第18話 留学生と、河野さん。

 翌日登校してから、僕は一切ペンを持つことなく、寝たふりをして授業をやり過ごしていた。教師らは、他の大勢と同じような態度を取る僕を止めることはなく、ただ時間だけが過ぎていった。

「八代さん、ちょっと緊急でお話ししたいことがあるんだけど」

 昼休みに入ってすぐに、河野さんが話しかけてきた。学校でまともに会話したのは初めてだったかも知れない。とにかく僕は、人気のない廊下に向かう彼女に着いていくしかなかった。

「今日、ずっと授業を受けていなかったよね、それはなんで?」

 河野さんは全てを見透かすような目で僕を見つめる。

「精霊の力が強まっているんじゃないかな。ペンを握ろうとすると、折れてしまうんだ」

 はぶらしもまともに持てない僕は、かすれた声で素直に答えた。

 彼女は大きく深呼吸してから、声のトーンを落とした。

「契約についてかかれた文献を、親にばれないように少しずつ読んでいるの。契約者の誰もが、成人している。つまり子供の契約者は前例にないの」

 僕の反応を覗うように間を置いたが、僕は表情を変えなかった。

「だから、もしかすると、子供だとさらに契約満了の期間が短くなるのかも知れない。今まで普通に授業を受けていたのに、いきなり寝たふりを始めるなんて、おかしい話でしょう」

 本当に彼女はよく僕を見ていると思った。

「・・・・・・でも、それがわかったからといって私がやれることは・・・・・・ないのだけれど・・・・・・」

 彼女は急にしゅんとなった。

「いいよ、調べてくれただけで、ありがたいことだから」

 僕はぎこちなくフォローしたが、彼女の表情が明るくなることはなかった。


 帰宅してからすぐに、ジノリアに声を掛けられた。

「龍太、ちょっと緊急で話したいことがあるんだけど」

 僕はさっきの河野さんとの会話を思い出し、大きくため息をついた。

「龍太、お願いだよ、私は龍太を助けたいんだ」

「僕の命を削っておいていう言葉?」

「・・・・・・うん・・・・・・ごめん」

 彼女は親が周りにいないか大げさに確認した後、

「二階で話させてくれないかな、契約について、話したいんだ」

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