第4話 最後の決戦ポール VS ジョン VS ポール
空は赤く染まった。
それは朝焼けなのか夕焼けなのか、大気が汚染され、空気中に化学物質のチリやホコリがたくさんただよっていると、太陽光はどんどん散乱してしまい、ますます赤い光だけが地上に届き、大気が汚れているときほど、まっ赤な夕焼けが見られるという現象も、ポールにはもはや過去の遺物だった。
ジョンとの決戦。
ふくらはぎの血栓。
市長決定選挙。
時代を反映した社会風刺ばかりが頭をよぎる。
それほどポールの精神状態は不安定で、集中すら出来ていなかった。
「奴は一体どこから現れるんだ・・・」
ポールは待ち合わせの場所であるデパ地下のお惣菜コーナーにいた。
過去19回の対戦では83%で不意打ちを喰らっているだけに、最終決戦である採集血栓の今回は不意をつかれても動じない姿勢を貫くつもりだった。
かばんの柄。
コンタクトレンズの保存液。
ミラーボールの天井との設置点。
マフラーのタグ。
どれも想像を絶するところからの不意打ちであったために、今回はサーモセンサーまで用意した。
半径1m以内に35℃~37℃の物体が接近した場合に、400km先のセコムセンターに通報され、2時間以内にセキュリティスタッフがやってくるという契約のものだ。
月額¥5,480は決して無駄ではなかったと、今夜は安眠できそうだ。
ポールは新調したテンピュール枕の使い心地に思いを馳せていた。
枕・・・
!!!
ポールは近くにあった誰かが盗んだバイクで走り出した。
バイクに乗車した上で更にポールは走り出した。
枕で真っ暗。真っ暗でサラ・マクラクラン。
そう、きっとジョンはサラ・マクラクランの代表作スウィート・サレンダーになぞらえて、カナダとの国境から攻めてくるつもりだ!
それほどポールの言語中枢を司る左脳は卒倒していた。
そのときふとスピードメーターに映った人影に目を取られた。
・・・・・
あ!あれはジョン!
ジョンは乾物に混じって一緒に真空パックされていた。
またしても不意をつかれた。
こうしてポールの夏は終わった。
思い起こせば、七夕の夜から始まったこの熱戦。
力投むなしく味方のオウンゴールで2週差をつけられドボン。
その後のマッチポイントも千秋楽でまさかのTKO。
オッズが先行し、話題性ばかりで2連続天井。
そうだ、
帰ろう。
9月1日~11月30日の禁止期間に和邇川でアユを含むすべての水産動物を採捕してやろう。
採捕禁止期間には、保護水面監視員が区域内を巡回して産卵・繁殖保護の啓発・指導にあたっているので、二ゴロブナ・ホンモロコの産卵繁殖に重要な区域が水産資源保護法に基づく保護水面に指定されていることを再認識してやろう。
こうしてジョンは20回目の対戦を勝利で飾り、ポールはデビューを断念した。
48年にも及ぶ二人の戦いがこうして幕を閉じたことで、世界に再びムーブメントが起こった。
これが後にいうビートルズ騒動である。
*長らくのご愛読、ありがとうございました。
私の父、ジョンも喜んでおります。
無重力の2時 大垣伸悟 @shingoogaki
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