フェネックの膝枕

@nutaunagi1205

第1話

ゴコクチホー うんどうこうえん



お昼ごはんを済ませた後、ぼくは木陰に座り草はらで狩りごっこに興じるサーバルちゃんとアライグマさんをぼんやり眺めていた。

お腹はいっぱいで、日差しは柔らかい。ついついこっくりこっくり船を漕いでしまう。


ふと、そよ風に乗って花のような、果物のような甘やかな匂いがした。


「かばんさーん おねむかなー」

いつの間にかフェネックさんが隣に来ていた。

「二人とも元気だねー」

微笑む彼女のクリーム色の髪が風にふわりと揺れる。その度甘い匂いが僕の鼻をくすぐった。


「おーい、かばんさーん?」

「あ、えへへ、あったかくて気持ちいいからうとうとしちゃいました」

「ねー いい天気だねー。二人は私が見とくからさー、かばんさんはお昼寝しときなよー」


そう言いながら崩した膝の太ももをぽんぽんと叩くフェネックさん。

えっとそれってつまり…


「ええっ!悪いから大丈夫ですっ!」

「遠慮しなくていいよー はーいよっと」


抵抗する暇もなくころんと転がされてしまう。寝かされた太ももは柔らかで暖かい。


「アワワワ…ふぇ、フェネックさん!?」

「あはは どうしたのさかばんさーん。なんだかボスみたいだねぇ」


なぜだか胸がドキドキしてしまって落ち着かない。ついソワソワと身じろぎをしてしまう。


「寝れないのかい?ではひとつ、フェネックさんが子守唄でも歌ってしんぜよー」

「こもりうた?ってなんですか?」

「コモリウタハ「そういう名前の歌なんだよー」アワワワワ…」

「フェネックさん!?」


ラッキーさんが説明してくれようとしたけれど、フェネックさんに手の平で覆われて黙ってしまった。


「ほらー 目を瞑らなきゃー」

そうして僕も小さな手のひらでそっとまぶたを覆われてしまう


「あの」

「あかいめだまのさそり ひろげた鷲のつばさ あおいめだまの小いぬ…」


ぼくのお腹をとん、とん、と優しく叩きながらフェネックさんが静かに歌いだす。

(なんだか切ないような、懐かしいような…)

その優しいメロディに誘われるようにしてぼくはあっという間に眠りに落ちていった。


それからぼくはすっかり熟睡してしまい、起きた時には日が傾き始めていた。隣では狩りごっこですっかり疲れたのだろう、サーバルちゃんとアライグマさんが爆睡していた。


フェネックさんと並んで夕陽を眺めながらぼくは尋ねてみる。

「フェネックさん、あの歌って何処で覚えたんですか?」

「んー?それはねー」

ちょいちょいと手招きをされフェネックさんの口元に耳を寄せる。


「…秘密。ふーっ」

「ひぇっ!?」

突然耳を吐息でくすぐられて変な声が出てしまう。


「も、もー!フェネックさーん!」

「ふっふっふー かばんさんもなかなかからかい甲斐があるよねー」


顔を真っ赤にして叫ぶぼくからぴょんと離れてフェネックさんは楽しそうに笑う。


クリーム色の髪が揺れて夕陽にきらきらと煌めく。思わず見惚れる僕に風が甘く薫った。

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