第11話 劣等感

それは、一つの小さな誤解が執念深く侵食し、やがて大きなわだかまりとなって、後味悪く残るような感覚に似ている。彼女にとっては無意識であることも、小心者の私には、気に病むに十分なことなのである。平静としていても、頭の底が、虫に喰われるようにイガイガする。

いつも一緒にいるからこそ、感じる劣等感も大きい。とはいえ、別れを切り出す勇気もないし、例えしても強い自責の念に駆られて一生後悔するかもしれない。彼女は至って真面目な現実主義者だ。だから、私のような幻影に生きる者が、彼女の歩む正しい道を塞いではならない。私はせいぜい、路傍の石としての役が与えられれば十分であろう。それが、日陰者の定めなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る