第6話妹と友のために走るなんて
妹の結婚式をつつがなく終えたメロス。
その道中、暴君ディオニスが待つシラクスの市へと急ぐ。
山賊と遭遇してしまったが、それ以外は順風満帆と言えた。
「そうか、あんたメロスっていうのか」
「ああ」
歩きながら、山賊と会話していた。
普通に会話をしていた。
がらの悪い、血も涙もない若者ではないかと身構えた瞬間もあったのだが、その実、話し好きで、明るい性格の好青年であった。
山賊の首領格は確かに粗野で野蛮な性質に見えたが、涙もろい一面もあり、
メロスが瞬く間に事情を説明すると(彼は世間的日陰者にままある、早口な性質の男なのである)
「妹と友のために走るなんて、泣かせるじゃねえか」
と感激した。
手下たちも首領の感情に水を差すような発言はしなかった。
メロスはやや安堵した。
気を抜いたといってもいい。
………まあ、仮に極悪な山賊で金品を狙いに来たものだったとしても、処刑寸前であるメロスを追い詰めるほどではなかった。
持っている身銭も少ない。
走らなければならないのだから、まあある種の、無敵の人間である。
山賊は、自分が「腹立つわぁ、こいつ」と感じた人間に対しては野蛮な存在である。
ただ今回、その矛先はメロスにではなく、圧政を強いる王に向けられたようだ。
そんなこんなで、
「乗せていってやろうか?」
という提案すらしてきた。
確かに馬に乗れれば、町までつく余裕はある。
「頼む」
そう言えばあの悪王が治める町も―――治めることが出来なくなってきているが―――あの町にも馬貸しは当然、あった。
いたのだが、町人は覇気がなく、メロスも他者を巻き込むことはないと考えていた。
ただ考えもなく走った。
時間も限られていた。
馬貸しは、処刑される反逆者であるメロスを、乗せたくないと考える。
それが人情であろう。
「しかしいいのかい、山賊の兄貴よ、あんたも睨まれるんじゃねえか、王に」
「構うことはねえ、女の幸せのためよ、ここでやらなきゃ男が
「やだ………このヒトかっこいい………!」
山賊の兄貴は、義理堅く、メロスよりも主役らしい性質である。
「あぁ、それとだ、これを見てくれ―――これ妹の肖像画なのだがな?」
ぴらり、と紙に描かれた家族を見せるメロス。
「………可愛い!」
山賊首領が叫ぶ。
並走する馬たちの山賊全員が覗き込んできた。
………妹はやらんぞ貴様ら。
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