第2話三日間だけ待ってくれ。妹のために
「この無礼者が!」
兵たちにとらわれ、現国王であるところの暴君ディオニスに威圧されても、メロスは引かなかった。
瞳の光を雄々しくたぎらせ、強く抗議する。
「王よ。ひどい話を聞いた。家族を殺す王がいると。何が悲しくて妹まで殺さねばならんのだ―――単なるうわさだというのならば、いま、ここで否定してはもらえないか」
「黙れ黙れ、下賤の者!今に貴様も
「私は命乞いなど決してしない」
「ほう、ではすぐに処刑の準備だ」
「ふん、今すぐにでも殺せばいいさ、だが市民は見ているぞ王よ、いいか、この悪徳の―――」
メロスは悪びれずに最後まで言い切るつもりだった。
人殺しを咎めることに迷いはない。
仮にも国の長がこんな調子だと、どうせ近いうちに、側近か何かに毒を盛られて暗殺されるであろう。
それに近いことは起こる。
正義は必ず勝つのだ。
市民の眼前でこんなことを続けるようなら、先は見えたというものだ。
巨悪に立ち向かうという優越感にも酔っていた。
しかし、そこでふと、思い出す。
「ああ―――なんてことだ、しかし、その前に用事がある、大切な用だ。妹の結婚式がある」
「なに?ではそこのお前の友人を、人質にしておこう」
「え、セリヌンティウスを---?うん、まあいいだろう」
「えッ!?俺が!?」
「邪知暴虐の王よ、時間をくれ―――三日間だ、三日間だけ待ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!メロス!メロスゥゥゥゥ~~~ッ!!」
情けない表情のまま憲兵に引きずられていく、セリヌンティウス。
哀れなセリヌンティウスはメロスの代わりに、とりあえず牢屋に放り込まれたのだった。
この友人は涙目になりながらも、意外と素直にメロスの言うことを聞いてくれた。
というのも、メロスの後先考えぬ性質を知り尽くしている程度には、付き合いが長かった。
一方メロスは悪考した。
メロスは王様を糾弾するついでに、妹に近付かんとする悪い虫をこらしめるのも悪くない―――そういう下心を、いや、策を持っていた。
セリヌンティウスはメロスにとって悩みの種でもあったのだ。
なあに、少し脅かせば懲りるだろう、何とかして後で逃がせばいい。
メロスは村まで十里の道のりを走った。
愛する妹のために。
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