RESET▷▶2話

「夢…?だったのかな。」


部屋に響く無機質なアラームを、腕だけを伸ばして止める。画面には7月14日と表示されていた。

カレンダーを見て確かめるも、剥がしたはずの七月の紙が残っている。

あれが夢でも昨日は8月13日だったはず。


「私…戻ってる?」


1ヶ月前に?本当に?


「夢じゃ…無かった…。」


部屋の中を確認すればするほど、それを信じるほか無かった─。


「やっば!学校!」


今日が7月14日だって事はまだ夏休み入ってないじゃん!

8時を指す時計を睨みつけて、制服に袖を通し、朝食もそこそこに家を出た。



学校までの道を普段は乗らない自転車にまたがって走り出す。ちょうど校門をくぐった頃、バッグに突っ込んだスマートフォンにチャイムギリギリの時刻が映っているのが見えた。


「やばい、やばい、やばいって!」


教室に続く廊下を猛ダッシュする。『走るな!』なんて張り紙は見えちゃいない。

後ろのドアを思いっきり開けて、自席にへなへなと座ると、担任の柳田やなぎたがかなり驚いていた。


「おい結城、大丈夫かよ。」


「すんません。寝坊です。」


「結城が遅刻ギリギリなんて珍しいなぁ。」


柳田が笑いながら声をかけるのを、笑って誤魔化す。

別に寝坊した訳じゃ無いけどさ、戻ってたんだもん。

なんて言っても信じてくれないうえに説明が面倒なのでカットする。


朝のHRが終わると、すぐに奏の席に駆け寄った。


「ねぇ!ねぇ!奏!奏!奏!」


「んだよ朝から騒がしい奴だなおい。」


そう言いながら奏はイヤホンを外す。


「奏!私のこと好き?」


「は?」


「私達って付き合ってるよね?」


「なにいきなり。お前頭大丈夫?俺がいつお前を嫌いになったんだよ。」


「よかったぁぁ…」


私はまだふられてない。だからこれからも、私はふられるわけにはいかない。


「ねぇ奏、何かして欲しいことある?」


「して欲しいこと?俺が和音に?」


「うん。そう。」


「うーん。じゃあチョコ買ってきてよ。それとねー…」


「へ?チョコ?ってそうじゃなくてさぁ!」


「なんだよ和音、今日お前なんか変だぞ。珍しく遅刻ギリギリだし、変なこと訊いてくるしよ。」


「変だぞ。変態!変態!」


「変態じゃないわ!馬鹿!」



やっぱり普通に聞いたってダメなのかも。そもそも、それで繋ぎ止められるかって言うのも微妙だし。

でも奏、嫌いになってないって言ってた。何かあるとしたら、この1ヶ月のうちで奏に嫌われるような何かがあったんだ…。


どうしたら奏は1ヶ月後もその先も私のそばにいてくれるんだろう。




「和音、いきなりで悪いんだけどさ、俺と別れてほしい。」


それは二回目の8月14日のことだった。

今度は嫌われたりなんてしないように、前よりきっと仲良く過ごしてきたと思っていたのに。

奏の唇はあの日のように掠れた言葉を私に向けた。


「…奏、どうして?私のこと嫌いになった?」


「ごめん和音。別れて。」


それ以上言葉は無かった。

ただ背を向けて階段を降りる奏を、何も出来ずに見つめていた。

一年前と同じ日差しの中、握り締めた右手には青い文字が浮かんでいた。


「この青春を…もう一度リセットできたら──」


頬を翔けた涙が青い花に、落ちた。

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