一緒に眠ろう
いったい何時間眠っていたのだろうか。目を覚ましたらもう親は出かけていた。出張だという。次の瞬間、不思議な感覚がした。びっくりするほど部屋が広くなってるみたいだ。今までこんなことは無かったから、遂に頭がおかしくなったか、と笑う。そのとき、物音がした。フミがいるんだな。でも、どこにいるの?見渡す限りいない。気になってベッドから降りると、想像以上に段差があり、上手く降りれず頭から落下する。まるで自分が縮んだみたい。意識してみたら身体が少し暖かい…。
「やあ起きたかい。」
声がしてその方向を向いたら、フミがいた。フミが言葉を話してる…!?
「かなり長い時間寝てたなぁ。それにひっどい落ち方したな。大丈夫か?」
「え?フミが喋ってる!?喋れるの!?」
「え、お前気づいてないの?」
「気づいてないのってなにを……あ…れ…。」
やっと違和感に気づいた。フミが全く同じ目線にいる。そして自分の腕を見る。……毛が生えてる。猫の…。
「ね、猫に…なってる……。」
「ほんとに今更だな。」
「え、これなんで!?なんで猫になってるの!?」
「ああ、俺がやった。」
衝撃の事実。色々混乱してきた。
「なんでそんなことしたの!?」「なんでって、言ってたじゃん。猫になりたいってさ。今日なら猫になってもお母さんもお父さんもいないし、気楽だろ?」
「ね、ねえフミ夢なんだよね!?夢だから変身できたしフミとも話せるんだよね!?」
「夢だと思うの?証拠なら示せるよ。」
フミがすばやく後ろに回り込み尻尾を噛んだ。
「いっっっっだぁぁぁ!!」
激痛。人間の身体ならどこを噛まれたことになるんだろう。腰かな?
「ほら、痛いだろ。夢じゃないんだ。まだ信じられないか?」
確かに夢じゃない…。本能で確信した。渋々頷いた。
「さあ、せっかく猫仲間が増えたんだ。お昼寝スポットとか涼しい場所、楽しい場所…猫にしか行けない場所を教えてやるよ。」
猫にしか行けない…。秘密の場所…。私の冒険心に火がついた。猫の間だけでも楽しんでやろう。
「おーい、行かないのか?」
とってもわくわくする。
「待ってよ!!」
駆け足でフミについて行った。 「まずはご飯を食べよう。」
そう言われてついて行った先にあったのはリビングにあるキャットフードが沢山入っている皿だった。
「え、これ食べるの?」
思わず躊躇ってしまう。
「当たり前だよ!味覚も当然猫なんだから食べられるよ!」
でもなぁ…。普段自分がペットにあげているものを自分で食べろって言われたら躊躇うのも無理ない。
「食べないと身体に悪いよ?猫の身体なんだし毒じゃないんだからさ。」
そう言ってフミはいつも通り食べる。やっぱり覚悟を決めて食べないといけないか。
「はい、今はこれで終わりかな。あんずどうぞ。」
そーっと近づいて少し口に入れる。匂いは普段フミにあげている時に漂う匂いと一緒だ。恐る恐る噛む。…まぐろの味。
「まぐろ…だ。」
唖然としながら言う。
「まぐろ味だもん当然だな。でも人間の心を持つ猫が食べてもまぐろって思うんだな。すげえ。」
フミは興味深そうに言う。
「ずっと思ってたけど17歳のお年寄り猫のくせに妙に若々しい口調なのね。」
「人間に飼われてたら嫌でも人間の流行が入ってくるんだよ。特に乙女アニメオタクのあんずに飼われてたら尚更だ。」
「そんなこと言わなくてもいいじゃん!」
拗ねるように言 ったが私がオタクなのは自分でもわかってる事なので別に深く気にしてはいない。それどころか少し機嫌がいい。まあ、不服にも美味しいと感じてしまったキャットフードを食べたからというのもあるだろうが。
「あーこの時間になるとやっぱり暑いなー。」
冷房の効いてない廊下を歩いている。やはり人と比べて猫は歩幅が狭いので時間もかかる。
「私が学校行ってる時冷房付いてないのにずっと過ごしてられるフミって凄いよね。どうしてるの?」
「それを教えるために向かってるんだろ。」
そうこう話している間に目的地に着いた。そこはお父さんの部屋だ。
「お父さんの部屋?なんでこんな所に…。」
「基本的にあんずの部屋にいるが、あそこすっごく熱がこもりやすいから3時くらいまでめっちゃ暑いんだわ。部屋の配置的にお父さんの部屋がある一番涼しいんだ。」
説明されるも、私にとってはまだまだ暑い。熱がこもりやすいとかこもりにくいとかもよくわからない。
「特に涼しいのはここ!」
案内されたのはお父さんの仕事道具が沢山並んでいる棚の下だった。 「なんでここがいいの?」
「この棚は鉄製だろ、それがうまい具合に冷たくて気持ちいいんだ。」
沢山の本やメスなどがある少し危ないお父さんの棚。お父さんは医者をしている。外科医。基本的にお父さんの部屋に入ることは許されていなかったから、ほとんど初めて部屋に入るような感覚だった。そして趣味で実験をしてるのか知らないが、ちょっと消毒液臭かった。
「よくこんな所で寝れるね。」
「猫は体質的に眠くなりやすいんだよ。匂いなんて眠ければ気にならねぇ。」
「いや、匂いだけじゃなくて…。」
フミが入っていった場所はあまりにも狭く、苦しそうに見えた。そんな所で寝たら出られなくなってしまう。
「いいからいいから。」
フミは強引に私を引きずり込もうとする。
「わかったから引っ張らないで!」
仕方なく入ってみる。
「わあ……。」
そこから見えた世界は秘密基地にいるようなドキドキ感と程よい狭さの心地よさがミックスした世界。まさに猫にしか見えない世界だ。何もかもが大きく見えるが、こうしていると更に大きく見えてまるで小人になったような気持ちになる。
「どうだ、いいだろう?少しここで寝よう。」
「そうだね、疑ってごめん。…あれ?」
私 が謝ったらすぐにフミは眠ってしまった。フミはほんとに寝るのが早い。その長い毛並みがいい毛布になっているのだろうか。私はそこまで長くはない。おそらく髪が短めだったことが原因だろう。長いと綺麗だな、とフミを見つめていた。特別なブラッシングをしてあげているわけではないのに、とてもつやつやな毛並みが目の前にある。見ていて飽きないとはこの事だろう。いつの間にか私も眠っていた。フミのふかふかの毛並みに触れながら。 気がついたら夕方になっていたようだ。フミはすばやく棚の下から抜けて毛づくろいをする。
「ちょっと、私のことひっぱり出してよ。」
「ったく、しょうがねえなぁ。」
少し強めにひっぱって私を出す。
「もう、痛いってば。」
「そうでもないだろ。さて、このくらいの時間なら部屋で寝るのがいいな。」
「え、また寝るの!?」
「なんだ、嫌か?」
「いや、別に…。」
フミはすたすたと私の部屋に戻っていく。私も後に続いて部屋に戻る。
「てかここ私の部屋であってフミの部屋じゃないんだけど!?」
「知るかよ。俺の方が長く家にいるんだし俺の部屋でもいいじゃん。」
「よくないよ!そういう理由で今まで勉強の邪魔したりしてきてたの!?」
そんなたいしたことない話をしながら歩いていたらベッドの上に着いた。
「最近枕二つにしたからお前も枕使えるな。よかったな。」
「こんなことになるとは思ってなかったしフミのために買ったわけじゃないよ!」
そんな話をしながらお互いの寝場所を決めた。カーテンから暑すぎない光が入ってくる。まるで春の陽気。
「あっという間に眠くなってくるね。」
「この時間いいだろ?お前はいつも部活で寝れないが休みの日とかこの時 間に家にいれる日はこの時間に昼寝するといいぜ。」
「そうだねー。もっと早く知りたかったなー。テスト勉強の合間のお昼寝にちょうど良さそう。」
「そういえば腹減ってないか?俺は眠気の方が食欲より強いからこの時間に食べることはないが。」
「大丈夫だよー。いつも以上に寝てるせいかいつもより食欲ないから。」
「そうか。俺この場所を一番教えたかったんだ。人間でも寝れる場所なのに知らないのはもったいないだろ?」
「そのために私を猫にしたの?」
「それもあるかもな。」
フミはそう言って少し悲しそうに笑った。なんでそんな顔をするの?聞きたかったが、今は聞く時じゃない、と思った。
「じゃあ後でほかの理由も教えてよね。」
「教えないとダメか?」
「当たり前だよ!いきなり猫になったんだからどうしてそうなったかの理由はわかっておかないとね。」
「わかったわかった。とりあえず寝ようぜー。」
またすぐ眠ってしまった。ほんとに猫ってよく寝るな。話せるのは今のうちなんだろうからもっとお話したいのに…。私は、2度とフミと眠れないような気がしてしまった。人間になっても眠れるでしょ。そう考えながら眠った。
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