精霊の使い

宮里智

第1話 迎えに行こう、留学生。

 電車の音が遠くなっていく。きっとあの電車に乗ってきて、留学生は来たんだろう。僕は改札で、もう使い慣れたスマホをいじりながら、彼女を待つ。

 彼女が家にホームステイすることがわかったのはほんの一週間前の出来事。初めての留学生受け入れに、家はてんやわんやしていた。留学生に何が必要だろうと考え、悩み、選び抜き、購入。本当はそういう「きまじめな」日本人は留学生からすると負担になると思うのだが、人一倍日本人な両親は、妥協を許さなかった。

 ハウスシックになってはいけないと大掃除した前日、彼女から日本語でメールが届いていた。そこには、最寄り駅まで空港から一人で向かうこと、何分の電車で着く予定だということ、当日赤いTシャツを着て向かうことなどが書かれていた。vの字の口をした金髪青眼の女性の写真が添付されていた。

「飛行機に乗るます。楽しみです」

 と、締めくくられていた。

 僕が改札に目を凝らしていると、談笑しながら改札を出てくる金髪の女性二人。遠くからでもその会話が日本語からならないことを聞き取ることが出来た。一人は背が高く昨日のメールの服装とは異なり黒、もう一人は僕より少し低いくらいの、赤いシャツ。

 少し写真と違った顔で戸惑いつつも、女性はメイクで変わるんだよ、という古い友人の一言が僕に話しかける力を与えた。

「あの、すいません、八代です」

 背の高い方が留学団体の職員なのかと思い、声を掛けた。彼女はちょっと首を傾げたものの、背の低い方と共に足を止めることなく僕の前を通り過ぎた。

 唐突に若い女性の、流暢な日本語が耳に届いた。

「龍太! 初めまして、よろしく」

 声のする方を向くと、深い黒色をした短髪の女性がこちらへ向かってきた。

「あの、どなたですか」

 僕が訊くと彼女は髪と同じ色の目を細めて笑った。

「ジノリア。半年間お世話になるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る