り、豊穣や天災など精霊に祈りをささげて感謝や厄払いを頼むそうだ。


 その役割を担う祈祷師(交信者と言われるらしい)はどの集落でも高い地位にあり、人々に一目おかれる存在とのことだ。


 元の次元で言うところの神頼みのようなもので、交信者は神父といったところだろう。


 京也が住んでいた次元でも、同じ時代にそう言った文化があったと授業で習ったことがあるからそんなに不思議なことでもない。


「つまりその象徴ともいえる精霊が簡単に現れるわけにはいかないと?」


「私達にとってそれはどちらでもかまわないですが、まず私達を認識することができる人間か解りませんし、もし認識できたとしても 、いきなり声をかけたら・・・」


「まあ、どんな反応されるか解ったもんじゃないな」


 目の前にいきなり現れてマシンガンのごとくしゃべり続け、今も手の中にある『これ』らが無害な精霊だというのを初めて見る人間に説明するのは難しいだろう。


 しかも相手は子供なのだからなおのこと、精霊と認識するよりお化けや何かと間違われる可能性の方が高い気がする。


 風の精霊に適度に空気を吸わせながら、京也はソウの説明に明妙に納得してしまう。


「それで人間の俺に頼んだ、と」


「はい。正直、あの人間がどうなろうと私はかまわないのですが、人間と普通に話すのも久しぶりですから、そのついでです」


「話すついでって、結構ドライなんだな」


「すべての事柄を私達が干渉して解決するわけにもいきませんから」


「それもそうか」


 土地精霊にとって人間はその土地に住む生き物の一つでしかないのだろう。


 すべての生き物の問題を解決することは不可能だ。その為、管理をする上で多少は冷たい選択を行わなければならないのは必然となるのかもしれない。


 そんな話を聞き、共感していた京也はふと疑問に思う事がありソウに質問を投げかける。


「人間と話すのは久しぶりって言ってたが、交信者と心をかわすとか言ってなかったか?」


「そうですねー・・・、一方的に願いを述べる人間に端的な感情を返すっことを会話と言うと思いますか?」


「・・・思わないな」


 交信者にとって精霊は神様だ。


 神様に祈りをささげるのと、会話するのはまったく別物だ。


 京也も神社に行ってお参りすることがあるが、それを神様と会話したとはい言えない。


「つまり俺みたいに普通に見えたり会話できる人間はめずらしいってことか」


「そうですね、私が存在してから二人目です」


「それはまた大分レアだな」


 ソウがいつから存在しているかわからないが、人生で二人目となるとかなり少ないはずだ。


 何処ぞのおしゃべりの精霊が言う0.0000003%のSSRとう話もあながち嘘ではなかったようだ。


「もごっもごもごもごー!(わたしは風の精霊です!!)」


「人の心を読むな」


 もごもごとしか聞こえていが、なんとなくそんなことを言っている気がして風の精霊を睨みつける。すると風の精霊は「私にだけ態度が違うー」ともごもご言いながら泣き出してしまった。


「当たり前だ。会話が成立するソウと、人の話を聞かないお前が一緒の対応なわけないだろ」


 京也は基本的に自分への対応をそのまま相手に返すようにしている。


 埴輪のように人を騙す者にはそれ相応の態度しか取らないし、ソウのようにきちんとした相手にはそれ相応の態度で接するようにしている。


「自業自得ですね」


 ソウの言葉を聞いて風の精霊はさらに流す涙の量を増やす。


「それで、お願い聞いてくれないですか?」


「正直にいうと面倒事は避けたいが、放っておくのもなー」


「そうですね・・・、では間を取って、とりあえず様子を見に行ってもらう、というのはどうです?」


「んー、それなら・・・」


 見て明らかに急を要するようなら手を出せばいいし、そうでないのならそのまま様子を見てもいい。


 知ってしまった以上、知らない顔もしにくい京也にとっては妥協案としてよい案だと思う。


 しかしこれはソウのお願いを京也が聞いた事に等しく、結局断りきれていない。


「では決まりですね」


 にこやかに笑うソウを見て、完全に手玉に取られた事に京也は遅まきながら気がづくが、今さらノーとも言えずにため息をついて諦める。


「場所は・・・、風の精霊さんご案内して頂けますか?」


「?」


 京也につかまれていた風の精霊は突然自分に話が飛んできて、意味が解らないのか涙を止めて首を傾げる。


『しっかり案内できれば普通にお話してくれるかもしれませんよ?』


 精霊同士の意思疎通によりソウが問いかけると、風の精霊は目を見開きコクコクと頷いた。


 京也は知らない事だが風の精霊は人間と話をすのが初めてだった。


 ソウのような土地の精霊と違い、風の精霊は一か所に留まるとがほとんどなかった。


 本人の気質の問題でもあるが、風という概念の関係上、世界各地を回ることができる為である。


 さまざまな人間を見ることはあるが、会話できる人間の前に自分が運よく遭遇し、その人間と会話できるというのはかなり確立が低い。


 そもそも、なぜそんなに人間と話したがるのかというと、これは本人の性格による。


 話好きの風の精霊は人の話を聞くことは多くあるが、聞いた話を話す相手が精霊しかいなかった。


 しかし精霊が人間に興味があるかと言うと、それはない。


 特に自分に関係することならともかく、関係の無い人間に興味を示す精霊は少ない為、話す相手が居ない。


 そんな時に大きな歪みを感じ取って、文字道理飛んできた風の精霊の前に京也は現れたのだ。


 初めて人間と話すことができテンションが上がってしまい、暴走した結果が京也へのマシンガントークというわけだ。


 ソウは風の精霊に人間と話をしたことがあると言った事があり、その時大変羨ましそうにしていたことを覚えていた為、事情を察して案内を持ちかけたのだった。


 実はただ案内が面倒だったので、定良い理由で風の精霊に押しつけたというのは本人以外知らないことである。


 そんなこととは知らない京也は、ソウの提案に不満のをあらわにする。


「こいつが? 案内?」


 今も手で押さえられながら期待の籠った目で見てくる風の精霊を京也は疑念の籠った目で見返す。


「はい、風の精霊さんは各地の出来事を観察することができます。風が吹く所限定ですが、とても偉大な精霊なんですよ?」


「偉大ねぇ・・・」


 先ほどまでのやりとりを思い返して、とても偉大とは言えない様子ばかり思い浮かび、京也にはとても信用することができない。


「まあ役に立たないようならその場で黙らせて私を呼んでもらえば、しかたないので私が案内します」


「今、しかたがないって言ったよな。実は自分で行くのが面倒なだけじゃないのか?」


「なんのことですか?」


 笑顔で首を傾げるソウを見て、京也は自分の予想が正しかったことを悟るが、これ以上言っても話が進まないため追求を諦めることにする。


「はぁー、しょうがない。役に立たなかったら落として(意識的な意味で)捨てるかからな」


 京也が睨みながら言うと風の精霊はコクコクと冷や汗をたらしながら頷く。


「ではお願しますね」


「あ、ちょっとまった!」


 言葉とともに薄れかけたソウを京也は慌てて呼び止める。


「俺も聞きたいことがあったんだ」


「なんですか?」


 薄れかけていたソウの輪郭が再度はっきりしていき、再び京也の前に現れる。


「そもそも俺は時の精霊とやらを探しに来たんだ、ソウは何か知らないか?」


「時の精霊さんですか・・・、知らないと言えば知らないし、知っていると言えば知っていますが・・・」


「どっちなんだよ」


「そうですね、私のお願いが終わったら教えてあげます」


「またこのバターンか・・・」


 埴輪といい、ソウといい精霊は無償の奉仕をしたらいけない決まりでもあるのだろうか。


 そんなことを思う京也に「では~」と笑顔で手をふってソウは再度草原の中に消えていった。


「はぁー、ノーと言える人間になりたい・・・」


 ソウに去った後、ため息をつきながら立ちつくす京也の手が小さく叩かれる。もちろん京也の手の中にある風の精霊だ。


「ああ、また忘れてた」


 相変わらずの対応に、風の精霊は止まった涙を再度滝のように流しだす。


「手は放すがまた喧しい様ならさっき言ったように落として捨てるからな」


 風の精霊が頷くのを確認して、京也はゆっくり手を放した。


 久しぶりに開放された為か、大きく深呼吸した風の精霊は立ちつくす京也に近づくと、そのまま肩に座ってしまう。


「なにをしてる?」


「まーまー、ずっと飛び続けるのも疲れるんです! さあ案内ですよね! 場所はわかりますから行きましょー!」


「お前全く懲りてないな・・・」


「そんなことありません! 超反省してます! ごめんなさい!」


「はぁー、まあいい、で? その子供がいるのはどっちだ?」


「はい! あっちです!」


 元気に指を指した方向に目を向ける京也だが、その先にはやはり草原しかない。


 目的地までの距離を想像してため息をつきながら、京也は風の精霊が指し示す北方向へ歩き始めるのだった。

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