フェネサー夜話

@nutaunagi1205

第1話

ゴコクチホーの夜


かばん達一行は休憩所の駐車場にバスを止めて眠りについていた。打ち捨てられた売店では『さぬきうどんジャパまん』の幟が項垂れている。


(…ダメだ、寝れないや!夜行性だから!)

真夜中に目覚めてしまったサーバルはそのまま目を瞑っていたものの眠れずにいた。


(そ〜っと…)

仲間達を起こさぬ様に抜き足差し足でバスから降りる。すると


「やーやー どーしたのー?」

「ぅわっ!?…っと」

突然頭上から声が降ってきてびっくりしてしまう。思わず叫びかけて慌てて口を押さえた。


「フェネック起きてたの?もーびっくりしたよー!」

「まーまー。で、どーしたのさー?寝れないのー?」

声の主はフェネックだった。バスの天井に腰掛けて投げ出した脚をぶらぶらと揺らしている。


「というかー、起きてくる時に気がつかなかったのー?まーサーバルらしいけどねー」

「ゔっ…! むー、フェネックも寝れないの?」

「んー、まーねー。とりあえずサーバルも上がってきなよー」

「うん!…やっ!っと」

一跳びでバスに飛び乗る。音を立てない着地もお手の物だ。


「おぉー やるねー」

「まあね!猫科だからね!」

サーバルは小さく拍手をしてくれるフェネックに親指を立てて見せる。


「サーバルもこっちに来て見てみなよー 今日は満天の星空だねー」

「…わぁー!」

空を見上げ思わず歓声を上げてしまう。

黒い海に散らばる色とりどりの宝石達。フレンズ化する前は気づきもしなかった世界だ。しばらくの間言葉も発せずに見入ってしまう。


「…すごいねー なんだか今日はいつもより綺麗みたい!なんでだろー?」

「今日は新月だからねー。実はわざわざ起きて来たのさー」

「新月?新月って何?」

初めて聞く言葉に首を傾げてしまう。

フェネックはもの知りだ。特に空の事とか明日の天気の読み方なんかに関してはかばんちゃんより詳しい。


「…よーし、じゃーフェネックさんが夜空のお話をしてあげよー。こっちにおいでー」

「やったー!なになにー?」

フェネックに促されて二人並んで寝転がる。視界を邪魔するものは何もない。まるで夜空に浮かんでいるようだ。


「わぁー…」

「さてさてサーバルに問題だよー。何か空に足りないものがないかなー?」

「えっ!えー! うーんとねー!」

突然のクイズに慌てて視界を巡らせる。その様子をフェネックは楽しそうに微笑みながら眺めていた。


「あー! 月!お月様がないよー!?どこ行ったのー!?」

「おー よく分かったねー えらいえらいー」

「みゃっ… えへへ… 」

頭を撫でられて心地良さに目を細める。だがしばらくすると不安になってフェネックに問いかけた。


「ねーお月様はどこに行っちゃったの?いなくなっちゃったの?」

その質問にしばし黙考していたフェネックだったがやがて優しい声で話し始める。


「お月様はねー いつも太陽と追いかけっこをしてるのさー。でもやっぱり毎日は疲れちゃうよねー だからたまにこうやって隠れちゃうんだよー」

「そうなんだ!よかったー!どこか行っちゃったわけじゃないんだね!」

「そうだよー 二人は仲良しだからねー。もう何日かすると寂しくなったお月様が出てくると思うなー」

安心して笑うサーバルの頭を撫でながらフェネックもまた微笑んだ。


「あ、ねーねーフェネック、あの星はなんで赤いの?」

「んー?どれどれ、あーあれはねー…」


フェネックの優しいおとぎ話は尽きることはなく、サーバルの瞳は夜空に浮かぶ物語を映してきらきらと輝いていた。穏やかな夜は更けていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フェネサー夜話 @nutaunagi1205

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ