第7話 サンタクロース、ご活躍。

 僕はあの時の興奮と、単調さと、楽しさを忘れることは出来ない。

 小学五年生になったある時、隣のクラスの、今まで話したこともなかった男子生徒から話しかけられた。

「一緒にゲームをやって、世界一になろう」

 関口陽太という彼は、僕の目の奥を見るように言った。当時まだ友達の多かった僕は、いつものように、いいよ、と特に考えることもなく承諾した。承諾した後、世界一になる、という単語に気づき、改めて承諾したことを嬉しく思った。

 放課後、案内されるままに陽太の家に着いた。学校を出るときに、同じように誘われたという辻森優太が同行した。三人とも違うクラスだったが、帰り道、特に気まずさを感じることはなかった。部屋に入ると壁一面のデスクトップパソコンと、中央に段ボールと、段ボールの近くに立派な革の椅子が三つ。

「さあ、腰掛けて。好きなPCを選んでいいよ。これから僕たちはサンタクロースだ」

 陽太は楽しそうに腕を広げた。

「なんでサンタクロースかって? 陽太、優太、龍太。三つの太」

 僕と優太を交互に見つめながら続ける。

「僕たちはこれからサンタクロースであることを誰にも言ってはならないよ。サンタさんは謎の人物であってこそ、サンタクロースなのだから」


 それから僕たちは瞬く間にPCゲームの強者となった。特別な訓練を受けたというよりは、幼いからこその飲み込みの早さ、知識を提供する陽太の容量の良さがサンタクロースという強さを作り上げた。僕と優太は陽太に言われるままに操作していただけだった。

 ドラゴンという名がついたのは、僕がドラゴンのように強靱なキャラを使うことが多かったからだ。優太はゴースト、陽太は、理由は聞かなかったがニサと名乗った。

 それからは、放課後の、僕たちだけの秘密の「会合」が始まった。毎日陽太の家に集まり、ゲームを攻略し、夕飯に遅れないように帰った。

 僕たちはすぐに有名になった。年齢、性別、全て不詳の天才ゲーマー軍団とさえ言われた。プロからのオファーがあったかどうかは、僕や優太にはわからなかった。ゲームをクリアできるだけで楽しいし、取り仕切っていたのは陽太だったからだ。どのゲームを攻略するかも、いつ会合を終えるかも、全て陽太の判断に委ねられていた。僕たちが介入しなくても、間違ったことがなかったからだ。特に不満はなかった。全て任せていれば、僕は自由に遊ぶことが出来る。

 そんなサンタクロースも、小学六年生の冬に解散することになった。

 陽太は両親の海外転勤に伴う引っ越し、優太は中学受験で合格し離れた有名私立中学に通うことになったのだ。今の時代、ネットで活動を続けることも出来たが、陽太の判断によって、これにて解散となった。

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