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 小学五年の夏休みのある日、T君の小学校の同級生がふたり、泊りがけで遊びに来たことがある。

 峠の家が完成してから一年ほど経った頃のことだ。

 元々は三人で泊りがけのキャンプに行く予定だったのだが、引率するはずだった同級生の親が仕事の都合で行けなくなり、急遽、夏のキャンプの代わりに、ということだった。

 帰りが遅くなってしまうため、普段からほとんど友達が自分の家に来られないのもあり、T君は今回の臨時キャンプに大いに張り切っていた。

 しかし、全部で三日間の予定のうち、はやくも二日目で飽きが来てしまい、最終日には惰性で何時間もテレビゲームをやり続ける始末だった。最初こそ山奥のキャンプに来たような高揚感があったものの、家のまわりにあるのは畑と虫だけで、キャンプファイヤーも飛び込める川もない。かくれんぼや鬼ごっこはこの二日間でやり尽くしてしまった。結局、昼過ぎにはテレビゲームにも飽きてしまい、

「なんもやることないやん。おもんないなあ」

 と、ふたりから言われてしまった。

 T君はそう言われた焦りと悔しさから、ついつい、こんなことを口走ってしまったのだという。

「うちの家の裏にはな、お化け屋敷があんねんで」

 それを聞いた途端、ふたりの友達は興奮してあれやこれやとT君を質問攻めにした。

 夏休み、山奥、そしてお化け屋敷の組み合わせとなると、小学生を大いに惹き付けるのも当然だろう。

「そのお化け屋敷ってどんな話があるん?」

「どんなやつが出てくんの? おまえ、もしかして見たことあるんか?」

 T君はその場でとっさにこんな話をした。

 都会から引っ越してくるはずだった一家が、その直前に交通事故に遭ってみんな死んでしまった。

 引っ越しが終わる予定だった翌日から、夜になると時折、家の前の林道を登っていく複数の足音がする。

 しかもある日の夜、峠の家の二階の窓から、こちらをのぞく三人の人影を見た。

「えええ? めっちゃ怖いやん、それ」

「おれ、いまめっちゃ鳥肌立ったわ」

「そんなおもろい話、なんで今まで言わへんかってん」

 ふたりの興奮した様子に、T君はさすがにちょっとまずいなと思い始めた。なので、ふたりを怖がらせたくなかったし、そもそも親からこの話は他の人にするなと言われていると、声をひそめて伝えた。

 また、絶対に峠には行ってはいけないと強く言われている、とも。

「…なあなあ。ちょっと行ってみいへん、その家」

 と、案の定、とうとうひとりが言い出した。もうひとりの友達も、しきりに行こう行こうと誘う。

 こっちは三人いるし、まだ昼の日中で明るいから大丈夫、と。

 実際に何か出てきたとしても。

 T君は、でもとか、お母さんがとかなんとか言い訳を考えて並べ立ててみたものの、もうあとには引けなくなっていた。ここで嘘だと白状すれば、夏休みが明けたあと、学校でどんなことを言いふらされるかわからない。

 それに、今のは自分の作り話であって、現実には誰も死んでなどいないのだから、何も起こるはずがなかった。

「あとそれに、一度家の中を見てみたいなというのもあったんです」

 そこでT君たち三人は、その家の前まで行ってから玄関をノックしてダッシュで逃げてくる、という肝試しの計画を立てた。

 そうと決まれば、まだ外の明るいうちにと、なぜか念のため、納戸からアウトドアで使うような大型の懐中電灯を一つ持ち出し、家の下の方で畑仕事をしている母親の目を盗んで林道を登っていった。

 峠の家の、二階の窓を見上げながら。

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