第2話 帰るとそこは、あったか家族。
写真で見たときと正反対の佇まいに驚く心を抑え、さも落ち着き払ったかのように僕は彼女に尋ねた。
「ジノリアさん・・・・・・今日からうちに来る留学生の方ですか。しかし彼女の写真とあなたとは、少し違ったようですが」
彼女は笑った。
「ええ、少し違うかもね。今は、そうね、染めてきたのよ。目の色も、カラーコンタクト。ほら、日本に来るから、貞操を整えないと、と思ってね」
一つ一つ言葉を選んでいるようだったが、言い終わった後の彼女は早かった。
「まあいこう! 龍太の家へ!」
僕の横を通り過ぎ、空を指さしながら進む彼女の足は、しかし、僕の家とは反対方向だった。
「あの・・・・・・本当にジノリアさんですか・・・・・・?」
思わず動揺が漏れ出た。彼女は僕の方を振り向き、少し眉をひそめた。
「何疑ってるの。パスポート見る?」
「い、いえ構いませんけど。・・・・・・とりあえず僕の家、逆方向ですよ」
彼女の楽しそうだった笑顔は一瞬で苦笑いへと変化し、そうして、僕たちは帰路についたのであった。
彼女は玄関の前で感嘆した。
「ああ、龍太の家はこんなに小さいんだな・・・・・・」
「え、な、何を言うんですか人のうちの前で」
玄関は玄関でも、僕の隣の家の、玄関で感嘆していた。ちょっと目を離した隙に、早とちりした・・・・・・というべきか。僕には早とちりがこんな場面で使われるとは思ってもみなかった。
「早くこっちに来て、入って下さい」
次になにをしでかすかわからないこの爆弾を、僕の家はどう処理するかなど、考える暇もなく、僕は語気を強めて彼女を招いた。
無事に僕の家の玄関に辿り着いたジノリアは、慣れた手つきで靴を揃えて、迷うことなく廊下を突き進んだ。勿論、リビングへの扉を通りすぎて。
「ジノリアさん、今両親はリビングにいますよ、挨拶するならこっちです」
彼女からの荷物は既に届いていた。二階の部屋に置いてある。道中彼女は、まず両親に挨拶がしたいと言っていた。
「あ、ごめん」
彼女は囁いた。僕にとってはそれが必要以上であると感じた。
その違和感の正体は、かえって大きくする形で、明らかになった。扉を開けた彼女は、僕の、ごく短時間で作られた彼女の印象を大きく変えるものだった。
開口一番、彼女は、
「こにちは、わたし、じのりあ、です」
と片言の日本語で話し始めたのだ。
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