第5話 転校生の、頼み事。
その後ジノリアに聞いても受け流されるだけで、そのまま休日は終わってしまった。ジノリアは相変わらず両親に片言の日本語を話し、僕と二人きりになると流暢な日本語で他愛もない日常的な話題を一つ二つした。
外すなと言われたリストバンドは、あの異様な雰囲気を思い出すと、触ることさえ出来なかった。
始業のチャイムがなり、一瞬間をおいてから担任の男性教師が入ってきた。
「今日は本当は転校生が来るはずだったんだが、到着が間に合わず明日からの登校になってしまう。配布物を届けて欲しいのだが、一番家が近い人、八代にお願いしたい」
だいたいそんなようなことを言って、若干教室がざわついた。
僕にはこういう時興奮を共に出来るような友達はいない。隣の、トイレで合ったても声も掛けないくらいの男子が羨ましそうに言う。
「転校生は噂によるとかなり美人らしいよ。吹奏楽部のやつが、この前校長室に入るやつを見かけたんだと。いいなあ、俺隣駅だからなあ」
いくら所属人数が多い吹奏楽部の部員だとしても、「見かけない顔」というものはあるもので、つまりそういった噂は殆どデマか勘違いだと思いながらも、苦笑いして応えた。
配布物を受け取ってからは、いつもと変わらない、孤独な日常だった。小学生の頃を思い出しては、なぜ今こうなってしまったのかと落胆した。
放課後担任から実は僕の隣に越してきたことを明かされ、若干運命を感じつつも帰路についた。今日荷物の搬入をしているそうで、夕方には一家が到着すると言われた。部活に入っていない僕は、適当に近くのスーパーで暇つぶしをしながら夕方になるのを待った。
隣の家は、この間ジノリアが失礼なことを言った家と反対方向に位置していて、確かに最近物音がしないと思っていた。親に聞けば引っ越したとか、そういうことが聞けるのだろうが、いつも部屋に直帰していたので全くそういうことはわからなかった。
チャイムを鳴らし、応答を待つ。そこそこの大きさの、そこそこの家だった。記憶に残るかもわからないほど普通の家で、小さな庭以外これと言って特徴もなかった。
「はーい」
若い女性の声だった。転校生だろうか。
ドアは思っていたより早く開いて、次の瞬間僕は玄関へと引き込まれていた。別にこの前あったような、刺されたとかそういう違和感ではなく、ただ腕を掴まれて引かれただけだった。
「こんにちは! ドラゴンさん!」
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