第10話 彼女は何の、精霊か。

 精霊の使い。僕はいくつか精霊がモチーフになったゲームを知っていた。

「主に、どんなことされるんですか?」

 僕の問いに少し戸惑ったような表情を見せながら、答える。

「ええと・・・・・・。精霊の研究とか・・・・・・。あとは呼び出して力を借りることもあります」

「もう一つ聞いていいですか。彼女――ジノリアさんは、なんの精霊なんですか」

 彼女は完全に口を閉ざした。

 長い沈黙の後、

「それは、契約元であるあなたに術をかけ、分析するところから始まります。たいていの精霊は曖昧で不確かなもので、言葉に表現できないこともしばしばあるので、必ずわかるとは、言えませんが」

「やってもらえないんですか? 何かいけないことでもあるんですか?」

「・・・・・・いえ、精霊の使いは、基本的に精霊の存在は他の人に教えてはならないのです。姉が言ってしまった以上、そして八代さんが契約された者である以上、伝えなくてはならないと思ったのです。だから、そう、どう説明したらいいのかわからないし、どこまで教えていいのかも、わからないのですよ」

 言い終わると、河野さんの紅い唇が、少しだけへの字に曲がった。

 初対面の人を困らせるのは僕の性分ではない。

「また来ますから、なにか方法がないか調べておいていただけますか」

「・・・・・・わかりました。明日の放課後、いらしてください」

 自分の命は一秒ずつ死へ迫っているというのに、お人好しだと客観が嘲笑したが、僕は無視して、河野さんの家を出た。


 家に帰ってからジノリアが帰宅するまで少し時間があったから、テレビを見ていた。最近誘拐事件が相次いでいるとのことだった。年代は未成年の子供に偏っていて、東京の、とある市で起こっているとのことだった。

「ただいま」

 ニュースを傍観していると、ジノリアが帰ってきた。

 僕は何となく居心地が悪くなり、自室に戻った。一階からはジノリアと母が談笑している声が聞こえる。

 しばらくして、それは止み、階段を誰かが昇ってくる音がした。

「龍太、ちょっといいかな」

 ノックの音も立てずに、ジノリアの声は僕を呼んだ。

「この前のこと。全部話そうと思うんだ」

「この前のこと?」

「ここから先は龍太の部屋で話させて欲しい。誰にも聞かれたくない」

 僕はしぶしぶドアを開け、ジノリアを通した。

 ジノリアは、だいたい河野さんと同じような、精霊の話をした。

「――それで、龍太には色々疑問が沸くと思うんだ。でも私は、答えることが出来ない。答えたら死んでしまう契約を、結んでいるんだ。ただ一つ答えられることは、私が何の精霊であるかということ。これは知っておかないと、龍太が大変なことになるからね」

 一息置いてからジノリアは口を開く。

「私は"破壊"の精霊なんだ」

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