第15話 河野妹、推理する。

 河野さんの視線は自信なさげに落ちた。しかしきっと持ち直すと続けた。

「私佐藤さんに会ったことがあるの。その時彼は精霊について知っていた。どこで聞いたかはわからないけど――あの時は小学生だったから――とにかく、知らないふりだけしたわ。彼はいくつか質問をしたけれど、私がずっと知らないふりをしているからそれ以降は何も聞いてこなかった。同じクラスだったから、日常会話くらいはしたけどね」

 河野さん――僕の頭の中でフラッシュバックしたのは、かわのさくら、とロッカーに貼られたシールだった。

「もしかして・・・・・・僕たち同じ小学校でしたか」

 河野さんは目を丸くした。

「そうみたいね、私は女子と遊ぶことが多かったから、あまり覚えていないけれど。とにかく、佐藤さんは精霊について知っている。そして八代さんは、その精霊によって契約されている。佐藤さんは契約の方法を知っている可能性が高い」

 彼女はすらすらと言葉を並べると、改めて、手に取るように自分のそれを吟味し、そして頷いた。

「契約していないとしても、八代さんの契約に関係があることは、確か。私たちは佐藤さんを探せば糸口が見つかるのではないかしら」


 彼女の名推理と高い記憶力をまざまざと見せつけられ、あっけにとられていた僕は、はっと我にかえると半ば強引に帰路についた。

 あらゆる情報が僕に与えられ、そして決断を迫られている。僕を試されている。そんな気がした。最優先事項は何か。陽太がいつも問うていた。僕たちが意見を述べると、なるほどそういう考えだね、僕はこう考えたけど、どうかな、と至極正論を述べ、僕たちは納得し作業に取りかかった。サンタクロースという知名度が上がってきた時、彼は「悪い子には悪いプレゼントをあげなきゃね」と新たな活動を始めることを宣言した。プログラムなどを使った不正、チートを用いる人間すなわちチーターに、人間の腕を持って勝つ。そういう活動を僕たちはしていた。

 陽太は今、僕に何を決断させたいのだろう。

 半ば無意識に、陽太がこれらの事件に関わっていることを確信していた。河野さんが陽太の存在を知っているかどうかわからないが、家に帰って自室にこもり、一つ二つゲームをするうち、段々と考えがまとまってきた。

 思い返せば、よく出来た物語だ。

 うちにきた留学生がたまたま精霊で、たまたま契約し、さらに精霊の使いが隣に引っ越してくる。契約解除の方法も難なく見つかったし、タイミング良く優太が誘拐された。

 僕がやるべきこと、それは、

 陽太に僕の考えを伝えることだ。

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