第21話 緋色のダンジョン

 騎士団本部にアリア達が戻るとラウンジにトロンが待っていた。



「おお!アリアも大変だったらしいな!こっちも有力な情報を持った奴が逃げ出しちまってよ、ダンジョンに逃げ込まれちまって最悪だよ」


「トロンもお疲れ、騎士団長の話だとなんでも討伐隊を組むらしいとの話が出ているみたいなのだが」


「そうそう!その話をさっき団長としてたんだが、今回の討伐隊に召喚された勇者をいれてほしいとの話なんだ」


「実践を積ませるためにか?」


「ああ、そういう感じであってる」


「魔物相手だけじゃなく対人戦もあるかもしれないんだぞ?まだ早いんじゃないか?」


「こういう経験を積ませるのも必要なんだとか上の方針らしいが」


「そうか…その様子だと討伐隊の部隊はもう言われたのか?」


「ああ、アリア達が来るちょっと前に決まってな、討伐隊には俺の部隊と勇者とアリアの部隊で行ってほしいとの話だ」


「私とトロンの部隊か」


「まだ奴らもそんな奥まで入り込んでないはずだから、準備が整い次第出発しよう」


「お兄ちゃんあんまりアリアたいちょーに迷惑かけないようにね!」


「うるせー!パトラ!お前のほうが面倒かけるなよな!それでなくても毎朝セレスちゃんに起こしに来てもらって迷惑かけてるだろが!」


「お兄ちゃんが起こしてくれないからだし!」


「甘えるなバカ!」


「まぁまぁ落ち着いてパトラ、トロンさん、そういえばその勇者という方は今どこにおられるんですか?」


「ん?勇者か?勇者は今鎧を見繕ってもらってて、騎士団の武器庫の方へ行ったが、あ、噂をすれば戻ってきたぞ。」



 ラウンジの奥にある部屋は武器庫となっていて、様々な武器や防具が保管されており、ここで大体は装備をそろえることとなる。

 奥の部屋からガシャンガシャンと音を立てて新しい鎧に身を包んだオクムラタダシがぎこちない足取りでこちらに歩いてきた。



「い、いやーなかなか鎧っていうものは重いですねー、これを着て戦うとなるとすぐに息があがっちゃいそうですよー」



 オクムラは自分の姿を再び確認しながら色々と動かして答える。



「慣れれば自然に馴染むし、魔法とかで防具の重量軽減できたりすればあまり気にならなくなるよ」


「はーなるほどー、重力軽減魔法ですかー、んー、まだポイントが足らないみたいだなぁ」


「ポイント?」


「あ!いえなんでもないです」



 ポイントとはあれだろうか、以前異世界人の孫であるターナー=タチバナが教えてくれた情報の中に異世界人はポイントで能力を鍛えたり、技を覚えたりするという話だった。

 おそらくオクムラも同じような感じでポイントで技を覚えていくのだろう。

 ポイントは経験値と呼ばれるもので魔物や人などを殺すと手に入る。その経験値がポイントとなって能力上昇や新たな技の習得に繋がるという。



「オクムラ、初のダンジョンへの出撃だが、なにかあったときは私たちがフォローするから安心してくれていい、君はダンジョン内の魔物の迎撃を主におこなってほしい」


「わ、わかりました。」



 準備を整えた我々は都市の隣にある、緋色ひいろのダンジョンへと急ぎ向かった。


 緋色ひいろのダンジョンはこのガルディア都市が管理している都市で北東に位置した場所にあり、都市に隣接りんせつした地下洞窟である。

 普段はこの都市の冒険者などが経験を積むためや、大量に増えてしまった魔物の駆除を行っていたりするところで、受付や道具屋が洞窟の前にはあるはずなのだが今は誰一人としていないようで、辺りには戦った後なのだろう血痕がいたるところに見られた。



「トロン、逃げた奴隷商とその協力者は何人くらいいたんだ?」


「奴隷商が一人と奴隷らしき親子が二人人質に取られていて、その協力者が10人程いる。」


「協力者が10人もいたのか、その親子はまだその時は外傷とかはなかったのか?」


「俺が見た限りじゃなかったはずだ。早めに助け出してやりたいな」


「ああ、絶対に助け出そう」



 このガルディア都市では奴隷は禁止されている。

 国王であるナグル=ウル=ガルディアが10年前に発令し、全面的に禁止になった。奴隷商は他国からの敗戦者やお金のない子供などを無理矢理奴隷契約し、愛玩具や労働力として働かせる極めて悪質な商人であり、見つけ次第捕縛または討伐となる。

 あの貧民街でみた奴隷達は皆人としての自由など持たせてはもらえず、実験道具にまでされてしまっていた。あんなに幼い子供たちが魔物と融合させられて、今でも思い出しただけで吐き気がする。

 あんな悲劇を生まないためにも一刻も早く捕らわれてる人達を助けなくては…


 緋色ひいろのダンジョンはオレンジの大理石が鍾乳洞しょうにゅうどうのように連なっていて、足元まで明るく照らしている。


 夜になっても明るいことから、このオレンジの大理石はこの都市では様々な明かりの源としてランプや街灯などに使われている。なんでも日中に太陽の光を吸収して溜め込む性質を持っているらしく、異世界人の人がいうにはまるでソーラーパネルのような石だとのことだ。



「ここからは俺と勇者が前衛で第4部隊が中衛、アリア達第一部隊が後衛でいいか?」


「ああ大丈夫だ」


「っひゃー初の戦闘かーわくわくすんなー」



 トロンが決めた配置に付き洞窟内に入ろうとすると後ろから小さな声で話しかけられた。



「兄様、あの勇者さん本当に大丈夫なんですか?なんだか不安があるのですけど」


「一応騎士団長からもその話はしてあるはずだけど、やっぱり見ててそう思うか」


「ええ」


「たいちょーあの人目がやばいよ、目の下に隈とかあるし」


「こ、こらパトラ、人を見た目で判断するんじゃない、カルマンさんに会った時だって同じようなこと言ってただろ」


「そうだったっけ?いやいや、ちょっとちがうよー」


「パトラの言うことはあんまり当てになんないっすよ」


「同感だな」


「ひどいなー二人とも!」


「さぁここからは戦闘にも入るし、もしかしたら後ろからの奇襲もあるかもしれないから気をしめていくぞ」


「「「「はい!」」」」



 洞窟内は足場がゴツゴツしていて、非常に歩きづらく、周囲を警戒しながら奥へと進んでいく。



「お、魔物が出てきたぞ、ちょうど一匹だし勇者やれるな?」


「まかせてください!」



 出てきたのはこの洞窟内に住む魔物のデビルバットという体長30㎝くらいの蝙蝠こうもりだ。

 奴らはこの洞窟内にはたくさんいてよく討伐対象などが頻繁にでているランクEほどの魔物だ。



「シャイニングエレメント!」



 オクムラの持っている剣が白く光りを纏う。この技は武器に光属性を付加する技であり、そしてなかなか光属性の技は覚えるのが難しいとの話だ。



「おりゃあああ!」



 オクムラに飛び掛かってきていたデビルバットはオクムラの光をまとった剣に一刀両断され、その姿を灰に変えた。



「やった!倒したぞ!」


「ああ、その調子で次からも頼むぞ」



 それからも出てくる魔物をトロンとオクムラが交互に軽く連携を取りながら薙ぎ倒して行った。

 第4部隊の人達も援護や回復など少しの魔物相手には基本トロンやオクムラがやっつけていたので私たちの出番はまだなかった。



「あーなんか拍子抜けです」


「こら、あまり気を緩めるな、油断が命取りになるかもしれない場所なんだぞ」



 トロンがオクムラに少し厳しめに叱る。



「あ!い、いやすみません、あまりにも簡単だったんで」


「ここはまだ入ってすぐのところだから比較的魔物も弱い傾向があるんだ。しかも今回は冒険者パーティだったら3チーム分くらいの数がいる。安全に戦えるのはこの為だ、そして今は奇襲や待ち伏せもなく魔物だけと戦っている状態だ、急な訓練になってすまないがもう少し気をしめていこう」


「あーはい、す、すみません」



 再び魔物が現れる。今度はデビルバットが4体とオレンジゴーレムが3体だ。

 下に降りる階段の近くにさしせまったところで先ほどよりも多く魔物が出てきてしまった。

 オレンジゴーレムはここの鉱物を食べたせいか体がオレンジに発光している石のゴーレムで体長は60cmとそんなに大きくはない。



「サクサクっとやっちゃいますから!」


「あ!ったく、第4部隊俺らは飛び回ってるデビルバットの迎撃からだ」


「「「「「はい!」」」」」



 オクムラが光を帯びた剣で次々とゴーレムを切り崩していく、4体のデビルバットは第4部隊の人たちの弓の連携で苦戦もなく迎撃していった。

 最後のゴーレムを切ろうとオクムラは駆けていくが、最後に残ったゴーレムは身を翻し一目散に下の階に逃げて行った。



「あっ!待て!」


「ちょっ!お前が待てオクムラ!」



 トロンが慌てて呼び止めるが後を追うことに夢中になったオクムラはそのまま下に降りて行ってしまった。

 急いで私たちも下に降りるとそこには多くのゴーレムの群れがいた。



「なんでこんなに…」


「あれほど先に行動するなと言ったろ…うわ異常繁殖してるな…この中を突っ切って奴隷商達は進んだのか?ありえないな」



 普段こういった異常繁殖はまれに起こる、だが毎回依頼が出て討伐されるとその数は減り、しばらくは起こらなくなる、さらにその情報は日々更新されていて一日のこんな短時間でこんなに繁殖するのはいままであったことがない。

 さらに、この異常繁殖があればいくら10人の協力者がいたとしてもここでいくらか足止めをされるはずなのに彼らは一人もこのフロアにはいないようだ。



「どうやら相手側に召喚士がいるみたいだぞ」


「ああ、俺もそう思う」


「あーなるほど、だからこんなに魔物が多いんですか」



 召喚士とは魔物を召喚して戦わせる魔法を持った者であり、使役する魔物によってその者の魔力量などがわかるようになっている。

 これだけの量のゴーレムだかなりの使い手とみていいだろう。

 周りを見渡してみるとざっと100近い数の大小さまざまなオレンジゴーレムがいる。



「狙いは単純な足止めだろうな」


「でもこんなとこで時間を食うわけにはいかないしなぁ」


「オクムラは広範囲の技なんか覚えてるか?」


「あーえっと、シャイニングレインとか広範囲ですかね?」


「ああ、それなら結構数を減らせるな」


「それと、広範囲ならそっちにはセレスちゃんがいるじゃないか」


「そうかちょっと呼んでくるよ」



 後方に待機していたセレスを呼ぶと、



「すごい数ですね兄様、どうしました?」


「ああ、今前衛で話し合ってて広範囲魔法で殲滅せんめつできないかという話が出ててなセレスの力を借りたいんだ」


「ええ、かまいませんよ、少し待っててくださいね」



 ちょっと駆け足で前衛のほうにセレスは駆けていった。



「セレスちゃんそれじゃお願いするよ」


「はいわかりました」


「えっえ!?トロンさんこの美人な人はいったい!?」


「ああ、オクムラには言ってなかったかアリアの妹さんのセレスちゃんだよ、魔法の技術が俺なんかとは比べ物になんないくらいすごいんだよー」


「ちょっとトロンさん!」


「ああ、ゴメンゴメン、オクムラはセレスちゃんと同時に範囲魔法を打ってもらいたい」


「え、ああ、わかりました」


「じゃあ頼むよ」


「では、打ちますよオクムラさん!」


「は、はい!」



 二人は同時に魔法を放った。



「シャイニングレイン!!」


「ウィンド!!」



 オクムラが放った中級光魔法であるシャイニングレインは広範囲における光の散弾を降らせる魔法だ。

 次々と光の散弾に貫かれて消滅していくゴーレム達は20匹を超えていきそうであった。


 しかしセレスの放った初級魔法であるウィンドという風魔法は本来であれば風の刃を数本しか飛ばすことのできない魔法であるが、セレスがその魔法を唱えるとまた違うものとなる。

 暴風はゴーレム達を押し流し切り刻み、そこだけ嵐が起きた後のように跡形も無くなっていた。

 残りの80近いゴーレム達はセレスの放った魔法一つで壊滅してしまったのだ。



「すげぇ…なんだよそれ初級魔法なのかよ…」


「威力の調整が難しいですね…」


「さっすがセレスちゃんだ!さすが時期隊長候補または未来の騎士団長さんだなぁ」



 オクムラは口をあんぐり開け前を見ていて、トロンは自分の娘のようにうんうんとうなずいている。



「やっぱセレスはすごいっすね」


「あんまりセレスを怒らせるなよパトラ!」


「な、なんで私が言われるの~!」


「「一番やらかしそうだから」っす」



 後ろは後ろで盛り上がっていた。



「よし邪魔な敵もいなくなったとこだし先を急ぐか!」


「あ!セレスさん…今度お茶でも…」


「え!?あのごめんなさい!まだ仕事があるので」



 急ぎ足で元居た後方部隊の第一部隊のほうに戻っていくセレス。



「えっ!?ちょセレスさん、 …まじかー」



 手を伸ばしかけ力なく落ちる。あからさまにどんよりと落ち込むオクムラ、その背をパンとはたいてトロンが励ます。



「ドンマイ!まぁそういう話はこれが終わってからにしよーや、進むぞ」


「はぁ…頑張ります…」



 敵を退けさらなるダンジョンの奥へと一行は進むのであった。

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