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 近いように見えて、峠の家までは小学生の足で意外と十五分ほどかかったという。

 林道は、T君の家の裏を右に蛇行したあたりから、その家までほぼ真っ直ぐに続いていた。夏ということもあって、一度は整備されていたはずの道にはもう雑草が生い茂り、人気のない場所に特有の荒れた雰囲気があった。蝉の鳴き声もいつもよりやかましく、まるで警告されているように感じるほどだった。

 しかし、肝心の峠の家の前まで来てみると、真新しく清潔で、どう見ても何かが出てくるようには思えない。比べてしまうと、自分の家のほうがよっぽどお化け屋敷に見えることだろうと、T君は思った。

 その家は、全体的に四角いユニットが組み合わさったようなしゃれたデザインで、一階部分は二階よりも大きく幅があり、外壁は少し灰色がかった色だった。

 それに、建築の際にある程度伐採したのだろう、まわりの木々もそれほど密生しておらず、建っている場所そのものが明るく開けている。

 夏の日差しがくっきりと峠の家を照らしていて、三人は拍子抜けした。肝試し、などと散々盛り上がっていのが白々しく感じるほどである。

 最初に行こうと言い出した友達がすたすたと玄関まで歩いていき、そのまま二回、何の躊躇もなくノックをする。

 ほんの一瞬だけ緊張したものの、当然、何も出てこないし何の反応もない。

「何もなさそうやなあ。昼間やから、あかんのかもしれん」

 ここまで来てたったこれだけではつまらない。

 T君は母親にばれないようにさっさと帰るつもりだったのだが、三人は念のために家のまわりをぐるっと一周してみることにした。

 とはいっても、特に見るようなものがないのは初めからわかっていた。全体が四角い形のため隠れているようなものは何もなく、勝手口も含めて戸はすべて鍵がかかっていた。リビングに面しているのだろう大きいガラス戸には雨戸まで閉まっている。玄関横には、屋根が付いた大きめのカーポートがあって、当然、車も何も停まっていない。

 さっさと一周し終えた友達が呆れたように言う。

「ここ、ほんまに出るんか。おまえの家のほうがなんか出そうなんやけど」

「さっき、前に人影見たて言うてなかった? それってどこなん?」

 確かあそこやってんけどなあと、わざらしく首をひねってみせて、T君は二階の窓を指差した。

 すると、

「あれ?」

 三人がほぼ同時に声を上げた。

 窓が開いている。

 登ってくるときには確か閉まっているように見えたのに。

 その時から少し怖くなった、とT君は言う。

 自分の作り話にも関わらず、実際にその窓を目の前にして、しかもいつの間にか開いているのを見た時から、である。

 閉まっているように見えたのは勘違いだろうか?

 建てた時に作業員が閉め忘れるとも思えない。

 だとすると、一体誰が開けたのだろう?

 そして、それは一体いつなのだろう?

 もうずっと前なのか、それとも、自分たち三人が登ってくる直前なのか。

「あそこから登ったら、中に入れると思わん?」

 ひとりがカーポートの屋根を指差して言った。

 確かに、開いている窓のすぐ下にカーポートの屋根がある。しかも、カーポートには唐草模様のようなフェンスが備え付けられていた。

「ほんまやな。あそこからよじ登ったらいけそうやわ」

「よっしゃ」

 おれは反対したんですけどね、とT君は言う。

「でも、まだ十分に明るかったし、盛り上がってきてたのもあったしで。ほんとはお化け屋敷でもなんでもないことはわかってましたから、最初は反対してましたけど、結局登ってみることにしたんです」

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