第7話 山賊とメロスと妹と 一


 暴君ディオニスのいる町、シラクスの市へと急ぐメロスと山賊たち。

 馬は毛並みが荒いしところどころに木の葉が引っ付いているが、屈強であった。


「だがメロス、その呼び方―――『山賊の兄貴』は嫌だぜ」


 駆ける馬の背で彼は言う。

 出会ったその日にメロス、と完全に呼び捨てであるが、メロスはその馴れ馴れしさを、特に指摘しない。

 この男は自分に対して心を許しているのだろう―――そう思うこととする。

 山賊の首領は続ける。


「別に山賊は本業じゃねえ―――本業じゃないというか―――」


「………どうだ、山賊などやめて、ちゃんと働けばどうだ」


 メロスの勘違いでなければ情があり、なかなかの好青年に見える彼ら。

 だがメロスはふと、目を見開く。

 山賊たちの黙り込む姿に感じるものがあった。

 引け目、負い目。

 何かがある。


「………すまない、出すぎたことを言った。まるで三流の宣教師よな。山賊の『首領』よ。だが悪気はないのだ―――悪人には見えぬのだ、お前たちは」


「俺はシラクスを出た」


「うん?」


「出たくて出た、それだけだ」


 手下たちが続ける。


「勘違いするなよ、首領はな、自分から辞めたんだ、シラクスは―――あの悪王の町はくそくらえだ」


 山賊集団、彼らの言葉の、その端々から察するに。

 どうも、山賊たちが今現在、山賊たるのは元をたどれば傲慢な王が関係するらしい。

 心が荒れた王。

 廃れた町。


「なんの理由もないわけがないだろう―――って、なんでこんなことまで言わなきゃなんねえんだ―――楽しいぜメロス、あの町より今の方がいい」


 がらは悪いように見える、というのは偏見だったのかもしれない。

 この山賊たちの表情には笑みがある。

 人生が楽しくて仕方がないと顔に書いてあった。

 メロスはやや機嫌が悪くなった。


 そうこうしているうちに、町が見えてきた。

 やはり人間の脚と馬の脚では違う。



「馬を降りていいか」


「なんだい、送っていくぜ」


「お前たちと一緒に町に近付けば、巻き添えになる。同罪とみなされるぞ」


「構うことはない、どうせ俺たちは町には住んでいないんだ」


「山賊よ、私は自分の意志で村まで走った―――お前たちは巻き添えには―――」


 足首がずきりと傷んだ。

 ううむ、これでは今までのように走れはしない。

 この山賊たちに甘えようかということも考えたが、メロスの脳裏に浮かんだ策があった。

 策ともいえぬものであったが。


「俺としてはこのまま町に突っ込んでいきたい」


 山賊のうち何人かが首をひねった。

 面白そうだ、とわずかに嗤う者もいた。


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