第14話 露ほども

ねえ、あなた、ご存知でしたか。

妾はあなたのこと、露ほども愛しておりませんの。

それなのにあなたは勘違いなさって、会うたび妾に他の女の話ばかりなさるから、可笑しくて仕方ありませんわ。

先日の夜に、列車で御一緒した時子さんという方から、あなたの噂をお聞きしました。

なんでもあなたは、千住に住む女性に心酔なさって、彼女の家のそばで毎朝待ち伏せをして、大変疎んじまれていたそうではありませんか。

みっともないこと、この上御座いません。

妾が恥ずかしく思うのを、あなたは理解できませんでしょうけど、

あなたの恋人であること自体が妾にとって恥なのです。

半ば自暴自棄になって、金輪際あなたとの連絡を断とうとも考えたのですが

憤怒した鬼の形相で、あなたが妾の家にいらしても嫌なので、それは止しました。

妾はあなたの言葉遣いや金銭感覚が理解出来ません。

よくもここまで正気で生きてこられましたこと。

妾なら、とうに恥ずかしくて発狂しておりますわ。

生きることの苦しさの要因のほとんどは、あなたとのことなのです。

もう、誰にも迷惑をおかけにならないでくださいまし。

そして、妾の前に二度と姿を見せないでくださいませ。

妾、きっと今より綺麗になり、仕合わせに成りますから

どうぞご安心ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

落ち葉拾い 辻島 @miko_syuji619

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ