散らばったもの、あるいは、感覚をことばにする試み

青砥みつ

音を視る


吸って、吐いて、が弱まり

平らかな感覚が指の先まで広がっていく

網膜がとらえうる光の世界を離れ

皮膚はさわりうるすべてを感じ取らなくなる

景色や物にあふれた現を忘れて音を映し、触れ

果てに、身体は音の容れ物になる

臓器は共振し、骨が波を受け すみずみまで満たされていく

にじみ出た音は強靱な膜をはり 閉じこめられる

音が止まぬかぎり破られることのない護衛のなかで

わたしは、音を視る


角の取れた四角、ぱらぱらと降って

なめらかな曲線、左上から流れていく

訴えかける言葉、呼吸と声帯とくちびる

知の壁に阻まれ 届かない言葉

破裂音 歯擦音 有声 無声

ひたすら 受け取られるのを待っている

拾い上げる抑揚 高鳴り 静まり

透明 無機質な図形が浮遊する

こぼれていく意味、すくえないままに

伝えたさだけが つらぬくように交差し

目の前にはただ、白黒灰の畝が連なる

鋭利でいびつな三角が高く白くきらめいて

なめらかな重い布が低いところでたなびく


閉ざされた孤独のなかで

この音を作ったひととつながっていく

同じ音を聴くひととつながっていく


唐突に音を止める

はだかになったような気分

守られていないあやうさが襲いかかる

絡みあう無音 絡みあう無音だけが

無防備なわたしをひとと結びつける

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

散らばったもの、あるいは、感覚をことばにする試み 青砥みつ @aotohmitzu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ