第2話 酒と男と涙とお琴
飲み干したばかりのスプレー缶を丹念に磨いていた時のことだった。
ふとポールは背後の臨場感に気付いた。
これはアーケードでは味わえない巧みな駆け引きだ。
そうここはスプリングフィールド。
ハードボイルドなデンジャラスガイがパティシペイトする街。
誰もがTOEIC380点以上を叩き出す街だ。
忌々しき真実を漫画で思い知らされて早4年。
ポールはすっかり魂を抜かれたパン屋のようになっていた。
いやパン屋になりたかったサーカスの少年のようだった。
実際ポールはパンが得意ではなく、パン渡りはおろか空中パンも得意ではない。パン乗りですらだ。
そのためポールはパン屋をあきらめた。
それほど失望していたのだ。
くそぅ・・・ジョンめ・・・
ジョンの天使のような うなじが今も夢に出てくる。
我が子と同等以下かそれ以下の様に育ててきたはずだった。
手塩にかけた娘を嫁に取られる父親の友人代表の式前夜のようだ。
そのときポールは我が目を疑った。
ジョン・・・??いや、捨て子??
いやジョンと捨て子のコラボレーション??
いやジョンと捨て子と捨て琴のコラボレーションだ!
涙でかすんで前が見えないポールは、想像で楽しんだ。
そうあの日のように。
本来ならここで我が子を抱きしめるように振舞いたいのであるが、とてもじゃないがこんな荒れた唇じゃ近くで見られたくないとばかりに極度の緊張からか必死に塗るリップクリームが ぶれて口の周りにはみだして、折れて、3本も使ってしまった。
「我が子よ!」
初めて我が子と呼べた瞬間である。時間にして約1.24秒。
地球が788,400,000分の31周した瞬間である。
運命的な再会に全米が泣いた。
全英も泣いた。全仏も泣いた。全独も泣きたかった。
全日は三沢のせいで泣けなかった。馬場なら泣いていた。
「漫画は売れたのか・・・??」
「売れなかったのか??」
「そうか・・・」
果たして漫画は売れたのであろうか!?
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