第11話 精霊からの、願い事。

 ジノリアがあっさりと精霊であること、正確には精霊であり今はその力を僕に託していることを口にしたことに、違和感を覚えた。

「なんでジノリアさんはそんなことまで教えてくれるの?」

 正直に疑問を口にすると、彼女は照れくさそうに答える。

「それは・・・・・・龍太が大切な人だからさ」

 変な間が空いて、彼女はぶんぶんと手を振った。

「いや、別に、そういうことじゃないんだけどさ、あの、その、家族として。ホストファミリーとして、大切だからさ」

「は、はあ」

 これ以上ない適当な相槌でも、彼女にとっては満足したようだった。

「それで、まあ、私が破壊の精霊であるわけだけれど」

 彼女は僕の机に置いてあった鉛筆をおもむろに掴み取ると、腕に筋肉の筋が浮き上がり、そのまま握りつぶした。

「こんな風に、力がない状態でも破壊することが出来るわけ。元々私はそれだけ強い精霊。だから龍太には気をつけて貰わないと。そのうち、家も簡単に破壊できるようになるよ。くれぐれも、怒りに身を任せて当たらないように」

「は、はあ」

 今度は意図的に、曖昧に頷いた。心の底のどよめきを悟られまいと勤めた。古い友人、陽太の教え。常に冷静沈着であってこそ、道は開ける、という教えだ。

「じゃあなんでジノリアさんは僕に契約したの?」

 彼女も僕と同じように、曖昧に答える。

「ホストファミリーに龍太が選ばれたからじゃないかな」

「そっか」

 微妙な沈黙だった。しかしお互い譲らない、気の張り詰めた沈黙だった。

「私から、お願いがあるんだ」

 彼女は恐る恐る切り出した。

「契約したことを、誰にも言わないで欲しい」


 数日後、登校しようと玄関から出て早々に、見覚えのある顔を見ることになった。

「あ、河野さん。おはようございます」

「八代さんおはようございます」

 お互いに挨拶を交わし、お互い無言で、当たり前のように共に学校へ歩く。

 あれから河野さんは教室に来るなり人気者になり、常に人だかりが出来ていた。気品の高さ、おしとやかさが拍車をかけ、他のクラスからも見物に来る輩が出てくるほどだった。しかし彼女は、僕に対して特に声をかけることもなく、僕もなんとなく声を掛けようとすると気が引けてしまい、何となく距離が出来ていた。

 僕の家で会ったときから、ずっと口を開きたそうにしていた河野さんは、学校へ続く最後の角を曲がった時、ようやく話し始めた。

「契約を解除する方法、家の資料にあったの」

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